死都ブリュージュ(ロシア語訳で)

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The abandoned city, Fernand Khnopff, 1904

ベルギー人作家ジョルジュ・ローデンバック(Georges Rodenbach、1855 - 1898年)による有名な中編『Bruges-la-Morte』(1892年)をロシア語訳で読んでみた。ロシア語だと「Мёртвый Брюгге」(死んだブリュージュ)、和訳でも「死都ブリュージュ」と、”死んだ”はブリュージュという街にかかっている。森茉莉さんだけが、「死んだ”女”よ!」と主張していた記憶があるが、世界的に多勢に無勢のようです。

主人公ユーグはベルギー北部のブリュージュに住む裕福な中年紳士。3年前に愛する妻を亡くしてから全く希望を失って引きこもりがちに暮らしている。妻の部屋は生前そのままに保ち、長い金色の遺髪を眺めては涙する毎日。灰色のブリュージュの街をあちこち散歩するくらいしか外に出ない。

ところがある日散歩の途中で、妻に瓜二つの若い女性を発見する。10年間自分を幸せにしてくれて、亡くなったときまだ30歳そこそこだった妻の若いときのような優しい美しさ。もちろんつけ回して素性を確かめる。彼女、ジャーヌはオペラ劇場で踊るバレリーナだった。

何とか話しかけ、親しくなることに成功したユーグ、ジャーヌに別宅をあてがって住まわせ、バレエは辞めてもらう。亡き妻のドレスを彼女に着せ、「なにこれ、10年前の流行じゃない?超ウケる」(とは言ってないが、そういう感じ)と笑われたり。

(やっぱり妻と違う)と思う。当たり前だろう、何を考えているんだ。

そのうちジャーヌは暇をもて余して遊び始める。顔はそっくりでも、中身は別の人間、しかも彼の記憶の妻よりずっと浅くて軽い人格、と思いながらも離れられないユーグ。狭い街のこと、彼の「別宅の女」は世間の知るところとなる。カソリックの信心深い街の目が厳しい。長年ユーグに仕えてきた老家政婦ロザリーは真面目なので、「旦那さまがそんな女を自宅に連れて来るようなことがあったら、職を辞さなくては」と思っている。

そしてよりにもよって街の大事な宗教行事「聖血の行列」の日(イースターから40日目の木曜日にあたる昇天日に行われる)、旦那がどのくらいお金持ちなのか見てみたいジャーヌが無理をいってユーグの自宅を訪れ、見てはいけないものを見て、悲劇が起こる。

主人公の心を反映するように暗く灰色のブリュージュの町並み、問いかけるように鳴る教会の鐘の音、重い空気感が的確に描写されていて詩的だが、彼の身勝手さは同情の余地はない。だいたい「妻のよう」と思ったのに別宅に囲って家に入れないのが最初から格下扱い、それで自分の思うように動いてくれることを願うのは失礼だ。妄想が激しすぎ、元々年の離れた奥さんのことも、人間としてというより、ただお人形のように可愛がっていただけなんじゃ、と疑ってしまう。

ブリュージュ市民は「死んだ街って、どういうこと?(怒)」と気を悪くしたそうだが、この作品は多くの芸術家を刺激、オペラも映画も作られ、クノップフも名画を描き(一番上の写真)、街の宣伝になっているから許してやってほしい。

映画版ではRoland Verhavert監督の作品『Brugge, die stille』 (1981年)がある。

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<Cast>

Idwig Stéphane: Hugues Viane
Magda Lesage: Blanche Viane / Jeanne Marchal
Chris Boni: Rosalie

実際の街の様子も映像で見られてきれい。奥さん=ジャーヌ役の女優さんはピンと来なかったが、ユーグ役のイドヴィグ・ステファーヌが原作のイメージにぴったり。

映画ではジャーヌは心から好きでバレエを踊っているのに、別宅で大人しくしていることを要求される。ユーグのエゴで若い女性のキャリアも人生も壊されたことが、さらにはっきり描かれている。80年代っぽい。

