アンドリュー・スコットの「ハムレット」

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今日あたりからまた涼しくなったけど、1週間ほどやたら暑くて30度前後だった。もっと南の方では40年ぶりの34度を記録。しかも草の花粉がすごい飛んで、アレルギー薬漬けの日々。こういう時にかぎって忙しく、2日続けてロンドンに通わなければならなかった。

さすがに疲れてキレそうになったので、ロンドン2日目の夜に芝居へGO。BBCドラマ「シャーロック」のモリアーティ役が可愛いアンドリュー・スコットの「ハムレット」。Almeida劇場(上のポスター)で好評だったプロダクションをハロルド・ピンタ―劇場で再演しているもの。

『Hamlet』 Harold Pinter Theatre
Director -- Robert Icke
<Cast>
Andrew Scott -- Hamlet
Juliet Stevenson -- Gertrude
Angus Wright -- Claudius 
Jessica Brown Findlay -- Ophelia
David Rintoul -- Ghost/Player King 
Joshua Higgott -- Horatio
Luke Thompson -- Laertes
Peter Wight -- Polonius

 

設定は現代。先王の幽霊は城内監視カメラの映像に登場するし、ノルウェー王の動向やロイヤルファミリーのイベントはテレビで報道される。

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デンマーク王の死後すぐに、その弟が王冠と王妃を引き継いだ!王子ハムレットにとっては叔父が父親になるという異様な事態。家族として表向きには仲良さそうにメディアに対応する3人。それが壁のスクリーンにニュース画面として映し出される。見出しがちゃんとデンマーク語(読めないが)になっていた。

あまりに有名なモリアーティの印象を払拭しなくてはならないアンドリューだが、たいへん良かった。話し方は基本低めでやわらかく、アイリッシュ訛りの巻いたRがセクシー。でも神経過敏ですぐ動揺し、激高して直後にそれを鎮めようとしたりする。発言は穏やかでも手が不安そうに動いていたり、全身をよくコントロールしたパフォーマンス。今まで見たことのないタイプの、感情と思考が内部で錯綜しているハムレット、うまいなーと思った。

アンガス・ライトのクローディアスはつかみどころのない政治家ふう。一番生の感情が出るべき「兄の殺害の結果を畏れて神に祈るシーン」でも、心の底の動きが見られない。長年仮面をつけすぎて顔に貼りついてしまった人のよう。

ガートルードはいつも難しい役だと思うが、ジュリエット・スティーヴンソンはさすが、女として新しい夫に夢中な姿(まっ人生そういうこともあるわよね)から、現夫の正体をようやく悟って息子の身代わりに毒をあおって死ぬところまで、変化を見せた。

ジェシカ・フィンドレーのオフィーリア、気丈な娘だったのに周囲からスパイの役など押しつけられて重圧で気がヘンになる。最後は車椅子で登場していた。

インテリアがシンプルすぎてほとんど粗末、これで王室?と思ったが、登場人物がゴージャスなのでそのうち気にならなくなる。面白いプロダクションだったが、結局は主役が良いという結論になるでしょう。

ところで仕事の会議の担当者がデンマーク人だったので雑談のときに聞いてみたら、

「シェイクスピアのハムレットは一度も見たことありません」とのこと。見たくない気持ちはわかる気がする。わたしもオペラ「蝶々夫人」は舞台では観てないわ(話が別?)。

監督とハムとオフェリアのインタビュー。カンバーバッチのハムレットは観たし、向こうもアンドリューのを見に来たけど、非常に個人的なものなので比較にならないそう。

 

 

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ロマン・ヴィクチュク劇場「女中たち」

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ロシアのカルチャー・チャンネルで観た劇場録画「Служанки」(女中たち)、原作はジャン・ジュネ。わーいいのかこんなのテレビで(嬉)。18歳以上対象だそうですけど。

ソランジュとクレールという姉妹の女中が、マダムがいない間に、”奥様と女中”ごっこをして遊んでいる。だんだんエスカレートしてきて、現実の陰謀へ、さらにとんでもない方向へつき進む・・・。

