カリン・スローター『The Good Daughter』

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The Good Daughter: The best thriller you will read this year
The Good Daughter: The best thriller you will read this year

これもリラックス用に電子図書館で借りたが、お風呂で読む本としては失敗。途中で止められず、気がついたら浅い風呂のお湯がぬる〜くなっていたりした。しかもかなり心理的にやられる。リラックスなんかできず。でもとてもうまい作家だと感心。

米南部生まれのKarin Slaughter(1971 -) の2017年の作品『The Good Daughter』。

父は弁護士、母は科学者という家庭の姉妹サム(サマンサ)とチャーリ―(シャーロット)、頭がよく、運動でも奨学金を狙えるレベル。普通なら何不自由なく生活しているはずなのに、最近放火で家を焼け出され、一家でボロい農場に住んでいる。

実は父は犯罪者を弁護する立場。信念をもって熱心に引き受けている。殺人犯など重大な犯罪者をかばっている(ように見える)彼は、被害者やその身内、全然関係ない人までから憎まれていた。

しかも弁護してもらった犯罪者の中にも感謝するどころか逆恨みしたりするやつも。

そしてある日、家が襲撃を受ける。母は射殺され、姉妹のうち一人は走って逃げ、一人は森にとどまった。

ーー のが28年前のこと、姉妹のうち姉はニューヨークで特許弁護士に(遺伝的に見て最適)、妹は地元で父のような弁護士になり、互いに疎遠だった。その地元で再び重大な犯罪がおきた。小学校の発砲事件で教師と児童がひとりずつ殺される。アメリカでは毎月起きているケースだけど。そのときたまたま現場にいたのが妹のチャーリ―だった。

父はもちろん容疑者の弁護を引き受ける。現在の事件を探っていく中で父娘関係と姉妹関係の複雑なもつれが明るみに出、過去の事件の真実も明らかになる。

昔の事件は姉の視点と妹の視点で2度語られ、最後にまた別バージョンまであり、3回も残酷な暴力場面を読まなくてはならず、気持ち悪さが腹にくる。話の通じないどうしようもない人間というのはいるもので、そういのが武器を持つとどうなるか、ということが克明に書かれる。

でも実際に犯罪の被害者になった人なら記憶はこびりついて何度も思い返し、夢に見るだろう。安全圏にいる(しかもフィクションの)読者が3回ひどい場面を読むくらい、我慢しなさいよ、という作者の意図かな。

緻密に編まれたプロットに、登場人物ひとりひとりが単純でなく人間らしいのが面白く、ラストは良い方向に動いたので救われる。そこに行きつくまでが犠牲がいろいろ出て壮絶だけど。銃撃で頭が半分ふっ飛ぶとか、リアルな暴力描写が大丈夫な人にはお勧め。お風呂では読まないようにね。

 

 

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ミヒャエル・ハネケ『Happy End』

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今年の個人的、No.1映画はこれかな。ミヒャエル・ハネケ監督の『Happy End』。

Directed by  Michael Haneke

<Cast>

Isabelle Huppert as Anne Laurent
Jean-Louis Trintignant as Georges Laurent
Mathieu Kassovitz as Thomas Laurent
Franz Rogowski as Pierre Laurent
Fantine Harduin as Eve Laurent
Laura Verlinden as Anaïs Laurent
Toby Jones as Lawrence Bradshaw
Loubna Abidar as Claire

舞台はフランス北部のカレー。イギリスとフランスを結ぶユーロ・トンネルのフランス側入り口がある市で、近年は押し寄せる難民が頭の痛い問題となっている。建設業を営むローラン家の屋敷では、引退してちょっと認知症の老父ジョルジュと、家業を受け継いだ娘のアナとその息子ピエール、アナの兄(か弟)で医者のトマスとその妻が裕福に生活している。

ところが建設現場で事故が発生。対応に追われるアナ。

息子ピエールは、事故で重傷を負ってたぶんダメだろうと思われる移民労働者の家に謝罪に出向き、ボコボコに殴られて帰ったりする。

「すぐ警察に行かなくちゃダメじゃない。賠償交渉の時に有利になるのに」という母アナ。すごい、このくらいでないと経営者はやっていけないかも。ピエールはタフになりきれない性格のようだ。

