デミアン・ハースト展
JUGEMテーマ:アート・デザイン
 
130512_2
Sympathy in White Major - Absolution II 2006 (detail)

もう1週間前ですが、テート・モダンのデミアン・ハースト(Damien Hirst、1965 -)展に行ってきました。
ハーストというと、子牛をまっぷたつに切断してホルムアルデヒド漬けにした、というのが有名で、あんまり見たいと思ったことがない。
でもイギリスのコンテンポラリー・アートの重鎮だし、牛以外もあるというので出かけた。

130512_1
Mother and Child Divided 1993

問題の牛、ターナー賞の受賞作。
本物の牛さんがタテに半分になっていて、1頭を2つの水槽に分けて入れている。灰色の内臓の細部を見ながら2つの水槽の間を歩ける。
これは牛をわざわざ殺したのではなく、自然に死んだのを譲ってもらって加工したのだそうだが、それでも物悲しい。

一方、色彩感覚が優れている彼のドット、クオリティが高い。

130512_5
Anthraquinone-1-Diazonium Chloride 1994

大きな作品。仕事の仕上げがきれいです。

このきれいなカラーの路線のような、クスリの棚。

130512_6
Lullaby, the Seasons 2002 (detail)

クスリ好き?薬局全部↓

130512_4
Pharmacy 1992

クスリのパッケージは、特に病院用のは愛想がなくて、つまりうるさくない。並べると清潔な感じで面白い。
他に医者の使う手術用道具が並んでいる部屋も、機能的でピカピカ光る器具の冷たさが伝わる。

頭がいい人だな、と思った。
アイデアを形にし、計画をたてて進め、仕上げもきっちり完成させる頭脳がある。
こういう作品だからいろいろチームワークも必要だろうし。
「ビジネスに向かない人は、アートにも向いてないわ」とトレーシー・エミンが言ったそうだが、ハーストはどっちも能力ある。

つい、比較的きれいな作品を選んだけど、大きなガラスケースの中に死んだ牛の頭が転がっていて、それに蛆がたかりハエがぶんぶん飛んでるのとか、直径数メートルの円がハエの死骸でできているのか、グロいのもいっぱいありましたとも。

思いついたんですが、映画の「オーメン」が公開されたのが1976年。
デミアン(=ダミアン)・ハーストは11歳か。
有名な映画なので、もしかして教室で、
「やーい、悪魔の子」っていじめられたのかな(笑)。
そのせいでこんなことに・・・なんてことはありません。デ(ダ)ミアンはけっこうよくある名前だし、みんなが死骸好きのアーティストになるわけないよね。

さて死骸編。


130512_7
Doorways to the Kingdom of Heaven, 2007

この美しい、ステンドグラスのような模様は、蝶の羽をはりつけたもの。

全部蝶。
130512_3

自然の作った色が実に豪華ですが、見ていると少し寒くなってくる。
本物の蝶の羽でなければいけなかった、その必然性は理解できるけれど。

途中、蝶が生きていてヒラヒラ飛んだり果物の果汁を飲んでいたりする部屋があった。
イギリスにはいない種類のような蝶はどこからか運ばれたのか。壁に空のさなぎが貼り付けてあり、そこから出てきたらしい。
蝶はマイペースで飛んでいたが、いかにもはかなそう。蝶が死ぬのを待っているデミアンの影も想像してしまうのだった。

アートって何ですかね。
どちらかというと左脳刺激型の?展覧会かも。
テート・モダンで9月9日まで

| ろき | 美術館・展覧会など | comments(12) | - |
デッサン教室  くり返し
JUGEMテーマ:アート・デザイン

デレク先生のデッサン教室、今回は同じポーズを二度描いたり、同じ紙に2つポーズを入れる。
また、一つのポーズを描きながら、詳しく描きたい部分だけクローズアップすることも。