舞台監督ロマン・ヴィクチュク(1936〜)の名を冠した劇場が、彼のプロダクション(プレミアは1988年)を上演。

「Служанки」

Автор -- ЖАН ЖЕНЕ

Постановка -- РОМАН ВИКТЮК

<Действующие лица и исполнители>

Соланж -- ДМИТРИЙ БОЗИН (ロシア連邦功労芸術家)

Клер -- АЛЕКСАНДР СОЛДАТКИН

Мадам -- АЛЕКСЕЙ НЕСТЕРЕНКО

Месье -- ИВАН НИКУЛЬЧА

登場人物全員を男性俳優が演じる。4人とも長身、ありえないほどの肉体美に目が吸いつき、しばらく音声情報が頭に入りません。

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左からクレール、マダム、ソランジュ。

顔見たときは、

「ん……デーモン閣下?」と思ったが、歌舞伎のようでもある。見慣れると面白い。

芝居がかったセリフ回しは、劇中でお芝居しているので当然。そして体がよく動き、踊れる。フレンチ・ポップス、というよりシャンソンかな?がうまくはさまれている。特にダリダの『Je suis malade』(わたしはビョウキ)がはまる。

女の意地悪が、ガタイの良い男がやると根本的にはすぱっと可愛かったりする。

すごーい。ヘン。でもジュネらしい。ロシアの先端は実に鋭利だわ。

トレーラー:

2時間半、呆然と見守りました。物語が終了してからフィナーレのダンスの披露も、観客大喜び。見ると8割が女性ですね。みなさん好きね、ははは。

聖堂でポケモンGOしたのをSNSにアップして有罪になったりするが(ニコライ二世の一家が殺された現場の上に建てた慰霊の聖堂だからねえ)、こういう芝居もやっている。ロシアは奥が深い。

 

マダムの”東洋風の踊り”。閲覧注意。18歳以下は見ちゃだめ。

(曲はHelwa ya Baladi)

 

 

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NT ライブ「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」

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劇場中継を録画で映画館鑑賞、トム・ストッパードの『Rosencrantz & Guildenstern Are Dead』。オールド・ヴィック座での上演から50年を記念して、同じ劇場での公演。(初演は1966年、エディンバラだそう)

『Rosencrantz & Guildenstern Are Dead』

By Tom Stoppard

Director: David Leveaux
Set Designer: Anna Fleischle

<Cast>
Daniel Radcliffe -- Rosencrantz
Joshua McGuire -- Guildenstern
David Haig -- The Player
Matthew Durkan -- Alfred
Luke Mullins -- Hamlet

この劇のおかげもあって世界で最も有名な端役、ローゼンクランツとギルデンスターンを、それぞれダニエル・ラドクリフとジョシュア・マクガイアが演ずる。

ハムレットの学友の2人、新王クローディアスから甥をスパイするよう依頼(というより命令)されるが、彼らより頭のいいハムレットに見破られてしまう。軽い扱いの小物。

劇ではこの2人を主役にしたことで、虚構世界のゆがみが展開する――とわたしは解釈している。

冒頭から、コインを投げての賭けで、表ばっかり80回とか続けて出る。通常の法則が動いていないようだ。フィクションの世界の中だからね。

ギル(めんどくさいから省略)がロー(省略)に、

「お前、最初の記憶って、なに?」と聞くが、ローは覚えてない。

「目を覚ましただろう」とか言う。

記憶なんかないのだ。チョイ役なんだから。シェークスピアもそこまで考えてないの。

いつから、何のためにここにいるかわからない。その後役割を与えられるが、全体の話が見えていないから、右往左往する。可笑しいが、恐ろしい。

普通の人間だって、そうだよね。彼らよりはましでも、気がついたら生きていて、自分が何のために存在するのか、本当に存在するのか、さっぱり確証ないわけです。

出番少ないからゲームをして時間をつぶしたり、非生産的なギーとロー。まるで漫才のようなやりとりの応酬が笑える。ギーがツッコミ、ローがボケ。

2人と対照的なのが、旅芸人の団長。

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おれは役者だ、と堂々と自信たっぷりだ。常に力いっぱい演技している。不確かなのは同じなんだけど。