寒い時期のブリュージュに行ってみたくなり、ユーロスター利用で近々訪ねてみるつもり。この作品はフランス語だが、ブリュージュではオランダ語が優勢のようで、挨拶くらい覚えて行こう。イギリスより寒そう。雪で電車が止まったりしませんように。

 

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アゴタ・クリストフ「悪童日記」(ロシア語版)

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<Толстая тетрадь> Кристоф, Агота

邦題「悪童日記」(1986年) 、なぜかこれ、子供のころに読んだような気がしていたけど、未読だった。きっとトンマーゾくん(だったかな?)みたいな笑える悪ガキものと混同したのだろう。

原作は亡命ハンガリー人の女性作家アゴタ・クリストフ(Agota Kristof、1935 - 2011)がフランス語で書いた『Le Grand Cahier』。子供が書いたという設定ということで、文章が簡単かと思い、ロシア語訳で読んでみる。

最初は思った通り読みやすかったが、電子書籍版にはこの話の続編、日本語の題だと「ふたりの証拠」(1988年)、「第三の嘘」(1991年)も入っていて、ふつうに難しかった!

“でかいノートブック”の「悪童日記」の方は、戦争中、「大きな町」から「小さな町」に疎開してきた双子の少年たちが書いた日記。ジャーナリストの父は戦場に行ったきり、首都は空襲がひどくて食料もなく、母に連れられて国境近い町の祖母に預けられたのだが、この母娘、折り合いが悪かった。

「お祖母ちゃん」は魔女と呼ばれ敬して遠ざけられている存在。夫(双子の祖父)を殺したなんていう不穏な噂もある。そのせいか家を出てから一度も帰省していなかった母が、他にあてがなくて泣く泣く頼ったのだが、急に出てきた孫を可愛がらないどころか、殴りながらこき使う婆ちゃんだった。母が子供のために都会から送ってきたものはインターセプトして市場で売り払ってしまう。おそろしい。

最初のころ泣いていた少年たち、泣いても無駄だと悟るとサバイバルのための技術を開発し出す。まず「大きいノート」に文章を書く。文句言わず働く。殴られても痛さを感じないよう鍛錬する。
「痛くない」「痛くない」といいながらお互いを殴る。スパルタだ。とても頭が良いこの双子、能力のすべてを尽くして生きのびる。その中で立ち回り方、生き方も学んでいく。

戦争中で誰もが余裕のない時代、でも人助けをする心のある人もいる。駐留している将校や兵士に助けてもらったり、逆に自分たちより弱い立場の人を助けたりする。その一方で、心は鋼鉄のように硬く鍛えられる。最後は肉親の死を利用して自由を得るまでに。人間の本質が見えるようだ。

どこの国とも何の戦争とも書いていないし、双子の名前さえわからないのが、かえって普遍的な、戦時ならどこでもありそうな話に思える。作者はハンガリー人なので、戦争中にいた軍(当時は枢軸国だったから味方)がドイツ人で、戦後に入ってきた支配者がロシア人と想像するが、それも決めなくてもいいことだ。(それにしても、陸続きで大国にすぐ攻め入られちゃう立場って本当イヤ、怖い)
もっと早く読んでおけばよかったと思う傑作だ。
が、その続編がまた意外な方向に行く。

「ふたりの証拠」では、双子のうち国境のこちらに残った方のリュカ(やっと名前がわかる)が少年から青年になり、戦後の新しい世界を生きていく。
さらに「第三の嘘」では国境を越えた方のクラウスを主役に置く。

その中で、最初の「ノート」に書かれていたことの真偽が怪しくなってくる。そもそも双子だったのか??まで疑問が生じたりして、いろいろひっくり返る。ええっ、何だったんだ。足元をすくわれる感覚が非常に不思議な続編。
第二次世界大戦でドイツ、その後ソ連にいいように翻弄されたハンガリーの「いったい何だったんだよ!」という恨みが感じられたりする。

ハンガリーで映画になったそうで(2013年『A nagy füzet』、Szász János監督)、見てみたい。

トレイラーではハンガリーそのものな感じです。将校はドイツ語喋ってるし。必死で探したという主役の双子、なかなか良い面構えだ。

 

 

 

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ラーシュ・ケプレルのヨーナ・リンナ警部シリーズ 5 & 6