ごたごたの中で、トマスの前妻が毒を飲んで入院、前妻の子エヴァが屋敷に一時引き取られる。

13歳のわりにあどけない顔のエヴァだが、実は毒物の取り扱いには慣れているのよね・・・。

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(12歳のファンティーヌ・アルドゥアン、もうすでにフランス女優の雰囲気)

物心ついたときからSNSがあった世代の彼女、お父さん(トマス)のパソコンに侵入して愛人とのメッセージを読むくらいお茶の子だ。でもその結果傷ついて無茶な行動に出たりする。

個性の強い人たちのエゴのぶつかり合いが見ている方としては面白く、「あ・・・ははは・・・」みたいに緩く笑える。

ブルジョアでも貧乏人でも、人生は面倒なことが次々と起こるものであり、都度、自分が最善と思う対処をとっていく。その連続で時間は経っていき、そのうちに新たな、理解できない若い世代も育ってくる。これは古代エジプト時代から変わっていない人間のいとなみだ。

父娘を演じるジャン=ルイ・トランティニャンとイザベル・ユペールはじめ俳優陣も良く、iPhoneのビデオや工事現場監視カメラなどの映像も駆使した、現代の様相を切り取った興味深いドラマ、とわたしは感じた。

ラストもびっくりで、ハッピーエンドなのかどうなのか、意見が分かれるところ。会場には失笑みたいなのがじわーっと広がっていた。

エヴァが引きとられたあたりのシーン:

 

 

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『Время первых』@ロシア映画祭

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今年の自分にとってのベスト映画がたぶん決まりましたが、その前に、ロシア映画祭で見たもう1本。

『Время первых』(2017)、英題は「The Spacewalker」となってましたが、もう1つのバージョン「The Age of Pioneers」(パイオニアたちの時代)の方が原題に近い。

主演がエヴゲーニー・ミローノフとコンスタンチン・ハベンスキーだから駆けつけただけですが、面白かった。冷戦時代にアメリカと宇宙開発を競っていたソ連で、初宇宙遊泳をなしとげた飛行士たちの話。

Режиссёр -- Дмитрий Киселёв

<Cast>

Евгений Миронов    -- космонавт Алексей Леонов
Константин Хабенский -- командир «Восхода-2» Павел Беляев
Владимир Ильин  --  генеральный конструктор Сергей Королёв

冷戦のさなか、宇宙開発競争は軍事競争でもあった。ソ連は世界で初めて人工衛星スプートニク1号を地球周回軌道にのせたり、ユーリイ・ガガーリンが初めて地球軌道を周回するなど、アメリカをリードしていた。次なる目標は、人間が宇宙空間に踏み出すこと。

ボスホート(Восход=夜明け)2号に乗り組むべく選ばれたのが、優秀で無茶なパイロットのアレクセイ・レオーノフ(1934- )と、優秀で冷静な先輩パーヴェル・ベリャーエフ(1925-1970)。

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本物のベリャーエフと、ハベンスキー。

性格が正反対の2人、最初はなかなかうまくいかない。

「お前は恐れを知らない。そんな危ないやつといっしょに飛びたくない」とベリャーエフがいったりする。が、とにかく猛追してくるアメリカに勝たなければならない。プロトタイプの打ち上げが失敗したのに、本番を飛んでしまう2人。無理矢理だー。

アメリカを出し抜いてレオーノフが宇宙遊泳に成功したのはいいが、宇宙服内の気圧が上がりすぎてパンパンに膨らみ、身動きできなくなったり。

やっと船内に帰れたと思ったら酸素が漏れ出したり、危機の連続。おそろしい。

ボスホートは軌道をちょっとだけ外れてしまい、どこに着地するか計算できない状態に。上部は「敵国に落ちて機密がバレるくらいなら、そのまま回ってろ」(=2人には死んでもらう)というが、開発責任者の天才科学者セルゲイ・コロリョフは宇宙飛行士たちを救おうとする。手動で大気圏再突入するのを許可。

どこに落ちるか分からないって、非常にまずい。ソ連は国土が広くてよかった。日本だと外れる可能性高いよなー。と感心している間もなく、今度は広すぎがアダになり、針葉樹の雪深い森の中に着地して、見つけてもらえない!!