ストッパード二十代の出世作、不条理劇の系譜に連なる作品かもしれないが、今見てもちっとも古くない。新鮮だ。

とりわけ頭と口が良く回る(空回り気味だけど)ギーが冴えていたが、団長も迫力あり、女形のアルフレッドや、すかしたハムレットも面白かった。ローもボケ具合が可愛い。大好評で公演日程が延長されているそうだ。

ジョシュアとダニエルが伝統ある劇場をガイド:

 

 

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エヴゲーニー・オネーギン2つ

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ロシアのTVの「アンナ・カレーニナ」終了。面白かったが、セリョージャが成人した後、という設定を活かしきれていない気もした。どう育ったか、母についてどう思っていたか、掘り下げがほしかったな。でも最後に日本軍が出てきて、つい(ロシア軍をやっつけちゃえー)と応援、あはは。

ロシア古典をぐるぐる回っているかも。今度はプーシキンの「エヴゲーニー・オネーギン」を原作としたオペラと演劇。

METオペラ(上の写真)を映画館中継で。作曲はもちろんチャイコフスキー。

<Cast>

Conductor -- Robin Ticciati

Tatiana -- Anna Netrebko

Olga -- Elena Maximova

Onegin -- Peter Mattei

Lenski -- Alexey Dolgov

Gremin -- Štefan Kocán

オペラなので、原作の恋愛パートを抽出し、特にタチアーナが一人でラブレターを書く場面に20分も費やしている。主要キャラの少なくとも3人がロシア人で、美しい発音も楽しめた。主役オネーギンはスウェーデンのペーテル・マッテイ、長身で堂々としているが、嫌なやつなんだけど苦悩もある魅力的なオネーギンになりきれていない?わたしのデフォルトがホロストフスキーだからしょうがない。

アンナ・ネトレプコは相変らずすごい貫録だった。

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エカテリーナ二世かとおもた!

オペラは歌手の外見は関係ないわけですが、面白いことにタチアーナの年上の旦那さん役のバスのスロバキア人ステファン・コツァンが若くてかっこよかった。初老の軍人のはずが・・・こういう現象も起きる。

テノール、レンスキーのアレクセイ・ドルゴフの絶唱が美しく印象的。

音楽的には楽しめるが、原作の豊かな言語表現はカットされている。

演劇の場合は言葉をもっと活かせるだろう。

バフタンゴフ劇場版を録画で見た。

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Идея, литературная композиция и постановка -- Римас Туминас

Музыка -- Фаустас Латенас

Действующие лица и исполнители:

Евгений Онегин -- Сергей Маковецкий

Евгений Онегин -- Виктор Добронравов

Владимир Ленский -- Олег Макаров
Владимир Ленский -- Василий Симонов

Гусар в отставке -- Владимир Вдовиченков

Татьяна Ларина -- Евгения Крегжде

Ольга Ларина -- Наталья Винокурова

Няня, Танцмейстер -- Людмила Максакова

ロンドンで観た「ワーニャ伯父さん」と演出家や音楽、主要俳優がかぶっている。やはり型破り。

なにしろオネーギンとレンスキーが2人ずついる。若い頃と、今。レンスキーは若くして死んでるから、今のは霊?年とったオネーギンが若い頃を悔恨とともに回想する形になっている。さらにプーシキン本人を思わせるような退役騎兵もいるので舞台に人が多い。

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舞踏会、アコーディオンを持ったオリガ(親友レンスキーの彼女)を独占して踊っちゃう場面。

パワフルな舞台だ。タチアーナ、エネルギ−があまって乳母ごとベッドを引きずって歩いちゃう。女優さん、腰痛めないでね。

「ワーニャ〜」でソーニャも演じたエヴゲーニャ・クレグジェの迫真の演技に引き込まれた。本当の涙を流すなんてアサメシマエです。

なるほどねえ、と思ったのは、タチアーナが見る実にフロイト的な夢の場面、名女優が出て来てプーシキンの詩の原文を朗読した。言葉を読めばそれだけですばらしく、何も手を加える必要はないってことかな。