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ちょっと(だいぶ)余裕がなくて、超さぼってしまった。やっとラーシュ・ケプレルのラスト2冊 について書ける。というか話覚えているのか?という次元。

スウェーデンの作家夫婦が共同執筆しているヨーナ・リンナ警部シリーズ、英訳されている分をすべて読了。

シリーズ5:Stalker (2014) (English: Stalker)

「ストーカー」は、警察に送りつけられる動画が殺人を予告。動画にはジョギングから帰ってアイスを食べて寛いでいたり、着替えたりしている普通の女性たちの姿が映っている。どうも他人の家をこっそり撮影したもののよう。そして映されていた女性が直後に殺される。

ヨーナ・リンナが訳あって身を隠していたため、後任の女性警部、しかも妊娠中、が事件を担当。胎教に悪いといっている場合じゃない。動画が送りつけられ、撮られている女性の命が危ないとわかっても、どこの誰なのかわからないのだ。

この事件には、シリーズ第一作「催眠」でメイン・キャラクターとなった精神科のバルク医師がふたたび関わる。実は彼、以前に似たような事件を起こした男の精神鑑定をして、ちょっと気になることがあったのに、つい追究せずにおいてしまった。その男は今、刑務所にいる。もしかして…間違った男に罪を負わせてしまった?昔の手抜きが祟り、面倒くさいことになる。しかもバルク医師の個人的生活にも危険が迫ってきて、またまたひどい目に遭う。災難を呼ぶ体質か。リンナ警部が途中から勝手に独自捜査を開始、真犯人を追う。

シリーズ6:Kaninjägaren (2016) (English: The Rabbit Hunter)(うさぎ狩り)

政府要人が殺された。そしてその葬式に来たアメリカ人の大物も狙撃される。テロ?政治的暗殺?と思われる。しかしそのうちに、犠牲者がスウェーデンの名門私立校に在籍していたという共通点が浮かび上がる。

同じ高校を出たのがテレビにも出ているセレブ・シェフのレックス、同級生に政治家や大企業のトップがわんさかいる中、自分など負け組だと感じていた。が、その彼にも危険が?いったい犯人の狙いは何だ。それにはエリート集団中のトップ・エリートたちによる卑劣な事件が関係していた。

ドライで進歩的なイメージのスウェーデンですが、王のいる立憲君主制国家なんですよね。特権階級もいるわけだ。思いあがった少年の残酷はひどいものがある、そしてその恨みも。犯人の気持ちがわかるので、気の毒にも思う。

今回も妖精姫サーガ・バウエルが活躍。ヨーナ・リンナは相変わらず立場が定まらず迷走中、このまま警察の外で生きていくことになるのかな。いろいろ心配だ。

両方ともクオリティ高く安心して読めるが、わたし的にはシリーズ3、4くらいが最高かな。今回の2作ではヨーナ・リンナがいない時のスウェーデン警察の壮大な作戦失敗(的はずれだった)や、捜査で行った秘密クラブでついイケナイことをしてしまう警官とか、人間臭いともいえるが脇道な話が長い感じもしたので。ドラマ化したら面白いかも。

2018年の『Lazarus』(ラザロ)の英訳が待たれる。ラザロってことは誰か生き返るのかい?

そういえば、これはネタバレになるかもしれないけど――今までの犯人全員、後日談や、裁判で言いたいことを言った人はいない。みんな警察に追いつめられた段階で射殺されてしまうのだ。撃ち合いだし、犯人であることが確定なのは事実だが、ちょっとなあ、と思う。完全な死体が上がってない奴がひとりいる、じゃああいつが?と想像しつつ、楽しみに次を待つことにする。

 

 

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ラーシュ・ケプレルのヨーナ・リンナ警部シリーズ 3 & 4、「交霊」など

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スウェーデンの夫婦合同ペンネーム、ラーシュ・ケプレルによるヨーナ・リンナ警部シリーズ 、英訳版で6まで読了。もうなーい!去年の最新作を早く訳して〜。

前を忘れそうなので、急いで2冊まとめて書いておきます。

The Fire Witness」(原題『Eldvittnet』、2011年。邦題「交霊」)