せっかく任務を果たしたのに、こんなところで死んでは浮かばれない。でもマイナス30度、宇宙服に防寒機能はない。そのままだと確実に死ぬ。この最後のダメ押しのピンチがすごかった。彼らがアマチュア無線の民間人に発見されたエピソードも興味深かった。

わりと涼しい顔をして「勝った〜」なんていってたソ連、一歩間違えば大失敗の局面がかなりあったことがわかり、そんな中で沈着かつ大胆、時にはヤケクソで生きて還った2人がすばらしい。ピンチでもジョークを言ったり、性格が違ったから補い合ってうまくいったのだな、と映画を見たかぎりでは思った。

キセリョフ監督がゲストとして、まだ生きていて頭も冴えているレオーノフ本人に長時間インタビューして映画を作っていったなど、裏話を話してくれた。大気圏外から見た地球の非常に美しい映像は、大部分CGだそうだが、モスクワのソフトウェア・チームは、地球の位置と宇宙船の位置、そして星の配置を正確に再現しているのだそうだ。そんなところ観客は誰も気づかないだろうに、こだわっている。

あと、宇宙遊泳が成功しているときにはテレビでライブ中継し、まずいことが起きるといきなり「ボリショイ・バレエ」に画面が切り替わったのが笑えた。都合悪いとバレエ、よくあることだったそうだ。

観客とのQ&Aも盛り上がり、「あのブレジネフ書記長はどうなの?」と主としてロシア人が議論。「卒中前だからあのしゃべり方でOKなんだ」と細かいところで結論が出ていた。眉毛以外にもポイントあるのか。

この作品、もちろんロシアではウケたが、イギリスでは劇場公開予定はないそうで残念。でも今後、ソ連とアメリカの宇宙船が初ドッキングしたエピソードを撮る計画があるそうだ。これも期待できそう。

トレイラー:

 

 

 

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ミス・マープル2冊、『A Caribbean Mystery』と『Nemesis』

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A Caribbean Mystery (Miss Marple) (Miss Marple Series)
A Caribbean Mystery (Miss Marple) (Miss Marple Series)

日が短くなって、4時前には暮れてしまう。寒くて気温も低いし、暗いです。

こういう時にはアガサ・クリスティのミス・マープルもの。珍しく彼女がカリブ海のリゾート地に静養しに来たという設定の『A Caribbean Mystery』(1964、邦題「カリブ海の秘密」)。本の中だけでも太陽と暑さを感じたい。

小ぢんまりしたホテルに逗留するジェーン・マープル、そこのお客とも仲良くなり、ゴシップも仕入れる。話好きのパルグレイヴ少佐が、「実は、殺人犯の写真を持ってるんですよ」と見せようとしたが、ジェーンの背後の誰かを目にとめると慌てて写真をひっこめてしまった。(どうしたのかしら急に?)と思っていたら、その夜に少佐が死亡。血圧が高かったから〜ということになったが、腑に落ちないマープルさん、聞き込みを始める。最後に意外な犯人と、そいつのとんでもないたくらみが暴かれることに。

ここで知り合ったのが、すごいお金持ちでわがままなラフィール氏。老齢で体が弱っているが頭ははっきりしている。最初は単に、せんさく好きなおばあちゃんだ、とミス・マープルを軽く見るが、すぐに彼女のシャープさを見抜き、最後は協力してくれるようになる。

このラフィール氏がまた重要な役割をはたすのが、『Nemesis』(1971、邦題『復讐の女神』)。

Nemesis (Miss Marple) (Miss Marple Series)
Nemesis (Miss Marple) (Miss Marple Series)