この舞台はまたロンドンのプーシキン・ハウスで少し大きいスクリーンで見られるので、6月に行こうと考えている。

↓アンナ・ネトレプコのアリア20分に勝るとも劣らない、エヴゲーニャの「手紙の場面」。ティーンエージャー初恋の力を豊かに表現。この子を振ったオネーギンて、ほんと馬鹿。

 

 

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ボリショイ・バレエ「現代の英雄」

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2年も首を長くして待っていた、レールモントフ原作の『Герой нашего времени』(現代の英雄)、映画館ライブで観た。

Композитор — Илья Демуцкий
Хореограф-постановщик — Юрий Посохов
Режиссер-постановщик, художник-постановщик и автор либретто — Кирилл Серебренников

原作の5つのエピソードのうち3つを選び、2幕ものにした。キャストはエピソードごとに:

БЭЛА 「ベラ」   

Печорин  -- Игорь Цвирко
Бэла -- Ольга Смирнова
Казбич -- Александр Водопетов
Два горца -- Илья Артамонов, Георгий Гусев

ТАМАНЬ 「タマーニ」   

Печорин -- Артем Овчаренко
Ундина -- Екатерина Шипулина
Старуха/Янко -- Вячеслав Лопатин
Слепой мальчик -- Георгий Гусев

КНЯЖНА МЕРИ  「公爵令嬢メリー」   

Печорин -- Руслан Скворцов
Мери -- Светлана Захарова
Вера -- Кристина Кретова
Грушницкий -- Денис Савин

優秀なんだけど当時のロシアで才能の活かし場所がない主人公ペチョーリン。軍隊でもルールから外れ、コーカサスにとばされる。

「ベラ」では地元の美少女ベラが気に入って勝手に連れ出し(原作では彼女の弟を買収してさらって来させるがバレエでは省略)、真剣に口説いて愛情を得た、とたんに興味をなくして放置。ベラに危険がせまる。

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(別キャストの写真ですが)

わたしはこのコーカサスの危ないやつらが見たかっただけだったりする。勇壮な群舞がすばらし〜い。

オリガ・スミルノワのベラがエキゾチックにたおやかに踊る。彼女の気を引くのに、イーゴリ・ツヴィルコのペチョーリンがなぜかバレエのバーのエクササイズをしていた、ははは。

「タマーニ」では海辺の田舎町タマーニに着任したペチョーリンだが、地元の美女ウンディーナが何かの密輸の手引きをしているのに気づく。ウンディーナはペチョーリンを誘ってボートでデート、と見せかけて彼を殺害しようとする!

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スリリングな力強い対決だった。ダンサーが代ってアルチョム オフチャレンコのペチョーリン、エカチェリーナ・シプリナのパワーにたじたじ。けっこう危ないところだったw。

インターバル後に「公爵令嬢メリー」。湯治の街で知人のグルシニーツキーに再会したペチョーリンは友の好きな女性メリー嬢(ザハロワ)にちょっかいをかける。とうとうグルシニーツキーと決闘するはめに。そしてもちろん彼を殺す。でもペチョーリンは本当に好きな女性(人妻)ヴェラに振られる。バチがあたった。これはプーシキンの「オネーギン」のプロットと似ている。

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ここのセットが面白かった。色調がおさえてあってシック。湯治場らしく車椅子のダンサーもいた。

気位は高いが純真なためにあっさりペチョーリンに惚れてしまうメリーさんが気の毒。

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ペチョーリンはルスラン・スクボルツォフ。行動はひどい彼、でもいろいろ辛いことがあるんです。

3つの場ごとに別々のトップダンサーのペチョーリンを見られ、第1場のコーカサスの山が抽象画のようだったり、セットも美しい。またオペラ歌手と楽器の奏者が舞台に出るなど、演出が面白い。軍隊の話なので男性群舞がわんさか活躍するし、今のところボリショイにしかできない舞台だろうと思う。

いつかモスクワで観たいなー。来年あたりロンドンに持ってきてくれると、さらに楽だけど。

プレミア当時のニュース:

 

 

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「アンナ・カレーニナ」ヴァフタンゴフ劇場(の録画)

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先週からサマータイムが始まったのですが、さっそく初日に駅の一番大きい時計が1時間まちがってました。駅の時計だよー。しっかりしてほしい。

