ラーシュ・ケプレルのヨーナ・リンナ警部シリーズ 3 & 4、「交霊」など

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スウェーデンの夫婦合同ペンネーム、ラーシュ・ケプレルによるヨーナ・リンナ警部シリーズ 、英訳版で6まで読了。もうなーい!去年の最新作を早く訳して〜。

前を忘れそうなので、急いで2冊まとめて書いておきます。

The Fire Witness」(原題『Eldvittnet』、2011年。邦題「交霊」)

問題を抱えた少女たちを保護・支援する施設で夜、「反省するための部屋」にいた少女と、建物の外にいた当直看護師の女性が惨殺される。翌日、施設の少女のひとりヴィッキーが失踪していることがわかる。彼女の枕の下から血まみれの斧が!しかも近くの林道で母親がちょっと目を離した隙に車が幼児ごと盗まれてしまう事件が発生。盗んだのはどうもヴィッキーらしい。

ここでリンナ刑事が登場、となるわけだが、彼は実は前作で強引な捜査をやり過ぎて内部調査が入っている身。なので自分の担当にはできないが、「オブザーバー」と称して担当刑事の捜査に口を出す。うるさい。(しかも彼がいつも正しいので、本当の担当者は悔しいw)

ホームレスのアル中お母さんに連れられて転々としていたヴィッキーの身の上が気の毒。6歳まで国にその存在も知られていなかった子だ。母と離されてからは里子や施設を渡り歩き、どこにも落着けない。

ヴィッキーが疑われ追われている中、かつて彼女を里子に迎えたが不安定なための問題行為が多く、あまりの大変さに根をあげてまた手放してしまったエリンという女性が責任を感じ、ヴィッキーを引きとれないかと動き出す。

また、いんちき交霊術で小遣いかせぎをしているフローラがからんでくる。本当は霊感などなく、「亡くなったお子さんはあなたを許していますよ」なんて客の聞きたいことを適当に言って商売していたのだが、この事件が報道され始めたとたん、本当に殺された少女が見えるようになった!血みどろの少女が、何か言いたい様子。思わず警察に連絡するも、もちろんまともに取り合ってもらえない。リンナ警部は一応彼女に会うが、「時間の無駄だったか」とがっかりすること数回。でも、ちょっとだけ気になるところがある。

ひっかかることは決して無視しない警部、丹念に犯人を突き止めていく。その身バレにフローラの霊視が絡んできて、19世紀のロシアじゃないから本当の霊ではなく…という説明もよくできている。

この回ではリンナ警部が、ある凶悪犯から家族を守るために取った思いきった手段が明らかになる。そして次回はついにそいつとの対決か?

ということで、4作目が:「The Sandman」、原題『Sandmannen』 (2012年)、ここからは和訳まだなし。

サンドマンとは幼い子の目に砂をかけて眠らせるおじさんのこと。ドイツが元の童話なのかな、イギリスでもよく聞く気がする。

幼い頃誘拐され、そのまま監禁されていたらしい青年がある日出現する。当時は亡くなったと思われていたが、リンナ警部は宿敵シリアル・キラーのユーレック・ウォルターがさらったと考えていた。しかもまだ妹が囚われているという。ユーレックは12年前にリンナ警部自身が逮捕して、その後は要塞のような特別刑務所の独房に入れられた後、一度も外に出されたことはないはずだ。外部に協力者がいるのか?

情報を聞き出すために、凶悪犯のふりをして隣りの独房に入る任務が、あの妖精姫サーガ・バウエルに与えられる。とんでもなく危険な役だ。まずユーレック自身が、『羊たちの沈黙』のレクター博士みたいな、人の心理的弱点をついてコントロールしようとしてくるタイプ、かつ凶悪。さらに、彼女が実は捜査官だとは刑務所の職員にも知らされていない。「ひえーすごい美人」と看守も犯罪精神医学の専門医も見とれ、中には下心を持つやつも。孤立無援な立場。ハラハラする。

サーガが危険を冒して得たわずかな情報をキャッチし、推理して解決の糸口を見つける警部とのチームワークがすばらしく、ユーレックの素性がわかってくる。が、敵もレクターもどきの頭脳、ただで済むはずはなく…と、スリリングなバトルが展開する。

3作目と4作目、ますます脂がのっている感じでうまい。こういう、粘着質の凶悪犯との心理的闘い、逃げられるかこちらの捜査が早いか、というサスペンスが、派手なドンパチ(2作はけっこう派手だった)よりも持ち味であり、面白い気がする。