「だって人体デッサンって、人物が紙の真ん中に入っているのがありがちでしょう。いつもそれだとつまらないよね」とのこと。

クイックポーズ、2分半。
 
300412_1

38 x 28cm、竹ペン、クインク。
モデルは新人メアリ(みなさん仮名)。黒いブーツを履いたまま。

複数ポーズはいいけど、自分で注文するのと違って教室では次のポーズがどうくるか分からない。賭けです。

300412_2

クインクは水性なので、後で水をふくませた筆でぼかすことができる。

300412_3

顔をクローズアップ。聡明そうな大学生です。

↓ これは上のが乾く間に描いていた3つ目。

300412_4

水彩も少し使う。

長時間ポーズは20分ずつ2ポーズだった。右のから描いていき・・・スペースが余ったかも。

300412_5

これはA1で大きい紙。
どちらのポーズも難しく、組合せるのもやっかいだった。
ゴロゴロして暇そう(笑)。

今のところペンによる線がメイン。この路線でいいような気もするが、次ぎは先生が水彩の新技法(失敗なし!)を教えてくれるというので、トライしてみようかと思う。

| ろき | 作品・習作 | comments(8) | - |
「明日に向って撃て!」
JUGEMテーマ:映画 

交番で住所をしゃべって無事飼い主の元にもどったインコちゃんのニュース、BBCでも人気が3位くらいになってました。おりこうだね。

さて、突然ですが西部劇。

明日に向って撃て!(特別編) [DVD]


『Butch Cassidy and the Sundance Kid』
ジョージ・ロイ・ヒル監督 1969年    

ブッチ・キャシディ     ポール・ニューマン
サンダンス・キッド     ロバート・レッドフォード
エッタ・プレース     キャサリン・ロス

先日ラジオから、きれいな弦楽の演奏が流れてきた。優雅なメロディに軽快なリズム。調べてみたら、”South American Getaway”、映画の挿入曲を編曲したものだった。
邦題は「明日に向かって撃て」、たぶんテレビで見ているはずだけど、まったく覚えていない。

ちょうど仕事で西部劇について知る必要もあり、図書館でDVDを借りてきた。

江戸時代のことを勉強するのに『水戸黄門』を見るようなもの?ちょっとずれてるかもだけど、まあ細かいことは言わず。

ストーリーはゆるく実話に基づいている。
ブッチ・キャシディとサンダンス・キッドは19世紀末にアメリカで活躍と言うか暗躍したアウトロー。列車強盗や銀行強盗を重ねておたずね者となる。南米ボリビアまで逃げのびるが、最後は軍隊まで動員されて銃撃戦の末死ぬ。

犯罪者が追いかけられ、追いつめられる話なのに、妙にのどかでユーモラス、楽しい映画。当然ながらポール・ニューマンとロバート・レッドフォードが若い!

軽口ばかりたたいているブッチと、無口で銃の腕がいいキッドのさらっとした友情がほのぼのする。

ボリビアにはキッドの恋人のエッタと3人で逃げるが、そこでも銀行強盗をするために、スペイン語の練習をする。
エッタは学校の先生なので学があるのだ。

「手を上げて壁を向け」とか「金庫をあけろ」とスペイン語で暗記するアウトロー(笑)。

バート・バカラックの音楽がよくて、主題歌「雨に濡れても」も名曲。ちなみにこの曲が流れるとき、雨は一滴も降っていない。ニューマンがキャサリン・ロスと自転車に二人乗りしてはしゃぐシーンだ。一体何を考えていたのだ。でもこの曲は大ヒットした。

当時の銀行のオフィスの作りが参考になったので、一応資料としても使えた。

実はこのDVD、傷があって途中で止まってしまう箇所があった。ちょうど
’South American Getaway’が流れ、3人が強盗しながらボリビアを逃げている場面が見られないではないか!

YouTubeにあるからいいけど。(追っ手がだんだん増えていくのが笑える)




DVDを返すときに、図書館の人に瑕を指摘した。
「それはすみません、1枚無料で借りられるようにしておきますね」といった係りの人、DVDを見て、
「あ〜、この映画のエッタのモデルになった女性ね、うちの遠い祖先なんですよ」と言いだした。

彼女は頭はいいのに家族の中の不良で、家を飛び出してギャングの仲間になってしまったそうだ。
ボリビアでキッドたちと別れた後はニューヨークに帰って、その後どうなったか誰も知らない、という。
本当かどうか分からないけれど、彼の家に代々伝わっている伝説なのかも。
そのおじさんの苗字はCで始まっていた。本名は諸説あるらしい。たまたまその人にDVDを返した偶然が面白いと思った。