さて、2月に機材がすねてキャンセルになったプーシキンハウスでのダンス版「アンナ・カレーニナ」中継、今度は大丈夫だった。ただし無料で招待された人の名簿にわたしの名前がもれていたが、受付の人が「たぶんあなたのせいじゃないから」と入れてくれた。全然驚きませんよ、このくらい。

Режиссер-постановщик -- Анжелика Холина

キャストをもう一度確認:

Анна Каренина -- Ольга Лерман
Алексей Каренин -- Евгений Князев
Алексей Вронский -- Дмитрий Соломыкин

Екатерина Щербацкая (Кити) -- Екатерина Крамзина

Константин Левин -- Федор Воронцов

二度ロンドンまで足を運んだ甲斐があった、非常に面白いプロダクションでした。

全編踊りで通しセリフはなし(リョービンが「うわああー!!」なんて叫んだりはしたが)。ダンスはモダンだがバレエが基礎にあって、かなり唐突で奇妙な動きをしてもきれいにさまになっている。

椅子がドアになったりオペラ劇場になったり電車になったり。舞踏会も競馬も駅も、人の体の動きで何でも表現する。キャストも良い。

左からアンナ、夫のカレーニン、ヴロンスキーのいとこでちょっと軽い女のベッツィー。

アンナのオリガ・レルマンが春風のように色気があって可愛い。バレエはプロを目指していたほどなので、踊りはきっちりこなす。原作のアンナは8歳の息子がいるといっても19世紀の話だから、まだ20代の可能性が高い。若くてよくわからない時に結婚し、その後に本当の恋をする。でも恋人のもとに行くには幼い息子を捨てなくてはならず、内臓を取られるほどの苦痛を味わう。

カレーニンは真面目で仕事熱心な政府高官として存在感あり。国のために働く人は、なかなか妻子に時間はとれない。有能なサイコパスの可能性もあるわ。

青二才感が良いソロムィキンのヴロンスキー。彼は美しく懐の深いアンナに惚れたのであって、息子から離れて精神不安定な嫉妬深い女になってしまった彼女の取り扱いに困る。若いし子供いないし、理解できないよね彼には。

夫も恋人も同じアレクセイという名前なところも、トルストイはうまいなあ。

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ヴロンスキーに振られた令嬢キティを支え、とうとうプロポーズを受け入れてもらう田舎の地主リョービン、独自の路線をまい進していた。面白味はないが信頼できるタイプ。

休憩も入れて3時間というので大変かと思ったが、知らないうちに時が過ぎて長さを感じなかった。常に動きがあり、でも忙しくはなく、それぞれの場面を面白く見せて観客を引っ張っていく。1秒も退屈しない。

ヴァフタンゴフ劇場も当然レパートリー形式。今も「アンナ〜」はもちろん、日替わりメニューで「オセロ」やらブルガーコフ「逃亡」など上演している。そのうちモスクワに1か月くらい滞在して何舞台か見てみたいものだ。

場面いくつか。オペラは「エヴゲーニー・オネーギン」のタチアーナの手紙のアリア:

 

 

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マコヴェツキーの「黒衣の僧」

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270317-1

行ってきました、プーシキンハウスでのチェーホフ原作「黒衣の僧」劇場録画の上映。劇場はМосковский театр юного зрителя(若い世代のモスクワ劇場、かな)。

Режиссёр -- Кама Гинкас
<Действующие лица и исполнители>

Коврин -- Сергей Маковецкий
Чёрный монах -- Игорь Ясулович
Таня Песоцкая -- Юлия Свежакова
Песоцкий, её отец -- Валерий Баринов

若き哲学者のコヴリンが、自分ひとりだけに見える黒衣の修道僧と会話するようになり、現実と折り合えなくなってくる。自分を愛して尊重してくれていた親代わりのエゴールの娘ターニャと結婚するが、不幸な結果になってしまう。

舞台の作りが変わっていて、前方の両側のバルコニー席をつぶして橋渡しをするように床が作ってある。たまに役者がオーケストラ・ピットに飛びこんだりできる。エゴールが大事にしている庭と果樹園の象徴として、孔雀の羽根が床から生えている他はさっぱりとした舞台美術。