この4作目ではラストでリンナ警部が…とびっくりする事態へ。でも5作目以後もあるんだから、まさかねえ。次が気になります。

 

 

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サンクトペテルブルク・マールイ・ドラマ劇場 「三人姉妹」

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ケプレルは5作目まで読了。6作目に突入したところで、「まあ落着け」としばらくお預けにしている。その前にロンドンでの観劇の覚え書。しばらく前衛的な演出しか観ていないチェーホフの「三人姉妹」をわりとオーソドックスなサンクトペテルブルクのマールイ・ドラマ劇場版で。

『ТРИ СЕСТРЫ』Малый драматический театр

<Creative>
Director - Lev Dodin
Producer - Oliver King and Ekaterina Kashyntseva for Belka Productions

<Cast>
Olga - Irina Tychinina
Masha - Elizaveta Boyarskaya
Irina - Ekaterina Tarasova

Andrei Prosorov - Alexander Bikovsky
Natasha - Ekaterina Kleopina/Nadezda Nekrasova
Kuligin - Sergey Vlasov
Vershinin - Igor Chernevich
Tuzenbach - Oleg Ryazanzev
Soleni - Stanislav Nikolskiy

会場は座席がちょっと狭い、昔ながらのヴォードヴィル・シアター。3階席だと、舞台の前方ぎりぎりで演技されると身を乗り出さないといけない。皆で一斉に乗り出す。そういう臨場感もまた良し。

ヴロンスキーの視点で描いたテレビドラマ「アンナ・カレーニナ」でヒロインのアンナを演じたエリザヴェータ・ボヤルスカヤ(マーシャ役)を生で見たいというミーハー根性もあり。やっぱり美人だった〜。(上の写真で真ん中で手を取り合っているのがマーシャとヴェルシーニン中佐)両親とも俳優で、「七光り」と言われたりする彼女だけど、環境を活かすにも努力が要る。やっぱり実力あるんじゃないだろうか。

モスクワで育った教養ある三姉妹が父の赴任先の田舎になじめず、都会に帰りたいと思いながら父の死などの事情で果たせない。期待の兄(オリガには弟)は大学教授になれず俗物の妻と結婚してしまい、ギャンブルで家を抵当に入れちゃう。夢破れながら自分の置かれた場所で生きていく彼女たち。1900年頃、女性には不自由な時代だったからねー、とはいえ現代でもこのような状況はいくらでもある。

仕事しながら弟妹の面倒を見ているうちに自分の婚期が逃げていく長女とか(オリガ)、十代のころに教師の夫をとても賢いと思い込んで結婚してしまったが今では幻滅し、新たに赴任したモスクワから来た軍人に惚れてしまう次女とか(マーシャ)。相手のヴェルシーニンがそれほどイケメンな訳ではなく、娘と自殺未遂癖のある奥さんとの家庭に疲れて、くたびれた男なのが普通っぽくて、リアルに感じる。この恋もまた幻想だよ。

そして、働く意欲に満ちていたのに実際就職してみたら毎日つまらなくて心身が腐りそうでイライラ、「これじゃない」と悩む三女とか(イリーナ)。結婚に逃げようと思ったら相手が決闘で倒され、ちゃんと働こうと気を取り直す。

けっこうありがちな状況だから、今でも世界で何度も上演されるんだなー。わたしはこういう目に遭ってないが、それは誰のことも気遣わず、好き勝手しているから、というのもあるなあ。と一瞬反省した(?)

思うようにいかないのが人生、耐えられないと感じつつ、でも何とか生きていけるのが人間。もう3人とも、モスクワへ行けるとは思っていないだろう。軍隊は次の赴任地に出発してしまった。これからどうなるんだろう…というところで終わりとなる。

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色が抑えられて落着いた舞台。ロシア語のセリフがきれい。マリインスキー劇場の「白鳥の湖」を観たような、古典にひたって目の覚めるような満足感がありました。そのうちペテルブルクでも見たいものだ。

ロシアでプレミア当時のニュース。ロシア語オンリーだけど舞台の様子なども見られます:

 

 

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ラーシュ・ケプレル「The Nightmare」

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夫婦でミステリを共同執筆しているラーシュ・ケプレルの第2作、『Paganinikontraktet』 (2010年)を英訳で。英題は悪夢という意味ですが、原作タイトルの直訳は「パガニーニ契約」、邦題の「契約」の方が近いですね。