実は彼はとうとう亡くなったのだが、死の直前に書いた手紙がミス・マープルに届く。ある件を解決してもらいたい。どういう件かは後でわかる。もし引き受けてくれるなら、ツアーに申し込んでおいたので、それに参加してくれ・・・という謎めいた内容。一度会っただけだが事件にいっしょに巻き込まれ、お互いを尊敬した2人だ。興味を引かれ、彼の手配で参加したのは「英国の美しい庭園めぐり」というのどかなもの。しかしそこで、参加者のひとりが殺される。

最初は「解決するって何を?」ということさえ不明なのが、だんだん手がかりが見えてくる。ラフィール氏がどうしても真相を明かしてほしい過去の殺人事件があったのだ。生前のラフィール氏にギリシャの女神「ネメシス」と呼ばれたことのあるミス・マープルが、彼の期待に応えるべく動く。ネメシスは復讐の女神というより、罪ある人間に正当な罰を与える、という感じのようです。犯人と直接やりとりする場面もあってけっこうドキドキ。

2冊ともビニールカバーに入れたiPadで風呂の中で読んだ。のんびりできる至福の時間だ。

ところでミス・マープルの映像化はあまり見ていないので、イメージは固定されていない。今回はなぜか女優ですらない料理家のメアリー・ベリーの顔になっていた。以前BBCでやっていた、ケーキ焼きコンテストの審査員さんです(笑)。ちょっとモダンすぎるかしら。

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未読の方は、こっちから先に読むと話がつながります。

カリブ海の秘密 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

 

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ドガ展@Fitzwilliam Museum

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Examen de Danse, Danseuses à leur toilette, 1880

ケンブリッジのフィッツウィリアム博物館でドガ展開催中。

Degas: A Passion for Perfection

フィッツには未完の油絵やデッサンなど、ドガ作品がけっこうある。そのコレクションに、今回世界から貸し出された作品も集め、ドガだけでなく同時代人、影響を受けた現代の画家まで、3つのギャラリーに展示されている。いつもここは太っ腹の無料です。

主として部屋(1)にはドガが修業時代にデッサンや模写をした様子や風景。(2)は例の14歳の踊り子の彫刻を始めとしたバレリーナの絵と三次元作品、(3)はヌードのデッサンと、後継の画家(フロイドやフランシス・ベーコンなど)。

まずドガの胸像がお出迎えしてくれる。

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Bust of Degas, Paul Paulin (1852-1937), 1907

クセのありそうなおじさまです。ドガだもんね。カフェで毒舌吐いて友達なくしたこともあるとか。

しかし若いころからせっせと描いている。アングルに倣ったり、レンブラントの真似してみたり。

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After Anthonis Mor's Elizabeth Valois (c.1865-70)

隣りにアントニス・モルの油絵の肖像画も飾られていた。どこかに惹かれて写したくなったんでしょうね。丁寧な筆致。

風景画も美しい。

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View of Rome from the banks of the Tiber, 1857 - 58

本物はもうちょっと色彩が沈んでいて遠くから見ている感じが出ていた。

何でも描けるがやはり人物が面白いドガ、特にこれはすごい。

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Three Women at the Races, c.1885

パステル画。この構図、すごくないですか。人物が容赦なく切れていて顔もはっきりせず、競馬場ですれ違った一瞬をとらえたかのよう。いったいどういう場面なのか、想像力がかき立てられる。

一番上の絵はバレエの試験を待っている少女たちの風景、これも切り取り方が冴えている。すごいわー。

彫刻はたくさんあったが、印象的なポーズがこちら。

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Dancer Looking at the Sole of Her Right Foot, modeled before ca. 1895–1900, cast 1920

これの前にベンチがあるので、次に行ったらスケッチしてこよう。

次の間のヌードデッサンがまた良いですが、時間がなくなったのでまた今度。

来年1月14日まで開催中。

 

 

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「ボリショイ」@ケンブリッジロシア映画祭

JUGEMテーマ:映画

251117-3

”ケンブリッジロシア語会”からメールをもらって知った「ケンブリッジ・ロシア映画際」、ロンドンで行われている映画際の分家?だそうです。平日夜にカレッジの講堂で行われ、地味に6作公開。初日は「ボリショイ」、春にロシアのテレビでトレイラーをやっていて見たかったのが来てラッキー。

『Большой』 (2017)