面白かったのはセリフ。地の分もセリフに入っている。原作は小説だから「ト書き」というものはないが、それにあたるところまで、声を出して言ってしまう。

「ターニャ退場」と言いながらターニャが舞台上手に消えていったり。たまに「彼は――した」と言いながら演技では違うことしてみたり。

後で聞いたら、この手法でチェーホフ作品を3つ手がけているそうだ。

音楽はヴェルディの「リゴレット」の同じ四重唱が繰り返し流れ、また登場人物が歌ったりした。『Bella figlia dell'amore』(美しい愛らしい娘よ)。あの、とんでもないプレイボーイの公爵が別の女の子を口説いているのを、捨てられたジルダが見て嘆き、ジルダの父のリゴレットが、泣いたってしょうがないだろ、となぐさめる場面。父と娘のテーマが、関係なくもないか。元気でハイパーなときのコヴリンは確かにイタリア語を勉強していましたが。

黒衣の僧が派手に登場するのが笑えた。黒いノボリみたいなものを立てて来て、本人は上半身裸。ヘンな人。コヴリンの暴走する潜在意識の象徴なのでしょうか。

コヴリンのセルゲイ・マコヴェツキーはやはり演技がうまい。黒目の動きまできちんとコントロールしている。この役には少しお歳なんじゃ、と思ったら、このプロダクションは1999年初演で、その後もレパートリーとして続いているのだそうだ。

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だいぶ若いころの写真。

ロシアの劇場は、いくつものレパートリーを日替わりで出す。プログラムは入れ替わるが、人気のあるものはずっと続ける。「黒衣の僧」は今年もやっているから、20年近いとは息が長い。俳優は歳を取るが、その分演技も磨かれてくるだろう。リピーターもいそう。

来週はリベンジ「アンナ・カレーニナ」です。

僧とお話していて、とうとう奥さんに「誰と話してるの!」と言われる場面。

 

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ロイヤル・バレエ『Les Enfants Terribles』(恐るべき子供たち)

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ロイヤル・バレエの『Les Enfants Terribles』は同名のジャン・コクトー原作(1929年)のバレエ・オペラ。会場はいつものオペラハウスでなく、バービカン劇場だった。

Credits

Director -- Javier De Frutos
Choreography -- Javier De Frutos
Music -- Philip Glass
Designer -- Jean-Marc Puissant
Conductor-- Timothy Burke

-Dancers-
Zenaida Yanowsky
Edward Watson

Kristen McNally, Thomas Whitehead, Gemma Nixon, Clemmie Sveaas, Jonathan Goddard      

-Singers-

Jennifer Davis, Emily Edmonds, Paul Curievici, Gyula Nagy

-Piano-

Kate Shipway, Robert Clark, James Hendry

隔絶された環境で暮らしていた姉弟エリザベートとポールの世界が、外の世界とぶつかることによって崩壊していく姿を描く。

舞台にはオペラ歌手と、ダンサーが混じって存在する。しかもダンサーは、主役の2人を踊るのがそれぞれ4人もいる!ポールが4人、エリザベートが4人。もちろんメインはプリンシパルのエドワード・ワトソンとゼナイーダ・ヤノウスキーですが、他のメンツも常にいる。「まともな人」である友人のジェラールは1人で、語り手をつとめる。彼だけ人格が統一されているということでしょうか。

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ヤノウスキーとワトソン

全員がざわざわ動き回るとかなり忙しいことに。しかも背景に映し出される映像も自己主張する。

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その上、歌はフランス語なので、英語字幕は舞台の上を見ないといけない。幸い話は知っているから、ときどきチラ見するだけにしておいた。上向くとダンサーが見えなくなるんだもの。

この情報量の過剰さが21世紀かも?