問題を抱えた少女たちを保護・支援する施設で夜、「反省するための部屋」にいた少女と、建物の外にいた当直看護師の女性が惨殺される。翌日、施設の少女のひとりヴィッキーが失踪していることがわかる。彼女の枕の下から血まみれの斧が!しかも近くの林道で母親がちょっと目を離した隙に車が幼児ごと盗まれてしまう事件が発生。盗んだのはどうもヴィッキーらしい。

ここでリンナ刑事が登場、となるわけだが、彼は実は前作で強引な捜査をやり過ぎて内部調査が入っている身。なので自分の担当にはできないが、「オブザーバー」と称して担当刑事の捜査に口を出す。うるさい。(しかも彼がいつも正しいので、本当の担当者は悔しいw)

ホームレスのアル中お母さんに連れられて転々としていたヴィッキーの身の上が気の毒。6歳まで国にその存在も知られていなかった子だ。母と離されてからは里子や施設を渡り歩き、どこにも落着けない。

ヴィッキーが疑われ追われている中、かつて彼女を里子に迎えたが不安定なための問題行為が多く、あまりの大変さに根をあげてまた手放してしまったエリンという女性が責任を感じ、ヴィッキーを引きとれないかと動き出す。

また、いんちき交霊術で小遣いかせぎをしているフローラがからんでくる。本当は霊感などなく、「亡くなったお子さんはあなたを許していますよ」なんて客の聞きたいことを適当に言って商売していたのだが、この事件が報道され始めたとたん、本当に殺された少女が見えるようになった!血みどろの少女が、何か言いたい様子。思わず警察に連絡するも、もちろんまともに取り合ってもらえない。リンナ警部は一応彼女に会うが、「時間の無駄だったか」とがっかりすること数回。でも、ちょっとだけ気になるところがある。

ひっかかることは決して無視しない警部、丹念に犯人を突き止めていく。その身バレにフローラの霊視が絡んできて、19世紀のロシアじゃないから本当の霊ではなく…という説明もよくできている。

この回ではリンナ警部が、ある凶悪犯から家族を守るために取った思いきった手段が明らかになる。そして次回はついにそいつとの対決か?

ということで、4作目が:「The Sandman」、原題『Sandmannen』 (2012年)、ここからは和訳まだなし。

サンドマンとは幼い子の目に砂をかけて眠らせるおじさんのこと。ドイツが元の童話なのかな、イギリスでもよく聞く気がする。

幼い頃誘拐され、そのまま監禁されていたらしい青年がある日出現する。当時は亡くなったと思われていたが、リンナ警部は宿敵シリアル・キラーのユーレック・ウォルターがさらったと考えていた。しかもまだ妹が囚われているという。ユーレックは12年前にリンナ警部自身が逮捕して、その後は要塞のような特別刑務所の独房に入れられた後、一度も外に出されたことはないはずだ。外部に協力者がいるのか?

情報を聞き出すために、凶悪犯のふりをして隣りの独房に入る任務が、あの妖精姫サーガ・バウエルに与えられる。とんでもなく危険な役だ。まずユーレック自身が、『羊たちの沈黙』のレクター博士みたいな、人の心理的弱点をついてコントロールしようとしてくるタイプ、かつ凶悪。さらに、彼女が実は捜査官だとは刑務所の職員にも知らされていない。「ひえーすごい美人」と看守も犯罪精神医学の専門医も見とれ、中には下心を持つやつも。孤立無援な立場。ハラハラする。

サーガが危険を冒して得たわずかな情報をキャッチし、推理して解決の糸口を見つける警部とのチームワークがすばらしく、ユーレックの素性がわかってくる。が、敵もレクターもどきの頭脳、ただで済むはずはなく…と、スリリングなバトルが展開する。

3作目と4作目、ますます脂がのっている感じでうまい。こういう、粘着質の凶悪犯との心理的闘い、逃げられるかこちらの捜査が早いか、というサスペンスが、派手なドンパチ(2作はけっこう派手だった)よりも持ち味であり、面白い気がする。