ラジオで流れていた、ベルリン・フィルの演奏。さすが美しい。オリジナルよりこっちの方が好きかも。



| ろき | 映画 | comments(6) | - |
ボリショイ・バレエ@映画館「明るい小川」
 
290412
Maria Alexandrova

ぜんぜん仕事がはかどってませんが・・・ボリショイ・バレエのライブ中継を観てきた。

『Светлый ручей』(明るい小川)、英題「The Bright Stream」。

ショスタコーヴィチ作曲、1935年初演。ばりばりのソ連バレエ。
観客には受けたものの、当時絶対であった”プラウダ”紙に不真面目だとか批評され、長いことお蔵入りしていた。だから、コミック・バレエと言っているのにね〜。冗談通じないから。

2003年にアレクセイ・ラトマンスキーの振付で復活したもの。

<キャスト>
Zina ... Svetlana Lunkina
Pyotr, an agricultural student ... Mikhail Lobukhin
Balerina ... Maria Alexandrova
Ballet Dancer ... Ruslan Skvortsov

舞台はロシアの田舎の集団農場コルホーズ!収穫祭の時期、モスクワから芸術家の一行が慰労のパフォーマンスのために到着する。

都会の洗練された芸能人なんて見たことない田舎の人たち、バレエ・ダンサーにうっとり。
特にジーナの旦那のピョートルは、奥さんそっちのけでバレリーナにでれでれ。

ジーナはそんな旦那を見て傷つくが、実は彼女は昔バレエ学校で鍛えた”隠れバレリーナ”であった。今回やってきたプリマとは旧友。
アホな旦那をこらしめようと、2人は衣装をとり替えて、ジーナの方がピョートルと待ち合せる。
ついでに男のダンサーも女装して、別のカップルの浮気旦那をだます。

大人しいジーナをスヴェトラーナ・ルンキナが、元気(で派手)なプリマ・バレリーナをマリヤ・アレクサンドロヴァが踊って適役だった。

他愛のないトリックにひっかかる旦那さんたち。
ちょっとした浮気心が初期消火?されるのでドロドロせず、気楽に見られる。
最後は楽しい収穫祭、ジーナが舞台で見事に踊り、ピョートルに惚れ直され、大団円。
農民男女の色とりどりの衣装が、ソ連を意識したファッションセンスですごかった。3幕笑い通し。

中でも一番ウケたのは、イケメンのルスラン・スクヴォルツォフがシルフィードみたいな女装で踊る場面ですね。
ボリショイの男性陣は鍛えているから、トウシューズも平気。わざとらしく女っぽく踊り、ときどき男らしいしぐさを交えるのが可笑しくてたまりません。

あー笑った。明日からがんばろうっと。

女装シーン、スクヴォルツォフではないが、ツィスカリーゼの可愛い(けどちょっと怖い)のがあった:




追加、今回見た版の、浮気デート(だけど実は妻のジーナが相手)のシーン。
途中でバレリーナ男子もジーナを励ましに出てきている。



| ろき | 演劇・ダンス他 | comments(8) | - |
デッサン教室 クインク
JUGEMテーマ:アート・デザイン

〜〜ちょっと立て込んできたので、しばらく”たまに更新”しますね〜〜

デレク先生のクラス、今学期は水彩やインク。
夏に水彩を持ってくるのは、ひとえに「乾きやすい」から。
それでも時間中には完全に乾かないため、工夫が必要。

まずオープニング・ポーズは、バイクに乗ってやってきたモデルのクリストフ(みなさん仮名)にそのまま座ってもらい10分。
 
230412_1
38 x 28cm、水彩用紙。
パーカーのQuink(クインク)・黒。このインクは後で水で薄められる。竹ペン。
乾いたらぼやけてしまったので、一番濃い部分は、クラスの翌日、すっかり乾いてから描き足しています。

クイックポーズ。
同じポーズを何度か描いてみる。

230412_2

クインクで描いた上から水彩を少し足す。
右側の単純化した線がうまくいった気がするので、次はその描き方で:

230412_3

線をゆっくり描かずささっと何度も描き、水をふくませた筆で陰を入れ、水彩を足した。
水彩も、乾くと色がぼやけて薄くなる。もっと濃く入れてもよかった。

最後は、先に青い水彩で陰を描いた。
別にスケッチなどして乾くのを待ち、その後ペンを使う。

230412_4

ちょっと陰がずれたが、それはそれでOK。

水彩は苦手だ (何度も言ってますね・笑)。
別に水彩でなければならないということもなく、ポールなどは相変わらずパステルを貫いている。
でも周りのクラスメートの手法が参考になる学期なので、新たな発見もあるかもしれないし、一応水彩にトライするつもりです。

| ろき | 作品・習作 | comments(6) | - |
METオペラ@映画館、ヴェルディの「椿姫」
JUGEMテーマ:音楽

220412_1

NYメトロポリタン・オペラの今期最後の映画館中継は、「ラ・トラヴィアータ」。ライブでなく、録画のアンコール版を観た。

<Cast>
Conductor: Fabio Luisi

Violetta Valéry: Natalie Dessay
Alfredo Germont: Matthew Polenzani
Giorgio Germont: Dmitri Hvorostovsky


愛想のな冷たい空間に巨大な時計、これは2005年のザルツブルク音楽祭でのプロダクションですね。
この時ヴィレッタを歌ったのはアンナ・ネトレプコで、結核で死ぬようにはぜえったい見えない元気さだった。
今回は、小柄ではかなげなナタリー・デセイ。彼女の声は優しくデリケートで好き。

彼女は風邪で初日をキャンセルしたばかり、ベストとは言えない体調なのが気の毒だ。
幕間インタビューで挨拶もそこそこに、
「高音外しちゃったの、ごめんなさいー」とマイクに向かってわび、インタビュアーのデボラに、
「正直ねえ」と言われていた。第一幕、難しいものね。
本当は楽屋の化粧台につっぷしたい気分でもにこやかにインタビューに応じる、プロは大変だなあ。

声は本調子でなくとも、演技力のある彼女の舞台は説得力があって引き込まれる。

高級娼婦のヴィオレッタは、貴族の青年アルフレードの一途な愛にほだされ、パリでの派手な生活を棄てて郊外で一緒に暮し始める。

はたから見たら、世間知らずの青年が水商売の女に騙されて(今で言えば)いるように見える。
心配してプロヴァンスから出てきたアルフレードの父ジョルジョ・ジェルモンが、ヴィオレッタに直談判。

「将来のある息子をたぶらかした」と最初は怒っているが、ヴィオレッタがきちんとしたレディで、息子を真面目に愛していること、2人の生活はヴィオレッタの所持品を売ったお金で成り立っていることを知り、父の気持はやわらぎ、非礼を謝罪する。
が、やはり別れてもらわないと困る。
アルフレードの妹の縁談にさしつかえるからだ。

220412_2

「わかりました。あなたの美しく清らかなお嬢さんに、わたしが大きな犠牲をはらったことを伝えてください」と身を引く覚悟をするヴィオレッタ。
普通は彼女が死ぬところで出る涙が、すでにここでぶわっ〜。
お父さんも根はいい人だから、彼女の献身の深さを理解してくれる(別れなくても良いとは言わないけど)。
ヒロインと、その恋人の父、の場面が一番の山ですよね、このオペラ。
ホロストフスキーが出てくると舞台が引き締まる。
ちっちゃいデセイがつま先立って抱きついているのが可愛い。(& うらやましい)

アルフレードはまだ人間ができていないから、ヴィオレッタに去られて逆上する。
父が、
「田舎に帰ろう」と、しんみりしたすばらしいアリアを歌うのに、上の空。
話聞け、アルフレード。
そういうお坊ちゃまなところがいいキャラです。マシュー・ポレンザーニの声が若々しくすがすがしかった。

シンプルな舞台装置に無慈悲な時計がヴィオレッタの限られた時間をきざみ、彼女の死は迫る。
最期の場面、急に苦痛が消えて体が軽く感じるヴィオレッタは天国に片足入っている。怖いような美しさで、ここまで書いたヴェルディがすごいと、改めて思う。

「椿姫」と「ラ・ボエーム」は何度見ても泣ける。よく考えたらありえない話なんだけど、考える暇を与えない音楽の力だ。
今回は特に主役3人とも良くて、映画館でもハンカチを出している人は多かかった。