想像力にあふれる天才的な美しい姉弟が、繭にこもったように2人だけで完結していたのに、普通の世界と接しなければならない。そこに侵入してくるのは凡庸な、仕事とか結婚とか、ありふれた三角関係だ。硬い宝石のような2人は他人を傷つけるが、お互いも傷つける。悪夢と現実が混ざって悲劇・あるいはカタルシスなラストへ。

コクトーは言葉が大切なので歌を入れるとわかりやすくなる。バレエだけでも表現できたような気もするけど。フィリップ・グラスの音楽は繊細できれいだった。さすがズビャギンツェフ監督の「エレーナ」や「リヴァイアサン」の音楽を作った人。

やはりヤノウスキーとワトソンの強靭かつ細やかなボディの動きが一番の目のご馳走。本当はとっくに”大人”にならなければならない年齢になりながら子供の純粋さと残酷さを保っている異様な姉弟、踊り甲斐がありそう。

今回は戻りチケットをゲットして、前から5列目の真ん中で見られて至福。オペラハウスではなかなかこういう席は取れません。

 

 

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アクラム・カーンの「ジゼル」、ENB

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金曜は仕事休んで朝からロンドンへ。午前中はイングリッシュ・ナショナル・バレエの朝のクラスを描かせてもらうLive Drawingのワークショップ、その夜に、朝練習していた人たちの出るバレエを観るという贅沢をした。まずバレエ、アクラム・カーンの「ジゼル」から。

<Creative Team>
Direction & Choreography -- Akram Khan
Music, after the original score by Adolphe Adam -- Vincenzo Lamagna
<Cast>

Alina Cojocaru -- Giselle
Isaac Hernández -- Albrecht

Oscar Chacon -- Hilarion
Stina Quagebeur -- Myrtha

ロマンチックで可憐だがあまり現実味のない「ジゼル」をどうするのかと思いましたが、いやすごい。さすがアクラム・カーン。

舞台はインドの服飾工場。しかし今は閉鎖されてしまい、働いていたカースト外の人たち=アウトカーストは失業し困窮している、というさらに暗い設定。ブルジョワ階級のアルブレヒトはジゼルに逢うために粗末な服を着てまぎれこむが、ジゼルのことが好きなヒラリオンに疑われ、さらにアルブレヒトの婚約者である工場長のお嬢様などが突然訪ねてきて彼の身分がばれる。基本ストーリーには沿っている。

抽象化された最低限の舞台に、時に容赦なく人をシルエットにするライティング、地響きのしそうな、カタックのような重厚な音楽。簡素な服(ブルジョワ以外は)の人間は肉体がより生々しく感じられる。

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ジゼルの心臓が破けそうになるとき、アウトカースト仲間は人間のかたまりとなって心臓を表しているかのように脈打つ。

ジゼルの死には疑惑があって、どうも工場長が邪魔な女の除去を部下に命じたようだ。現場は誰にも見えず、気づいたら彼女は床に倒れ、死んでいた。恐ろしい。

2幕はオリジナルにはない、アルブレヒトが工場長たちに叱責されるシーンから始まった。そうだよ、そこ見たいよね。婚約中に浮気した彼がどういう目に遭ったか。でもこのアルブレヒトは浮気というより元々フィアンセが嫌で、ジゼルへの気持ちは真実のようだったので気の毒ではある。

カーンのウィリはオリジナルより恨みが深い(一番上の写真)。しいたげられた者の怨念を感じた。ウィリの女王ミルタが、死にたてのジゼルの遺体をずるずる引きずって登場し、フランケンシュタインが怪物に生命を与えたごとく、死者をウィリとして蘇らせる。不気味だが現実的、というのは変だが、妙にリアル。ジゼルはゾンビよりは小ぎれい、くらいの様子で動き出し、ふわっふわの白いウィリとは違う。わたしはなぜ、こんなに若くて死ななければいけなかったの、という慟哭を体で表す。

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だからこそ彼女がアルブレヒトを許すことに重みが出る。

ジゼルに許されても彼女は生き返らないし、アルブレヒトには現実の罰も待っているという結末。ずっしり来ます。

ストーリーをより納得できるように直し、へなちょこな音楽(アドルフ・アダンごめん)が大改善され、踊りはモダンで途切れることなく驚かせてくれる。文句ない傑作。

この作品、観たいと思ったときにはとっくに全回売り切れていて、キャンセル待ちをしつこく狙ってやっとチケットが取れたもの。非常に評価が高く、人気も出て、もう来年の予約すらどんどん埋まりつつある。とりあえず来年の9月の予約を取ってしまった。ヒラリオンがセザール・コラレスくんの回を見たいが、彼に当たるかはまだ不明。