若き平和運動の活動家ペネロペがボーイフレンドのクルーザーで週末を過ごそうとしていると、彼女の妹ヴィオラが飛び入りで参加することになる。ところが船出してから、昼寝していたはずのヴィオラが船上で死んでいた。もしかして自分たちも狙われている?ここからプロの殺し屋と思われる男がガンガン追ってくる。必死の逃走劇が始まる。

一方、スウェーデンの武器輸出を監督する「戦略製品査察庁」長官のパルムクローナが自宅で首つり自殺。どこから見ても自殺だが、ヨーナ・リンナ警部はなぜか納得できなかった。

関係なさそうな2つの事件、実は武器輸出にまつわる巨悪に接点があるとわかってくる。

相変わらず細かい疑問を放置しない頑固なリンナ警部が事件の真相にせまる。今回は社会派?でスケールが大きくスピード感抜群で、面白いです。

パガニーニは言わずと知れたヴァイオリンの名手、その超絶テクニックを手に入れるために「悪魔に魂を売った」なんて噂されている。死んだパルムクローナの後任となったアクセルは一時はヴァイオリニストを目指し、その後進路を変えた人。彼の音楽の知識が事件の謎解明に役立つなど、音楽の蘊蓄話も展開。

今回から公安警察のサーガ・バウエルという二十代の女性捜査官が登場。優秀なのにルックスが「エルフみたい」、妖精のお姫様みたいなので軽く見られ、手柄を同僚に取られたりしてしょっちゅうキレている。(北欧なのに)意外に女性差別的な警察組織では、バレリーナの容姿はソンなようです、がんばれ。

彼女の登場で主役の座を半分取られる?リンナ警部ですが、持病の頭痛や、恋人の考古学者ディーサとの関係なども描かれ、個人的な部分がわかってきます。え、考古学者と警部って、すれ違いが多くてなかなかデートできなそう(笑)。

1作目よりまとまりが良く感じ、飽きずに読めた。しかし武器関係は本当にやばいですね。壊し合うんだから儲かりますよ。恐ろしい。スウェーデンが武器輸出でけっこう上位国だとは知らなかった。この本では9位となってますが、最近は20位くらいに落ちたようです。

3週間で3作は無理だろうという予想に反し、次の3つ目もぺろっと読んでしまった。電子書籍(文字大き目)で全部で1400ページ超え。忙しいはずなのに、おかしいな。もっとも、章立てが細かくて、章の最後のページが3行だけなんていうことも多いけど。

 

 

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ロシア・ドラマ『Анна-детективъ』

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先日見た”キルサノワ嬢の事件簿”と同じ制作会社が、その2年前、2016年に作った人気ドラマ「探偵アンナ」。「キルサノワ〜」でヒロインのラリーサの婚約者(森の熊的イケメン・パーヴェル)と結婚の約束をしていたのは本当はワタクシ!と主張してラリーサを悩ませた美女役のアレクサンドラ・ニキフォロワが主演のオカルト?ミステリ。全56回(2回で1エピソード)!長いが見終わった。

『Анна-детективъ』

Создатель -- Юлия Венгловская
Сценарист -- Юлия Венгловская, Алексей Колмогоров
Режиссёр -- Денис Карро etc.

<В главных ролях>

Александра Никифорова  --  Анна Викторовна Миронова 19 лет, медиум
Дмитрий Фрид --   Яков Платонович Штольман, 37 лет, следователь
Сергей Друзьяк  --  Антон Андреевич Коробейников,  помощник Штольмана
Борис Хвошнянский  --  Пётр Иванович Миронов, дядя Анны
Ирина Сидорова  --  Мария Тимофеевна Миронова, мать Анны
Андрей Рыклин  --  Виктор Иванович Миронов, отец Анны, адвокат

舞台は1888年ごろのロシアの田舎町ザトンスク。弁護士の娘アンナは19歳、裕福な中流家庭の令嬢として英独仏語に堪能、ピアノやフルートなど音楽にも優れる一方、ちょっと変わった才能もある。霊感が強くて「死んだ人と話せる」こと。この才能は、仕事せずに兄の家に居候している高等遊民の叔父さんにもあったもので、しかもアンナの方が強い。