次は絶好調のデセイが聴きたいものだ。来期METはヘンデルに出演予定。

| ろき | 音楽 | comments(7) | - |
デッサン教室 「ねじり」
JUGEMテーマ:アート・デザイン
 
デレク先生の教室、イースターで1回休んだだけでもう再開。
本日は、ねじりを加えたポーズで、ボディのS字形を発見しようとのことです。
新学期の1回目はウォーミングアップの意味もあり。
クイックポーズは各1分。

160412_1

A3、モデルはクレア(みなさん仮名)。
1分だとかなり忙しい。

160412_2

木炭と、ちょっとパステル。

160412_3

だんだん手に勢いがついて、線が単純化される。
短いポーズはダイナミックな形をとってくれるので、魅力的。
できたらこれを20分続けてくれないかな、と思うけど、無理なのよね。

20分のポーズでは腰かけて。

160412_4

70 x 50cm。
先日せっかく選んだのに家に忘れたパステル、今回使った。
やっぱり同系色を使った方がなじむよね。
モデルがこれを気に入ったそうです。クレアになら、安く譲ってもいいかな。

最後のは40分あったはずなのに、上のとたいした違いがない。
紙色の緑がいつもより濃い色(Jade)、しかもクレアの肌色が明るい栗色なので、どの色を使うか迷った。

160412_5

65 x 50cm。

先生に「画材屋で売れずに残っているような色の紙を、うまく利用するよねー」と変な誉め方をされた。ははは・・・。

来週からインクや水彩に入る予定。
アクリルって手もあるなあ、と考え中。

| ろき | 作品・習作 | comments(6) | - |
ケンブリッジ・ワード・フェスト -- ジェフ・ダイアー『Zona』を語る
JUGEMテーマ:読書
 
180412

ケンブリッジの読書祭ワード・フェストでジェフ・ダイアーの対談&朗読etcを聴いてきた。
会場は学生組合内の小講堂。初めての場所で分かりにくい。人に聞きながらやっと見つける。
昔スティーヴン・フライもここでコーヒーを飲んだのか?と思うような古びたカフェの横を通って、縦に長い部屋に入った。

登場したダイアーは上の写真通り。背が高く鼻も高く、やせている。
ジャコメッティがイースターのモアイを造ったようなーーあれっ、誉めているんだがーーインテリジェンスがただよう。
(ふーん、この人がアムステルダムでラリって、雨に濡れたズボンを脱いでまたはいたのか)

対談の相手はケンブリッジ大学で映画史を研究している女性で、映画好きな彼女と、タルコフスキーの「ストーカー」とダイアーの著書『Zona』をめぐって話がはずんだ。

30年前に見た映画について今なぜ書いたのか、という質問には、
最初に見たときには強い印象がなく、むしろ退屈したのに、その後何度か見返すうちに、毎回映画に惹かれていき、いろいろな発見をした。ようやく機が熟したから、と本の中にも書いている説明をしていた。
この形式(映画のシーンをなぞる)をとるのも思い切った実験だ。

そこでおもむろにダイアーが、
「ところでみなさん、映画を見ていますか?」と聴衆に聞いてきた。
当然よね〜。と手を上げながら周りを見たら、なんと、3分の1以下?
見ていない、と手を上げた人が大多数だったのは驚いた。テーマにかかわらず、ダイアーの書くものなら何でも読む、というファンなのだろうか。

「それは良かった(間違ったことを言ってもバレないから)」と笑わせてくれたが、本当はどう思ったのかな。
対談では2人が、映画の最後でストーカーの娘が起こす奇跡について、内容を言わないようにしながら苦心して話すのが面白かった。でも本読んじゃったらみんな知ってるから、それ(笑)。

その後、ダイアーの好きなシーンをスクリーンに実際に映して、それにかぶせて該当する部分を朗読してくれた。
冒頭のカフェの場面、トロッコみたいなもので3人がゾーンへと入る場面、ダイアーがシーンを忠実に描写しながら別の話もうまくはさみこんでいるのが実感できる。
楽しい〜。

ゾーンに着いたとき、ストーカーはやっとhomeに着いた、と言うそうで、それについてダイアーは本の中でかなりの語数をさいている。
が、homeと言っているのは英訳だけだ、というのが判明した。
日本語字幕でも、さあ着いた、程度しか言ってなかったと思う。もともとロシア語でホームとは言っていないのだ。
「ドイツ人翻訳者に指摘されて、その時は焦りました。でも英訳が自分が体験した映画なのだから、この部分を削る必要はないと考え直しました」
英訳した人、ストーカーの気持をよく分かっていたのかも。