Режиссёр -- Валерий Тодоровский

<В ролях>

Алиса Фрейндлих — Галина Михайловна Белецкая
Валентина Теличкина — Людмила Сергеевна Унтилова
Александр Домогаров — Владимир Иванович Потоцкий
Nicolas Le Riche — Антуан Дюваль
Маргарита Симонова — Юлия Ольшанская
Екатерина Самуйлина — Юля Ольшанская в детстве

ユーリャは田舎の炭鉱町からモスクワのバレエ学校に入った。ボリショイ劇場のバレリーナになるのが夢。ちょっと労働者階級の男の子がバレエをめざす「ビリー・エリオット(リトル・ダンサー)」みたいな設定で、入学以後の彼女の苦労を追う。

裕福な両親から十分なサポートを受けられる多くのクラスメートたちと違って、単身がんばらなければならないユーリャ、なかなか根性がある。先生に言われたことが納得できなければ言い返したりもする。彼女の才能を見抜いているガリーナ先生は応援してくれるのだが…。

ユーリャ役はリトアニア出身で今はポーランドの国立バレエのコリフェ、マルガリータ・シモノワ。なんと本人が会場に来ていた。

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他の出演者もプロかセミプロのダンサーなので、ダンスシーンがリアル。みんな毎日真剣に練習にはげんだり遊んだり、悩みも苦しみもあるけど、「ブラック・スワン」みたいなえぐい話はないです。(あれはサイコスリラーよね)

自分の技を磨くことに精一杯で、人の足をひっぱるとか意地悪する暇はない。

リッチな親が金を積んで娘の役を買おうとしたりはするけど、子供たちは真面目にとりくんでいるし、誰もががんばっているのを知っているから友達にも優しい子が多い。

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面白かったのは、男子が好きな女の子のリフトができなくなっちゃうエピソード。普通のクラスメートは大丈夫なのに、意識しすぎてダメなようです。大人になれば「仕事」だから嫌いな女だろうが元妻だろうが持ち上げちゃうのでしょうが、思春期は繊細だ。女子の方がドライに、「卒業公演終わったらつき合ってあげるから、とりあえず落とさないでくれる?」と言うのだった。さすがプリマをめざす女。

ぶっ飛んだ話でなくわりとありそう、普通の女の子が自分を疑いながらも覚悟を決めていく過程を描き、ダンスと音楽が楽しめる、爽やかな映画。脇をかためる俳優陣も、がリーナ先生のアリーサ・フレインドリフをはじめとしたベテラン。なにげにニコラ・ル・リッシュが出ていたのはびっくりした。

最後にゲストの主役マルガリータの質疑応答。可愛らしい人で、「ケンブリッジは初めて来ましたー♡」と上手な英語で挨拶。リトアニア出身でワルシャワで働いて、何カ国語できるんでしょうね。この映画のダンサー・女優募集はFacebookで知ったとか、今らしい。ボリショイの舞台に立ったことはなく、この映画のプレミアで体験、と嬉しそう。演技の勉強はしたことがなく、監督が撮影現場でうまく指示してくれたそうな。

自分の体験からも、この映画はリアルだと思うそう。卒業後はある程度自分が分かっているが、学校時代は精神的にも大変で、「地獄よ〜」と言っていた。実感こもった言葉だった。

もっと大々的に公開すればいいのに、映画館ではやらないようで残念。

トレイラー:

PS:少女時代の彼女を演じたのは体操選手のカーチャ・サムイリナで、オリンピック級なのだそうです、道理で体が柔らかいと思った。

 

 

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BBCドキュメンタリー『Gulag』

JUGEMテーマ:映画

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ロシア革命100年ということで、テレビでも特集番組がある。ロシアの1チャンネルでは、革命に資金提供したアメリカのユダヤ人銀行家の動きの話などが面白かったが、ロシア語力が足りず、全部は理解できない。

再放送の2000年制作のBBCドキュメンタリー『Gulag』がパワフルだ。グラーク(ГУЛАГ)は強制収容所のこと。3時間の大作で、スターリン独裁下での収容所の生き証人をインタビューしている。ほとんど言いがかりのような「反革命」のレッテルを貼られて収容所送りになり苦しんだ人、その子供たち、看守、管理者、などなど、いろいろな立場の人が当時を回想する。