そこへ首都のペテルブルクから田舎の警察に赴任してきたのがヤーコブ・シュトルマン。ドイツ系やユダヤ系っぽい苗字って、医者とか頭のいい人によく使われますね。

なかなか渋い。37歳という設定。

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若いアンナは彼に一目ぼれしてしまったようで、殺人事件の捜査に協力しようと被害者(の霊)とコンタクト、シュトルマンに報告に行く。でもねえ、いきなり「犯人はこういう人」とか、「ここを探して」とか言われても…警察は根拠がないと動けませんです。シュトルマンは世間知らずのお嬢さんが何を言ってるんだ、と適当にあしらって自分で緻密に仕事し、でも結局アンナの言っていたことを裏付けることに。徐々にですが、彼女を見直すようになる。

霊が出てくるといっても、「こういう理由でこの犯人がこうやって殺しました。証拠はここにあります」って言われたら番組は15分で終了してしまう。場合によってはアンナが呼んでも来なかったり、自分が死んだことに気づかず混乱していたり、断片的な手がかりしかくれないことも。その情報と実際の捜査のからまり具合が面白い。でも化粧している鏡に背後から急に映りこんでくるのはやめてほしい、視聴者がびっくりする。アンナは慣れてるから平気なようです。

倍ぐらいの年齢の男に惚れちゃったアンナの恋も、すこしずつ2人の関係に変化が出てくるが、現実的には難しいよね。アンナのお母さんは、せっかく才色兼備に育ったのだからランクがひとつ上の貴族階級くらいと結婚させられたら、とやっきになっているし。

それにシュトルマンはそもそも、ペテルブルクで女性をめぐって決闘事件を起こしたために田舎に飛ばされたって噂もある。そのうちその元になった女性が引っ越して来たり、ドラマちっくなごたごた必至です。

アンナが可愛くてつい全部見たが、56回は多すぎ。最後の方はダレたり、森で変な実験をしているイギリス人(ガス兵器でも開発?)の伏線とか引っ張りすぎ、けっこうぐちゃぐちゃ。数人の脚本家チームが交替で書いている中でも「この人はうまいな」と思っていたカルモゴロフでさえすべっていた。「これとあれを片づけて、こっちをうまくまとめて」と無理な要求をされたのだろうか、と脚本家のブラックな労働環境を心配するほどだ(笑)。(ちなみにカルモゴロフは、次のキルサノワではチーフ脚本家に出世)

To be continuedな終わり方だったので第2シリーズも作れると思うけど、どうかな。まず女優ニキフォロワがすっかり成熟して、アンナの少女っぽい危なさが失われたように思う。「10年後に〜」という設定にすればいいのか。でもキルサノワの続編の撮影と重なったらどうなる。こっちでも大事な書類を盗んで逃走中だから活躍するだろうし、と余計なことが気になります。

トレイラー:

 

 

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ラーシュ・ケプレル「The Hypnotist」

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160619

このところ天気が安定せず、冷たい雨が1日降ったり、イギリス中部では洪水がおきたり。でもたまに天気がいいときは最高です。↑先日ケンブリッジの植物園で撮ったスマホ写真。

電子図書館で借りた、スウェーデンのLars Kepler作「The Hypnotist」を読む。原題は『Hypnotisören』、2009年。邦題は「催眠」だそうです。

ラーシュ・ケプレルは作家夫婦アレクサンデル・アンドリルとアレクサンドラ・コエーリョ・アンドリルがミステリを共同制作するときの筆名。最初は完全匿名にしていて話題を呼んだとか。クセの強い(「俺は間違わないから」)凄腕警部ヨーナ・リンナが活躍するシリーズの、第一作目になる。英語だと627ページ。

ストックホルム郊外で一家が惨殺された。離れたスポーツ施設で父親が、家で母親と幼い娘が殺され、15歳の少年が血の海の中、虫の息で発見される。強い恨みがあるようだ。この家族にはもう一人、離れて暮らす成人した長女がいる。

彼女にも危険がせまっているかもしれないと、リンナ警部は意識不明の少年から情報を聞き出すために変った手段に出た。催眠療法で有名だったが10年以上それを封印している医師バルクに、再び催眠術を使ってくれと依頼したのだ。

この一家惨殺がメインの話だと思いきや、違った。主題はバルク医師が催眠療法を辞めてしまった原因、そこから派生した問題の方だった。しかも画廊のオーナーである奥さんとの夫婦仲もぎくしゃくしている。そのうちに一人息子ベンヤミンが誘拐されてしまう。一家殺人の犯人のしわざか?