この4作目ではラストでリンナ警部が…とびっくりする事態へ。でも5作目以後もあるんだから、まさかねえ。次が気になります。

 

 

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ラーシュ・ケプレル「The Nightmare」

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夫婦でミステリを共同執筆しているラーシュ・ケプレルの第2作、『Paganinikontraktet』 (2010年)を英訳で。英題は悪夢という意味ですが、原作タイトルの直訳は「パガニーニ契約」、邦題の「契約」の方が近いですね。

若き平和運動の活動家ペネロペがボーイフレンドのクルーザーで週末を過ごそうとしていると、彼女の妹ヴィオラが飛び入りで参加することになる。ところが船出してから、昼寝していたはずのヴィオラが船上で死んでいた。もしかして自分たちも狙われている?ここからプロの殺し屋と思われる男がガンガン追ってくる。必死の逃走劇が始まる。

一方、スウェーデンの武器輸出を監督する「戦略製品査察庁」長官のパルムクローナが自宅で首つり自殺。どこから見ても自殺だが、ヨーナ・リンナ警部はなぜか納得できなかった。

関係なさそうな2つの事件、実は武器輸出にまつわる巨悪に接点があるとわかってくる。

相変わらず細かい疑問を放置しない頑固なリンナ警部が事件の真相にせまる。今回は社会派?でスケールが大きくスピード感抜群で、面白いです。

パガニーニは言わずと知れたヴァイオリンの名手、その超絶テクニックを手に入れるために「悪魔に魂を売った」なんて噂されている。死んだパルムクローナの後任となったアクセルは一時はヴァイオリニストを目指し、その後進路を変えた人。彼の音楽の知識が事件の謎解明に役立つなど、音楽の蘊蓄話も展開。

今回から公安警察のサーガ・バウエルという二十代の女性捜査官が登場。優秀なのにルックスが「エルフみたい」、妖精のお姫様みたいなので軽く見られ、手柄を同僚に取られたりしてしょっちゅうキレている。(北欧なのに)意外に女性差別的な警察組織では、バレリーナの容姿はソンなようです、がんばれ。

彼女の登場で主役の座を半分取られる?リンナ警部ですが、持病の頭痛や、恋人の考古学者ディーサとの関係なども描かれ、個人的な部分がわかってきます。え、考古学者と警部って、すれ違いが多くてなかなかデートできなそう(笑)。

1作目よりまとまりが良く感じ、飽きずに読めた。しかし武器関係は本当にやばいですね。壊し合うんだから儲かりますよ。恐ろしい。スウェーデンが武器輸出でけっこう上位国だとは知らなかった。この本では9位となってますが、最近は20位くらいに落ちたようです。

3週間で3作は無理だろうという予想に反し、次の3つ目もぺろっと読んでしまった。電子書籍(文字大き目)で全部で1400ページ超え。忙しいはずなのに、おかしいな。もっとも、章立てが細かくて、章の最後のページが3行だけなんていうことも多いけど。

 

 

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ラーシュ・ケプレル「The Hypnotist」

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このところ天気が安定せず、冷たい雨が1日降ったり、イギリス中部では洪水がおきたり。でもたまに天気がいいときは最高です。↑先日ケンブリッジの植物園で撮ったスマホ写真。

電子図書館で借りた、スウェーデンのLars Kepler作「The Hypnotist」を読む。原題は『Hypnotisören』、2009年。邦題は「催眠」だそうです。

ラーシュ・ケプレルは作家夫婦アレクサンデル・アンドリルとアレクサンドラ・コエーリョ・アンドリルがミステリを共同制作するときの筆名。最初は完全匿名にしていて話題を呼んだとか。クセの強い(「俺は間違わないから」)凄腕警部ヨーナ・リンナが活躍するシリーズの、第一作目になる。英語だと627ページ。

ストックホルム郊外で一家が惨殺された。離れたスポーツ施設で父親が、家で母親と幼い娘が殺され、15歳の少年が血の海の中、虫の息で発見される。強い恨みがあるようだ。この家族にはもう一人、離れて暮らす成人した長女がいる。

彼女にも危険がせまっているかもしれないと、リンナ警部は意識不明の少年から情報を聞き出すために変った手段に出た。催眠療法で有名だったが10年以上それを封印している医師バルクに、再び催眠術を使ってくれと依頼したのだ。

この一家惨殺がメインの話だと思いきや、違った。主題はバルク医師が催眠療法を辞めてしまった原因、そこから派生した問題の方だった。しかも画廊のオーナーである奥さんとの夫婦仲もぎくしゃくしている。そのうちに一人息子ベンヤミンが誘拐されてしまう。一家殺人の犯人のしわざか?