『Gulag』(2000)

Director: Angus MacQueen

レーニンの後継者としてソ連を強権支配したスターリン、邪魔になる者はがんがん粛清した。グラーグに収容された人100万人。「サボタージュ」とか「反スターリン」(雑談で悪口言っただけ)など罪はでっちあげられて「自白しろ」と拷問を受け、罪を認めるサインをせざるを得ない状態。その後すぐ処刑される人もいたが、多くは労働収容所で過酷な労働に従事した。

「すぐ処刑された人」が発掘された現場(スクリーンショット)、靴など映っている:

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親が逮捕されたという人は、夜中にKGBがやってきたことなどよく記憶している。その後子供は児童施設に送られて、「あなたのお父さんとお母さんは人民の敵だったのです」と教育されたそうな。おそろしい。

シベリア鉄道沿いに延々と収容所が配置されていた地図もすごい。収容所の労働力で一から作り上げられた都市もある。そこの地方政府の偉い人が自ら認めていたのは、

「自由な人を募って何もない土地に入植してもらう時間などなかった。囚人をたくさん連れてきて働かせればタダで開発ができる」

そういうことだったんですね。工場や鉱山など、囚人が作り上げた施設は無数にある。刑期を終えて収容所から出ても、他に行くところがなくて自分たちの作った市にとどまる人も多かった。

また優秀な科学者・エンジニアも捕まって軍事開発などに従事させられた。

そういう人はまだ待遇はましだったのかもしれない。一般労働者のひどい扱いはアウシュビッツと同じだ。女性だと別の身の危険もあって筆舌に尽くしがたい辛酸をなめた。だんだん見ているのが辛くなってくるが、3時間、見なければいけない。

看守など、管理側の人たちの記憶は囚人とだいぶ違う。

「しょうがない、当時はそういうものだと思っていたし、命令だったし」という。たしかにしょうがなかった。手を抜くと自分が密告されていつ囚人の立場になるかわからないのだから。それでも被害者でない人の記憶は正当化されるものだと思った。

「ピョートル大帝がペテルブルクを作るときは農奴を連れてきて働かせた。それと同じだ」なんていう人もいた。

でも、必要以上にサディストになった人間も多い。そういう人間が一定数出てくるものだ。

多数の人々が力尽きて亡くなった中、体力と気力があった囚人は生き残って昔を語っているが、今でも「常にパンがないと不安になって、まだあるのに買って貯めてしまう」という女性がいた。常に空腹だったときの名残だ。夜中に叫んでいる人はたくさんいるだろう。やられた方は忘れられないよね。

ロシア人だけでなく、勝手に村ごと根こそぎ移動させられたタタール人もいれば、戦争から返してもらえなかったドイツ人、日本人もいる。川を泳いで渡って来てみた中国人は、そのまま捕まってしまったそうだ。

「以前も泳いで行ったやつが二度と戻ってこなかったんで、こっちの暮らしはいいのかと思った」・・・ああ、アンラッキー。

スターリンひどいねー、だけでは済まない、人間性というものを考えさせられて嫌になるドキュメンタリー。でもロシア関係者でなくても見ておくべきと思う。動画サイトで「Gulag 2000 documentary」とかBBCとか入れると全編見れたりします。

 

 

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『The Anna Karenina Fix』ロシア文学で人生の問題を解決

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The Anna Karenina Fix: Life Lessons from Russian Literature
The Anna Karenina Fix: Life Lessons from Russian Literature

ヴィヴ・グロスコップ(Viv Groskop、1973〜)はジャーナリストとして活躍しながら、スタンドアップ・コメディアン(ひとり漫才みたいなの)でも成功しているという才能ある女性。2つの大学でロシア語とロシア文化を研究したそうで、彼女の書いた『The Anna Karenina Fix: Life Lessons from Russian Literature』を読んでみた。面白い。

ロシア(ソ連)文学の代表作を取り上げて作品と作者を解説しながら、自分の体験談なども交える。たとえば:

自分が何者であるか知るにはーー「アンナ・カレーニナ」、(または、列車に飛びこんではいけない)

人生に何が起ころうと立ち向かうにはーー「ドクトル・ジバゴ」、(または、身重の奥さんを捨ててはいけない)

自分の最大の敵にならない方法ーー「エヴゲーニー・オネーギン」(または、親友を決闘で殺すなかれ)

タイトルとサブタイトルを読んでいるだけで笑える。他に取り上げられているのはアンナ・アフマトワの詩に、「村のひと月」(戯曲、ツルゲーネフ)、「罪と罰」、「三人姉妹」、「イワン・デニーソヴィチの一日」(ソルジェニーツィン)「巨匠とマルガリータ」、「死せる魂」、「戦争と平和」と、重要な作家・作品をおさえている。

まず最初に、ロシア人の名前はなんで面倒くさく変化形がいっぱいあるのか、など初心者にもわかりやすく説明。結局”わけがわからない”という結論になるんだけど。

ロシア文学に熱中して90年代に留学までしたヴィヴ、イギリス人なのにロシア人になりきりたいという野望をもつ。珍しいやっちゃ。「グロスコップ」という自分の姓はロシアと関係ありやしないか、と調べたりする。−−ポーランドにいたユダヤ人で、親戚がカナダにいるということが判明。

ロシアで若い友人の葬式に出たり、ウクライナ人のミュージシャンとつき合って邪険にされたり、苦労しながら、辛いときにはロシア作家の作品をひもといて人生の糧にした。

たとえば「巨匠とマルガリータ」を書いたブルガーコフは当局のブラックリストに載っていて、作品は生きているうちには発表されないのが分かっていた。しかし彼はユーモアをもって荒唐無稽なフィクションを書く。笑いは人を救うと実感。

ウィットのある文章で、ロシア文学への入門ともなり、味のある人生の教えにも触れられる。

チェーホフの「三人姉妹」ではモスクワで育ったが地方都市に埋もれ、また戻りたいと願いながら果たせぬ三人の姉妹が描かれるが、

-- これが男の三兄弟ならチェーホフが生きていた当時でも「三人の兄弟がいました。彼らはモスクワに行きたかった。そしてモスクワに行った」とすごく短い話になるだろう、という。ははは、そうかも。

悪戦苦闘の後に「やっぱりロシア人にはなれない」と悟るヴィヴだが、決して楽でない人生を送った作家たちとその作品から、大切なことをいくつも学ぶ。

ロシア文学好きなら知っている作家や作品について新たな情報があって楽しめるし、紹介された本は全部読みたくなる。よく知らない、という人も、映画やドラマはしょっちゅう作られているので、ちょっと興味を持ったら手にとってみるといいかも。読み始めたら面白いこと請け合い。

 

 

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『Murder on the Orient Express』

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もう1つ話題作を見てきた。ケネス・ブラナー監督の「オリエント急行殺人事件」。もちろんアガサ・クリスティー原作で、何度も映画やドラマになり、真犯人はたぶんほとんどの人が知っている。それでも新作が作られるのは、やはり魅力があるからでしょう。

『Murder on the Orient Express』

Directed by Kenneth Branagh

<Cast>

Kenneth Branagh as Hercule Poirot
Tom Bateman as Bouc
Penélope Cruz as Pilar Estravados
Willem Dafoe as Gerhard/Cyrus Hardman
Judi Dench as Princess Dragomiroff
Johnny Depp as Samuel Ratchett/John Cassetti
Derek Jacobi as Edward Henry Masterman
Masterman
Michelle Pfeiffer as Caroline Hubbard/Linda Arden
Daisy Ridley as Mary Debenham
Olivia Colman as Hildegarde Schmidt
Sergei Polunin as Count Rudolph Andrenyi