600ページ強よりも長く感じるてんこ盛りな内容だった。初作だからはりきっちゃったのかも。夫と妻のどっちが、息子が誘拐されて行方不明中に妻が不倫するなんていう話を考えついた?(笑)

さらにこの奥さん、引退した優秀な警察幹部だったお父さんに「パパの方が話が早いわ」と独自捜査を依頼しちゃう。

みんな懸命に殺人鬼とベンヤミンを探すが、動きがバラバラでお互いの連絡が悪すぎ。落着いてチームワークすれば解決はだいぶ早かったのじゃないかと思う。

意外な犯人、犯人のヤバさの印象が強く、伏線もきちんと生きていて面白く読めた。リンナ警部の印象がまだ薄いかな。金髪で背が高いようだ。同僚に「おいムーミン」と呼ばれたのは、きっとフィンランド語が母語の人だからでしょう(体型じゃなく…)。

借りたバージョンは1作目から3作目まで一気に入っているもの。残り2作も3週間以内に読めるだろうか。電子図書館は延長ができない(また借りればいいんですけど)。このまま雨がちの天気が続いたら読了できるかな。

 

 

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ハンブルク美術館

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090619-1

Wanderer über dem Nebelmeer, CASPAR DAVID FRIEDRICH, 1817

ハンブルクではバレエの会場・州立歌劇場から歩いて5分のホテルに宿泊。中央駅横にあるメインの美術館『Hamburger Kunsthalle』も徒歩圏内で便利だった。3日目に午後いっぱいここで過ごす。入場料は14ユーロ、これで特別展でもどこでも入れる。

「あなたここにいたの?」と思ったのが上の、カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ(1774 - 1840)のロマン主義の名作『雲海の上の旅人』。これは目玉作品、美術館のHPでも最初に出てきます。

コートの濃い緑がきれい。そーっと後ろから近づいてどつこうとしても、その腕をぐいっとつかまれて背負い投げで自分が谷底に落とされそうな、隙のなさでした。(いや、絵の中の人をどつこうとしちゃダメです)

同じくフリードリヒの、こちらも迫力ある。

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Das Eismeer(氷の海), 1823–1824

よく見ると船の残骸が混じってます…。

他にもイタリアの宗教画もドガもある、まんべんなくカバーされてバランスのとれた展示。ハンブルクの裕福な個人が寄付したコレクションから始まったそうです。貿易・商業で栄えてましたから、リッチな層も厚いのでしょう。

ただ、美術学校というものがしばらくなかった。ハンブルク造形美術大学の元になった学校が1767年に創立だそうですが、職人養成学校みたいな感じだったのかな(想像です、裏とってません)。それでハンブルク生まれで芸術で身を立てたい人たちはドイツ各地や北欧に修業に出たよう。その後地元に戻る人もいて、「ハンブルク派」を形成。

そのハンブルクの画家たちの作品が、面白かった。もちろん知らない人ばかり。

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Selbstbildnis, Bruno Piglhein, 1874

ブルーノ・ピグルハイン(1848 - 1894)の自画像。わんこがにやけている。彼はミュンヘン分離派の創立メンバーだそう。

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Gang in der alten Anatomie in Weimar, Hans Speckter, 1882

ハンス・シュペクター(1848 - 1888)は挿絵で有名なオットー・シュペクター(ラプンツェルなどが有名)の息子で、イラスト画家とのことですが、これは油絵の作品。ドラマか映画の一場面のようだ。ドアとか、壁とか気になります。

特別企画展でハンブルクの画家フリードリヒ・アインホフ(1936 - 2018)を特集していた。上記ハンブルク造形美術大学で学び、教えていた人。

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Figurengruppe, Friedrich Einhoff, 2008

人間と空間、人間とグループ、のような一連の作品が面白く、引き込まれた。もっと見たい。

デンマークの画家の特別展覧会。ヴィルヘルム・ハンマースホイが何点かあり。

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Young Girl Sewing. Anna Hammershoi, The Artists Sister - Vilhelm Hammershoi, 1887

相変わらず色合いがしんみりして落着きます。

気がついたらカフェにも入らず4時間以上うろうろしていた。古典から現代アートまで、いろいろあって楽しめる。静かで混んでいないのも助かります。次回はまる1日籠って見たい。

 

 

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ハンブルク・バレエ『Illusionen - wie Schwanensee』

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ハンブルクはもしかしたら”吉方位”だったのかもw、帰ってから仕事が繁盛しすぎてめちゃ忙しい。