質疑応答では、脚注の意図が明らかになった。実はかなり長い脚注がはさまれていて、わたしはキンドルで読んだので後でまとめて読んでしまった。
紙の本では、脚注が読者の読むスピードをわざと遅くする(タルコフスキー時間にする?)効果をねらっているのだそうだ。なるほどね。

”これから見る人は、できれば映画館で見てくださいね。上映している映画館を探して、巡礼地のように訪ねる面倒くさいやり方が良いんです。”というダイアーの言葉が印象に残った。

こういう催しはロンドンなど大都市でも開かれるのだろうけど、大学の古い建物の中、小ぢんまりとした集まりは作家を間近に見られ、気軽なわりに中味は濃くて、得した気持になるのだった。

| ろき | word, word, word(読書) | comments(0) | - |
ジェフ・ダイアー『Zona』 部屋への旅をめぐる映画をめぐる本
JUGEMテーマ:読書

Zona: A Book About a Film About a Journey to a Room
Zona: A Book About a Film About a Journey to a Room

ジェフ・ダイアーがタルコフスキーの映画「ストーカー」を語る「ゾーナ」(ロシア語ではzoneはzonaなので)。
あれだけ好きというか、とりつかれている作品をどう書くのだろう、と思ったら。
ーーそうきたか!

書き出しは:
AN EMPTY BAR, possibly not even open, with a single table, no bigger than a small round table, but higher, the sort you lean against -- there are no stools -- where you stand and drink.

意味は(ちゃんとした訳ではありません、とりあえず意味だけ)

人気(ひとけ)のないバー、まだ開けていないのかもしれない、テーブルが一つ、小さな円卓ほどの大きさだが高さがある、立ったまま飲むときにーースツールはないのだーーもたれかかるようなタイプ。

そうです。映画「ストーカー」の冒頭シーンの描写。
なんとダイアーは、映画のシーンをたんねんに追ってすべて書き表わしているのだ。
映画を見ていない人でも、頭の中で映画ができあがりそうな丁寧さ。
こういうのってありですか。まだ誰もやったことがない手法じゃないでしょうか。

映画は順を追って解説され、そこに作者の言葉もさしはさまれる。
たとえばこのバーのマスターが出てきて蛍光灯をつけると、1本チカチカ点滅している。
”彼が(直さないとな)と思っているのが分かる。しかしそれは(今日修理しよう)というのとは違う。どちらかというと(修理されることは決してないだろう)というのにとても近い”

と笑わせてくれる。
著者は書くことによって映画を自ら再び見て、それに反応するように書く。呼び覚まされる記憶や、もちろんゾーンについての思い、”部屋”への思いが語られる。

なぜこのような書き方をしているかというと、ストーカーと2人のお客(作家と教授)にいっしょについて行き、同じ行程で自分もゾーンに行こう、という魂胆なのだ。
したがって、ゾーンに入り、”部屋”に近づくにつれて、自分ならどうするのか、という思考も深まることになる。

その人の心の奥底の願望をかなえる部屋。

自分だったら・・・と思いついたダイアーの例が情けなくてすごい笑える。
(言うならば、森永おもちゃの缶詰・級の、五十男の夢どす)
案外そんなものかもしれない、と思わされる。正直なやつ。

ちなみに、2人のお客のうち彼が親近感を持ったのは、作家の方らしい。
職業柄もあるだろうが、ストーカーの言うことを聞かず、自分勝手で理屈っぽくうるさい作家は、イギリス人的なんだそうだ(笑)。

1981年2月に初めて見たときは二十代だったダイアー、それほど感銘は受けなかった。
それが年を経るごとに何度も見直すことになり、見るたびに発見がある。歳をとるにつれて、感じることも変ってくる。

不朽の名作が名作であるゆえんを熱く語りつつ、作品と自分とのかかわりを、軽いタッチで、しかし真面目に書いていて、楽しく読めた。
ロケ地は第一候補ではなかった、など制作裏話の情報もあり。

映画を見た人は、自分はどう感じたか、を思い出し、改めてゾーンについて考えるだろう。
見たことのない人は、映画が見たくなるだろう。
でも映画を見ていない人はこれ読まないか、と思ったが、ダイアーのトークに行ったらその考えは覆された。