600ページ強よりも長く感じるてんこ盛りな内容だった。初作だからはりきっちゃったのかも。夫と妻のどっちが、息子が誘拐されて行方不明中に妻が不倫するなんていう話を考えついた?(笑)

さらにこの奥さん、引退した優秀な警察幹部だったお父さんに「パパの方が話が早いわ」と独自捜査を依頼しちゃう。

みんな懸命に殺人鬼とベンヤミンを探すが、動きがバラバラでお互いの連絡が悪すぎ。落着いてチームワークすれば解決はだいぶ早かったのじゃないかと思う。

意外な犯人、犯人のヤバさの印象が強く、伏線もきちんと生きていて面白く読めた。リンナ警部の印象がまだ薄いかな。金髪で背が高いようだ。同僚に「おいムーミン」と呼ばれたのは、きっとフィンランド語が母語の人だからでしょう(体型じゃなく…)。

借りたバージョンは1作目から3作目まで一気に入っているもの。残り2作も3週間以内に読めるだろうか。電子図書館は延長ができない(また借りればいいんですけど)。このまま雨がちの天気が続いたら読了できるかな。

 

 

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イアン・ランキン『The Travelling Companion』

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2007年放送のBBCドキュメンタリー『Ian Rankin Investigates: Dr Jekyll and Mr Hyde』、再放送を見た。推理作家イアン・ランキンが、ロバート・ルイス・スティーヴンソン(1850 - 1894)作「ジーキル博士とハイド氏」(The Strange Case of Dr. Jekyll and Mr. Hyde)の創作の裏話を紹介、スティーヴンソンのドラッグ癖とか、インスピレーションとなったロンドンの著名な医者の家などを見せてくれて興味深かった。2人ともスコットランド出身でエディンバラに縁がある。大学時代にスティーヴンソンに多大な影響をうけたランキンならではの視点だ。

そういえばランキンの作品をひとつも読んでいない。『リーバス警部』シリーズで有名なようだが、まずは比較的最近、2016年の中編『The Travelling Companion』を。

作者と同じくスティーヴンソンを研究している青年ロナルドは、大学卒業後の夏休みにパリに滞在、たまたま、英語の古書店の主人に出会い、店の一室で寝泊まりさせてもらう代わりに軽い店番などすることになった。仕事は楽で自由時間はたっぷりあるし、狭いが寝る場所はタダ、ラッキーだ。

しかもある謎めいた古書収集家がロナルドに、発表されなかった「ジーキル〜」の初稿と、これも出版されなかった『The Travelling Companion』が、

「ありまっせ…」と言ってくる。

ええっ! そ、それは、「実はロシア語で書かれていた『ロリータ』の最初の構想スケッチ」みたいなものだよ。たとえが悪いか。

もちろん一目見たいロナルドだが、そんなにすぐには読ませてもらえない。そのおっさんの信用を得ないと。しかし突然現れたアリスという若い女性が「あの人はたまに悪いジョークをしかけてくるから、気をつけた方がいいわよ」と警告する。

いつも急に出てくる不思議なアリス。彼女にも惹かれるが、でもやっぱり、世界のスティーヴンソン研究者が存在すら知らない貴重な文献、手にしたい…。

そのうち赤ワインの飲み過ぎとドラッグも手伝い、ロナルドの精神に異変が起こってきて〜という、ジーキルとハイドを地で行くような展開。予想はつくけれども面白く、オチがじわっと怖い1編。

ついでに、青空文庫に古い翻訳があるので久々に読んでみた:

ジーキル博士とハイド氏の怪事件

この作品、だいたい小中学時代に読んでしまって分かった気になっているけど、読み返してみると大人向きで複雑な話ですよね。悪いハイド氏は純粋に悪いけど、ジーキル博士は善悪両方残っていたとか、(そうだったんだ)という部分がたくさんあった。名作はたまに読み返すと発見があります。

 

 

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『4 3 2 1』by ポール・オースター

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面白かった!ポール・オースターの『4 3 2 1』(2017年)、久々に読んだ大長編・傑作。本当に長くて時間がかかった。ペーパーバック版で1088ページもあって、600ページ終わってもまだ普通の本1冊分以上残っている。電子書籍版でよかった、本だと重いよ。でも長いのもしょうがない、なにしろ1人の人間の4通りの成長の話だから。

主人公アーチ―・ファーガソンの祖父はロシア系ユダヤ人、若くしてアメリカに移住した。貧しい移民のまま死を迎えるが、その子(アーチ―の父)になると自営で店を営むまでになって、同じユダヤ系で少し裕福な美人(アーチ―の母)と結婚。

こうしてこの2人の一人っ子アーチ―の人生が始まるが、なぜか4パターンの人生があって、章立ても〇章の1、2、3、4のようになっていて、それぞれの話が進む。

人生の道はちょっとしたことで違う方向に進む。もし父の店が大繁盛してチェーンを経営するような成功者になったら、逆に先細りでいつもお金がない生活なら、さらに事故で父が亡くなってしまったら!などなど。

同じ人だが4人のアーチ―は別々の境遇の人生をたどっていく。お父さんが仕事人間で結局離婚とか、母子家庭になってニュージャージーからニューヨーク市内に移ったりとか、母が再婚して新しいきょうだいができたり、その結婚相手が別の人できょうだい・いとこの組合せが変わったり…住む家も、学校も友人も、恋人もさまざまなパターンに分かれていく。

同じ年代を4通り読むのだから飽きそうなものだが、そうでもない。いろんなことが起き、そこから学んで成長していくアーチ―の態度が真摯だから、味わいながら読んでいける。

別の人生でも同じ人間(遺伝子は同じ)、進んでいくだいたいの方向は似ている。運動が得意で野球やバスケットボールのスター、成績もトップクラス。コロンビア大学に進むかプリンストンかで悩んだりする。羨ましい、そんなレベルで悩んでみたかった。お金の問題がらみなので本人は辛いのだけど。文章を書くことが好きなのも同じで、ジャーナリズムに進むバージョンがあったり創作、翻訳に才能を見せるバージョンなどがある。

男子として思春期以後の「ガールフレンドがほしい!」欲求も切実だ。同じ女の子が母の結婚でいとこになって親しくなったり、姉になっちゃって近すぎでダメになったり、つき合うけどだんだん合わなくなっていったり。別の子に走ったり男に目覚めたりしちゃう、はは、いや、笑いごとじゃないんだよね…。

人生のいろんな分かれ道、違った道ならどうなっていただろう、自分は自分だが、結果はどのくらい違っていたのか。

現在72歳のオースター、本書を書いたのは60代の終わりくらい、自らを振り返ってみたのだろうか。オースターの誕生日は1947年2月3日で、アーチ―・ファーガソンが同年3月3日、育った場所など共通していることも多いのだ。

描かれているアメリカの戦後史も興味深い。第二次大戦が終わっても、暴力の連続だ。朝鮮戦争、ケネディ大統領暗殺、キング牧師の暗殺、ベトナム戦争、反戦運動から火がついた学生紛争etc.。特にベトナムは、当時は徴兵制で男子は学校を出たら基本的に軍隊に入らなければならなかったから、生きるか死ぬかの問題だ。

そして、全員が20代後半まで生き延びられるのではない。途中で死んでしまうパターンもある。それも、ちょっとした原因で、ほとんど間抜けな死に方なのが無慈悲だ。その理由は最後に納得いくようになっている。なるほどそういうことか。

面白かったのは父母の扱い。お父さんの方はいろんな目に遭わせて殺したり疎遠になったりだが、お母さんは無事で、父がいなくなると悲しむけど立ち直り、プロの写真家として認められるなど、しっかり生きていく。父母差別してます(笑)。でも父への複雑な愛情も深いんだよね。