せっかく見たバレエを忘れないうちに…。

『Illusionen - wie Schwanensee』、邦題は直訳「幻想 ― 白鳥の湖のように」だそうです。初演は1976年。

Music: Peter I. Tchaikovsky
Choreography and Staging: John Neumeier
Choreography "Second Remembrance" after Lev Ivanov, reconstruction with the collaboration of Alexandra Danilova
Choreography of the Grand Pas de deux in the "Third Remembrance" after Marius Petipa and Lev Ivanov
Set and Costumes: Jürgen Rose
<Cast>

(23日)
The King -- Alexandr Trusch
The Man in the Shadow -- David Rodriguez
Count Alexander -- Matias Oberlin
Prince Leopold -- Karen Azatyan
The Queen Mother -- Patricia Friza
Princess Natalia -- Madoka Sugai 菅井円
Odette -- Xue Lin
Prince Siegfried -- Florian Pohl

(25日)

The King -- Christopher Evans
The Man in the Shadow -- Marc Jubete
Princess Natalia -- Hélène Bouchet
Count Alexander -- Jacopo Bellussi
Odette -- Anna Laudere
Prince Siegfried -- Dario Franconi

ただの「王」となっていますが、上の写真のようにノイシュヴァンシュタインみたいな城の完成予想模型などに執着している姿から、ああ、あの、芸術とお城の建設が好きで国を破産させそうになって最期は湖で疑惑の事故死しちゃったバイエルン王ルードウィヒ2世だな、と想像がつく。

精神を病んでしまって世間に出せなくなった王を一室に閉じ込めるシーンから始まるバレエ、閉じ込められている現実と、王の回想・幻想シーンが交互に出てくる。

第1幕の回想は、庶民のお祭りの風景から、貴族とのつき合いも描かれる。昔の服装や秋のような色合いがドイツらしい。庶民にも敬われている若い王だが、為政者としてやっていくのは辛いようだ。奇矯な行動も目につく。そしていつもこっそり来てひっそり近くにいる「影の男」をひどく怖れている王。こいつは誰なんだろう、もう一人の自分でしょうか。ジーキル・ハイド式の?

第2幕からはいよいよ「白鳥の湖」の世界に。劇場でバレエを鑑賞した王は、物語に入り込みすぎ、オデットさんが本気で好きになる勢い。舞台に乱入して自分がジークフリート王子の役を踊っちゃう。

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この舞台の下手には、「あの、それぼくの役…」と固まった王子がそのまま立ってます。可哀そう。

「白鳥〜」のときは古典的な振付で、普通のバレエ。4羽の小白鳥の踊りもあります。音と振付が完全にマッチし、やはりチャイコフスキーの音楽はこのために作られたのがわかる。その他のシーンもチャイコフスキーの音楽が使われているが、(ここで大きな動きがありそう)という部分がスルーされることも何度かあり、完全に合わせるのは難しいのだな、とも分かった。(ノイマイヤーの計算の上なのかも)

3幕では舞踏会、華やかなシーンに悪夢が侵入してきて、最後は王が「影の男」に捕獲されちゃいます。お気の毒に…それともやっと解放されたのかな。

ロシアで「白鳥〜」が初演されたのが1877年、ドイツでの初演は20世紀になってからだそう(Wikipedia情報ですが)。ルードウィヒ2世がこのバレエを見たことはないでしょう。フィクションなんだから問題なし。

自分は現実の王なのにフィクションのおとぎ話の中の王子になり代りたい、虚構の中に生きたいという、現実逃避で夢に生きていた彼の心の中をのぞくのは恐ろしいが美しいです。

1973年から芸術監督のジョン・ノイマイヤー、アメリカ人だけど、苗字からいってドイツ系? クラシックに基づきながら演劇性の高い演出。3階席から見ていると、舞台の人の配置も計算されているのがわかる。しかもメインの踊りが行われている後ろや袖の方でもいろんな動きがあり、気をつけて見ないといけない。最初は話を追うので精一杯、いろいろ見逃していたので、2回行ってよかった。

英仏やロシアとも違う、独自の世界を構築しています。他にも「ニジンスキー」や「ヴェニスに死す」など面白そうな作品がたくさん。あと3年勤めることが決まったとかで、彼がいるうちにまた行かなくては。

ドイツ語で解説されてます。「ノイマイヤー」って言ってるところはわかる(笑):

 

 