トークについては後日書きます。

| ろき | word, word, word(読書) | comments(3) | - |
BBC『Land of the Lost Wolves』 アメリカに帰ってきたオオカミ
JUGEMテーマ:日記・一般
 
150412_3

BBCとアメリカのディスカバリー・チャンネル共同作品『Land of the Lost Wolves』、アメリカに戻ってくるきざしを見せているオオカミを追うドキュメンタリー。

ヨーロッパ人によるアメリカ”開拓”で、北米の野生オオカミはほとんど駆逐されてしまった。人間に殺されたオオカミは百万頭を超えるそうだ。
今はカナダの一部に生息するのみ。

牛や羊を食べるから、と嫌われるオオカミだが、自然のバランスを保つ重要な役割も担っていた。オオカミがいないと野生の鹿などが増え放題になり、木の芽を食べて森を枯らす、ビーバーが家を建てられない、など弊害が出ている。

90年代にイエローストーン国立公園に実験的にオオカミの群れを放してみたら、オオカミが鹿の群れのうち弱い者を先に食べることから、鹿が全体的に健康になり、痛んだ森が復活し、ビーバーも戻ってくるなど良い結果が出た。

広大な国立公園ならいいけれど、人も住む地域だと問題は単純ではない。
カスケード山脈を通ってカナダから合衆国に入ったオオカミの群れがいる、との情報をキャッチして、野生動物カメラマンのゴードンが、地元チームの協力を得て群れを追った。

上の写真はオオカミと仲よくなったゴードン、ではありません。精巧なロボットです(オオカミの方ね・笑)。このロボットから録音した遠吠えを流してオオカミの注意を引こうという作戦。ロボットは時々尻尾も動かす芸の細かさ。

いくつか監視カメラもとりつけ、気長に待つ。

150412_2

いたいた。

チームのメンバーは遠吠えの声も聞きつける。
ただ、情報では10頭くらい、という話だったのに、2頭しか発見できない。

実は地元のハンターが違法にオオカミを狩っていたのだった。
農場経営者にしてみれば、オオカミなんて百害あって一利なしなのは仕方ない。
「オオカミは害獣だ、絶対近づかせない。全員殺す」と息巻いている人もいて、単純に、絶滅したはずの野生動物が戻ってくるのはめでたい、とも言えないのだ。

せっかく戻ってきたオオカミがあらかた殺されているかも、というがっかりなニュースまでが、冬の部(第1回)。

第2回では季節は夏になり、生きのびた若いメスにチップをつけて放し、観察。
彼女の動きを追うと、定期的に戻っている場所がある。ここに巣穴があって、もしかしたら子供も産んだかも。

カメラマンたちの忍耐に頭が下がります。
直接この群れでなく、カナダで生態を映すゴードンは30時間一人でテントでねばり、鮭を獲るオオカミをキャッチ。

150412_1

漁が上手。

最後はとうとう、以前遠吠えを確認した場所で全身カモフラージュ姿で待ったアイザックが、可愛い仔オオカミを発見した。逃げ延びたメスが産んでいたんですね、よかった。生後6ヶ月くらいの仔オオカミが複数頭。一丁前に遠吠えなどしている。

「お父さーん、変な動物に見られてますー」って言ってたらどうしようと思った。
幸い、撮影中に親は戻ってこなかった。

賢いオオカミは粘り強く縄張りを拡げ、今や北カリフォルニアまで達しているそうだ。
今後、人間との共存に向けたバランスのとり方が課題でしょう。


↓ 番組最後の方の動画。
前半は、オオカミ保護派のジャスミンが、ハンターに着いて行って意見を聞く。
鹿狩りは地元の大きな産業のため、家族や地域のためなんだ、と説明するハンターさんは話の分かる人で、共存できるならOK、と言っている。ちなみにこの州ではオオカミ狩りは合法。
次にオオカミ学者が、狩る者・狩られる者の力が拮抗していたから、オオカミも鹿も強くなり進化してきたんだ、という話をしている。

6:00あたりから、仔オオカミの姿をキャッチする場面。親が戻るのを静かに待っているんですね。



| ろき | テレビ | comments(8) | - |
/ 1/119PAGES / >>