レビュー入り:

 

 

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ロイヤルバレエ@シネマ『Anastasia』

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先週はニールのスタジオのデッサンをさぼって映画館でバレエ鑑賞。ロイヤルバレエの「アナスタシア」。

CHOREOGRAPHY -- KENNETH MACMILLAN
MUSIC -- PYOTR IL’YICH TCHAIKOVSKY AND BOHUSLAV MARTINŮ

<Cast>

TSAR NICHOLAS II -- CHRISTOPHER SAUNDERS
TSARINA ALEXANDRA FEODOROVNA -- CHRISTINA ARESTIS
GRAND DUCHESS ANASTASIA/ANNA ANDERSON -- NATALIA OSIPOVA   
RASPUTIN -- THIAGO SOARES
MATHILDE KSCHESSINSKA -- MARIANELA NUÑEZ
KSCHESSINSKA’S PARTNER -- FEDERICO BONELLI  
THE HUSBAND -- EDWARD WATSON

(キャスト表のPDFをコピペしたら全部大文字になっちゃって、読みにくくてすみません)

ロシア革命で退位させられた最後のツァーリ・ニコライ2世とその家族は、裁判もなしにボリシェビキに処刑されてしまった。

ただ、末娘のアナスタシアだけは生き残って逃げのびた、という噂がなかなか消えなかった。一家が一人残らず銃殺では悲惨すぎる、という世間の願望もあったのかもしれない。

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写真右から3人目がアナスタシア。

1960年代に創られたこのバレエは、(わたしはアナスタシア)と名乗り出た、実在した女性アンナ・アンダーソンのアタマの中を描くという野心作。

1幕は1914年、第一次世界大戦が勃発、という直前に、楽しく舟遊びをする呑気なロイヤルファミリーとその友人たち。アナスタシアはまだ子供で元気いっぱい。

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Ryoichi Hirano, Valeri Hristov and Alexander Campbell

平野くんの海軍士官が素敵。

2幕でも革命が迫っている中、現実が見えずにアナスタシアの社交界デビューの舞踏会。

招かれたバレエダンサー役のヌニェズとボネッリのパ・ドゥ・ドゥが豪華。

クラシカルな踊りの世界に、不穏な空気はすでに混じりつつある。音楽はチャイコフスキーで失われた過去への哀悼を響かせる。

3幕はもうその世界が消えうせた、アンナの収容されている精神病院。

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音楽もガラッと変わってチェコのボフスラフ・マルティヌー。

アンナ(アナスタシア?)は過去を切れぎれに思い出している。処刑の場から助け出された。確か結婚した(旦那は一番上の写真のエドワード・ワトソン)、子供がいたような。でももう誰もいなくて、みんなはわたしがアナスタシアではないという。でもわたしは覚えている。でも・・・。とぐるぐる。自分が誰だかわからない。

ダンスは一変してモダン、リフトされながら痙攣したり、ナタリア・オシポワの身体能力が冴えます。精神が不調な人はまず姿勢がおかしくなる、というのを体現していて痛々しい。壮絶だった。

「マクミランは大好きです、真の女優になれるから」とインタビューで言っていたオシポワ、さすがの出来だ。

ラスプーチンのソアレスも、いつも舞台のどこかにどんより立っていて気持悪くて最高だった。当たり役だ。

今でこそDNA鑑定でロマノフ家7人全員の死亡が確認されているが、60年代だと(ひょっとして?)という疑惑はあった。謎の部分がさらにバレエに深みを加えていただろう。

そういえば今年のロシアのバレエ・コンテスト番組(各地バレエ団の若手が出場)でマクミランの「冬物語」を踊ったペアが、普段から厳しめの審査員に、

「こんな振付はダメです。ロシアのバレエじゃない」とバッサリ切られていた。題材はチェーホフなんだけど、それがさらに気に入らなかったのかも。

オシポワはロシアでは決してアナスタシアを踊れなかったことだろう、ロンドンに来て良かった。

 

オシポワほかのインタビューやリハーサルなど:

 

 

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