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ハンブルクに行ってきた

JUGEMテーマ:旅行

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ジョン・ノイマイヤーが芸術監督をつとめるハンブルク・バレエを見るために、3泊4日で行ってきました。オーストリアは二度訪ねているけど、ドイツは初めて。「赤信号では車が来なくても止まってろ」と自分に言い聞かせる(笑)。

人口約175万人のハンブルクはハンザ同盟の港町として栄え、今でも港はヨーロッパで第二の規模だそうです。市庁舎(上の写真)が立派!ちなみにここさえ覚えれば、街で道に迷っても「市庁舎まで〇〇m」という標識がよく立っているので安心。

今回はバレエが目的で、昼間は「美術館には行こう」程度のノープラン。初日は朝のフライトで到着、Sバーン、Uバーンを乗り継ぎ30分で中心街へ。州立歌劇場から徒歩5分のホテルにチェックインして近くの様子を見てから夜にバレエ。

翌日はフリー、適当に散歩。

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2017年にオープンしたエルプフィルハーモニーのホールへ行く。ここは見晴し台に無料で入れる。窓口で整理券をもらってエスカレーターで上った。いつかコンサートにも来たい。

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ぐるりと全方向を見られる。もちろん大きな港も見られる。

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向こう側、コンテナが長〜く並んで運ばれて行く。

ハンブルクの倉庫街は世界遺産だそう。

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赤レンガの高さのそろった倉庫群は美しいです。ここは時間かけて写真を撮りに再訪したい。

街の建物にも船のモチーフが多い。

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3日目は美術館で日中4時間以上過ごし、夜はバレエなのでホテルで休んだり。

4日目は夕方の飛行機まで時間がたっぷりあり、ホテル近所の植物園を散歩。

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街の真ん中にこういう緑地があるのは良いですね。あいにく小雨が降ったり止んだりの天気だったけど、歩き回るのは気持ちがよかった。

カフェで名物「フリッツ・コーラ」を飲む。

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ハンブルク産のコーラ、原材料にちゃんと本来の「コーラ・ナッツ」を使っている、甘さ控えめ。3年に一度くらいしかコーラは飲まないわたしが美味しいと思った。

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とはいえ砂糖は36g入ってますね。

観光らしいこともあまりせず、歴史博物館など興味のある場所は次回のお楽しみです。ドイツ語は「Duolingo」で初歩をおさらいした程度でも、挨拶や買い物に使えて便利だった。もっとも「切手を2枚ください、日本あてです」くらい英語で言ったって向こうは理解できますよね。自己満足のレベルです。

そうそう、テレビで「刑事コロンボ」をやっていて、ドイツ語吹き替えだから当然わからない中、急に内容が脳に入ってきたと思ったら、お掃除のおばさんが(ロシア移民?)コロンボにロシア語で話しかけるシーンだった…。

おまけ:ニベアの自販機。面白がって買う人がけっこういた。

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イアン・ランキン『The Travelling Companion』

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2007年放送のBBCドキュメンタリー『Ian Rankin Investigates: Dr Jekyll and Mr Hyde』、再放送を見た。推理作家イアン・ランキンが、ロバート・ルイス・スティーヴンソン(1850 - 1894)作「ジーキル博士とハイド氏」(The Strange Case of Dr. Jekyll and Mr. Hyde)の創作の裏話を紹介、スティーヴンソンのドラッグ癖とか、インスピレーションとなったロンドンの著名な医者の家などを見せてくれて興味深かった。2人ともスコットランド出身でエディンバラに縁がある。大学時代にスティーヴンソンに多大な影響をうけたランキンならではの視点だ。

そういえばランキンの作品をひとつも読んでいない。『リーバス警部』シリーズで有名なようだが、まずは比較的最近、2016年の中編『The Travelling Companion』を。

作者と同じくスティーヴンソンを研究している青年ロナルドは、大学卒業後の夏休みにパリに滞在、たまたま、英語の古書店の主人に出会い、店の一室で寝泊まりさせてもらう代わりに軽い店番などすることになった。仕事は楽で自由時間はたっぷりあるし、狭いが寝る場所はタダ、ラッキーだ。