エルキュール・ポアロをブラナー監督が、というのはちょっとひっかかる。全体に丸いポアロに対して、彼はどちらかというと四角い。

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まあそれはそれで受け入れ、気にしないようにして見る。

ポアロの乗った豪華長距離列車「オリエント急行」車内で、富豪のアメリカ人ラチェット氏が殺された。その夜に列車は雪崩で脱線、立ち往生。雪に閉ざされた列車の中、乗客の誰かが犯人?それぞれの聞きとりと現場検証、そして推理で真犯人がわかってくるが、その扱いをどうするか、思いがけず悩むことになるポアロ。

豪華キャストの面々、みんな容疑者(この人たち以外にもいます)。

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役者がそろって、それぞれに割り当てられた時間は少なくなるが、楽しめる。ラチェットを演じるジョニー・デップは濃いキャラがうまいし、ナタリア・ドラゴミロフ公爵夫人のジュディ・デンチは貫禄ある。ミシェル・ファイファーの謎めいたキャロライン・ハバード夫人も、デレク・ジャコビの マスターマン(ラチェットの執事)も怪しい、いやみんなアヤシイ。

バレエダンサーのセルゲイ・ポルーニンがアンドレニ伯爵役。重点はそれほど置かれない役だけど、突然キレて暴れたりするので目立つ。え、こういう人物だっけ??映画の世界でもいけそうなセルゲイだ。

全体的にオーソドックスな演出できちんと作られている印象。ポアロのアクション(!)も見られます。元警察だし、引退後だって取っ組み合いくらいしますかね。ブラナーは次作も撮る気があるようですが、どうなるかな。

トレイラー、ロシア語のを見てみた:

 

 

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「ブレードランナー 2049」

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今まで見た映画の中でお気に入りトップ3には絶対入る『Blade Runner』、オリジナルは1982年。もちろんストーリーも面白いが、それよりも美術や音楽を含めた雰囲気に中毒性がある。ディレクターズ・カットやら何やら、機会があるたびに映画館で観ている。その続編ができたのだから、あまり期待しすぎず(笑)出かけてみた。

『Blade Runner 2049』
Directed by Denis Villeneuve
<Cast>
Ryan Gosling as K
Harrison Ford as Rick Deckard
Ana de Armas as Joi
Sylvia Hoeks as Luv
Robin Wright as Lt. Joshi
Mackenzie Davis as Mariette
Carla Juri as Dr. Ana Stelline

前回から約30年たって、新型の無害なレプリカントができている一方、まだ古い型も生き残っていて、それをリタイアさせる「ブレードランナー」も仕事している。ロサンゼルス警察の新人のK、捜査の途上でとんでもないものを発見してしまう。人間とレプリカントを区別する一線が壊れるかもしれないという、やばい証拠。それを隠滅する指示を受ける彼だが、自分自身の存在にかかわる疑問がわき、それを解決するためにも、ずっと行方をくらましている昔のブレードランナー、デッカードを探すことになる。

背景、セットなど、すばらしく美しい。ピカピカにきれいな都市と、ばっちい場末や市外の廃棄物処理場まで、オリジナルを踏襲したリアルな作り。うれしい。

対して人物のビジュアルがやや弱いような(失礼)。

だってオリジナルに出ていたのは若きハリソン・フォードに、敵がダリル・ハナとかルトガー・ハウアー。

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主役のライアン・ゴズリングは可愛いが、作るときに比率を間違ったみたいな顔しているし(ほんと失礼!すみません)。21世紀にはあまりアクの強い俳優がいないのかな。

前回と比べると今の時代、AIは発達しているし、遺伝子工学も進んでいる。レプリカントもかなり現実味があるのではないだろうか。人間と彼らを隔てるギャップは、だんだん狭くなってくる。それも「SF」という感じではなく、ごく近い将来かも。

Kのバーチャル彼女、けなげですよ。いろいろ面倒くさい現実の女より良かったりして。

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あのくらいリアルなら、バーチャル・ジャーマン・シェパードのペットとかほしいな〜。

しかしテクノロジーの進歩は諸刃の剣、最終的に自分たちを脅かすものを作り上げてしまうのもまた人間だ。賢いのかアホなのか…。

「変な続編を作ったら許さん」というコアなファンが特に多いであろうこの作品、プレッシャーに負けずに良く作ったと思う。楽しめた。この次、もありそう?

トレイラー:

 

 

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