しかもある謎めいた古書収集家がロナルドに、発表されなかった「ジーキル〜」の初稿と、これも出版されなかった『The Travelling Companion』が、

「ありまっせ…」と言ってくる。

ええっ! そ、それは、「実はロシア語で書かれていた『ロリータ』の最初の構想スケッチ」みたいなものだよ。たとえが悪いか。

もちろん一目見たいロナルドだが、そんなにすぐには読ませてもらえない。そのおっさんの信用を得ないと。しかし突然現れたアリスという若い女性が「あの人はたまに悪いジョークをしかけてくるから、気をつけた方がいいわよ」と警告する。

いつも急に出てくる不思議なアリス。彼女にも惹かれるが、でもやっぱり、世界のスティーヴンソン研究者が存在すら知らない貴重な文献、手にしたい…。

そのうち赤ワインの飲み過ぎとドラッグも手伝い、ロナルドの精神に異変が起こってきて〜という、ジーキルとハイドを地で行くような展開。予想はつくけれども面白く、オチがじわっと怖い1編。

ついでに、青空文庫に古い翻訳があるので久々に読んでみた:

ジーキル博士とハイド氏の怪事件

この作品、だいたい小中学時代に読んでしまって分かった気になっているけど、読み返してみると大人向きで複雑な話ですよね。悪いハイド氏は純粋に悪いけど、ジーキル博士は善悪両方残っていたとか、(そうだったんだ)という部分がたくさんあった。名作はたまに読み返すと発見があります。

 

 

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オーストラリア・バレエの「スパルタクス」

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バレエ「スパルタクス」といえばボリショイの十八番、ユーリー・グリゴローヴィチ振付の版しか見たことがない。オーストラリア・バレエが踊るというので物珍しさから映画館へ。当然ながら全く違う演出でした。

『Spartacus』

Choreographer: Lucas Jervies
Music: Aram Khachaturian

<Dancers>

Spartacus: Kevin Jackson
Flavia: Robyn Hendricks
Crassus: Ty King-Wall
Tertulla: Amy Harris
Hermes: Jake Mangakahia

ローマの捕虜となり奴隷の身分に落ちたトラキアの王スパルタクスが反乱を指揮し、一時は大勢力となるも、結局はローマ軍に破れて死す、という、一部史実に基づいた物語。ソ連版だとストーリーなんかはしょって単純化、男性的で力強くスピード感ある舞踏を披露する。

オーストラリア版は、英語圏だからかな、ちゃんと納得できる話に仕上がっている。スパルタクスが奴隷になって妻フラヴィア(ロシアではフリーギア)と引き離され、親友ヘルメスと共に剣闘士としての訓練を受ける。元々当時の王だから腕は立ち、親友と共にすぐに上級剣闘士に昇格、しかしそのために、娯楽として競技場で友と闘わされ、殺すはめに…など、丁寧に描いている。スピード感が犠牲になるのは否めない。

ローマ執政官クラッススのヴィラの様子:

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1階でお客と共に楽しんで油断しているときに、こっそり反乱軍が2階を占領している。まさかの入浴シーン(笑)!ローマといえば風呂だよね。手前はいち早く妻を救出に来たスパルタクス。

敵役クラッススも家では良きパパで、小さい息子と戦いごっこをして「やられたー」と倒れるふりなどしている。可愛い。成敗しにくいじゃないか。

ロシア版では大軍へと膨れ上がった反乱軍が感じられるが、どうもオーストラリア版は少人数のゲリラっぽく、重要な最後のバトルも機動隊に素手で立ち向かうデモ隊くらいの迫力しかなくて、やや残念。ニュージーランドのラグビー選手が試合前にやる「ハカ」?みたいな踊りも見せるのは、さすがオセアニア。

古代ローマ兵に扮した男性ダンサーの群舞や猛スピードで舞台をすっ跳んで横断していくスパルタクスは見らなかったけど、別の作品と思えば面白い。

気に入ったのが、スパルタクスの奥さんがロシア版だとか弱く、ひたすらなよなよしているのに対し、オーストラリアの「フラヴィア」は、「触るんじゃないわよ!」と敵にけっこう気丈に反撃していたところ。そうそう、クラッススの奥さんも、ヴィラにゲリラ隊の侵入をゆるした夫を、「あんたがしっかりしてないから!」とボコっていた。女性強い!

反乱する側・される側、どちらにも言い分はあるという「スパルタクス」でした。

ちなみに知り合いのロシア人に話してみたら、

「へえー、見たいかも。昔の単純なスパルタクスにはもう、うんざりだよ」とのこと。ソ連時代から死ぬほど何度も観たのだろうw

女性の活躍するシーンを集めたトレイラー:

 

 

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