読み応えがあった。ちょっと退屈、と思ったのはあまり興味のもてないコロンビア大学の学生運動のところくらいかな。それ以外は、徐々に文学や文章を書くことに目覚めて修業していくアーチ―(ズ)の道をいっしょに歩いて行く気分で読めた。

ついイギリスものばかり読んで、オースターはほとんど未読だった。彼の他の作品もチェックしてみたい。

さて、明日からロシア語の週末講座です♪

 

 

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ピーター・スワンソン『The Kind Worth Killing』をロシア語で

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ロシア語版の表紙の裏表を開いた図、デザインがきれい。

とっくに明けましておめでとうございます。今年もよろしかったらおつき合いください。

Peter Swansonの『The Kind Worth Killing』が、ロシア語だと「Убить лучше по-доброму」 (Свонсон Питер)になります。日本語訳が「そしてミランダを殺す」、どっちも意訳ですね。わたしだったらどうするかな。「殺して正解」とか?

ロシア語でもわりと平易なため、楽しく読めた。

旅先で偶然出会った人に(もう二度と会わないだろうし)とつい心の内を打ち明けるというのは、たまにあること。リッチなコンサルタントのテッドも、イギリスの空港のバーで会ったリリーとボストン行きの飛行機も同じで、「妻が浮気してるんだ、殺したいよ」とポロっと言ってしまう。

「ひどいわね。手伝ってあげる」といきなり乗ってくる美女リリー。ええっ。

冗談だろうと思いつつ、きれいなリリーにまた会いたい、とスケベ心を起こして再会を約束。しかし彼女は本気だった。テッドの不実な妻ミランダとその愛人を消すべく、プランを練り上げ…。

そんなプラン通りにうまく行くかい? と読んでいるうちに事態が激変。その後も思いがけない展開となって、あれよあれよ。面白い。語り手と視点が章ごとに切り替わる構成も、相手の知らないこちら側の過去などが明らかになるしくみだ。

登場人物みんなキャラが立っているが、少なくとも2人くらいはサイコパスというか、思考回路が、

困ったことになった→あの人がいなければいい→殺す

いいことがある→あの人がいないとうまくいく→殺す

というとんでもない人間。人が死んでも何とも思わず、良心だの罪悪感だのがないから淡々とすべきことを実行、だからけっこう成功率が高い。怖っ。しかし普通の感覚でないので、変なところがスポッと抜けていたりする。やっぱりバレるんじゃない?…

エンタメとして読むならいいけど、実生活で絶対出会いたくないタイプの人たちです。

わりとストーリーを追えたので気を良くしてイワン・ブーニンを読み出したが、やっぱり難しいわ。言葉のレベルが違うようです。
 

 

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ピーター・スワンソン『All the Beautiful Lies』

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Peter Swanson (1968〜)『All the Beautiful Lies

自分の分が終わるめどがついたら、チーム内の都合の悪くなった人の分が回ってきた。年末年始あるあるかも。時間あるからいいけど。

とはいえ休日らしいこともしたい。電子図書館から適当に借りたピーター・スワンソン、読みやすくて2日で読めた。

もうすぐ大学の卒業式というときに、ハリーは父の後妻アリスから、父が事故で亡くなった、と連絡を受け、急きょメイン州の実家に戻る。アメリカにメイン州なんてありましたっけ(無知ですみません)、東海岸の最北部なんですね。風光明媚なようです。

いつもの海岸の散歩コースを歩いている時に、崖から転落したという父。信じられないうちに葬式も済ませるが、ある日警察が訪ねて来る。事故死でなく、事件の可能性があるというのだ。

ニューヨークで開いていた古書店を地元でも開き、順調だった父に何が起きたのか? 卒業式も出ず、そのまま夏の休暇にとどまることにしたハリーだが、父の13歳年下、つまり自分より13しか年上でない、どういう人なのかほとんど知らない美人の「継母」アリスと2人きりになるのが楽しいような恐ろしいような…。

対比するように、アリスの過去の章もはさまれ、かなり特異な少女時代からの話が展開する。

心理的スリラーがはらはらさせて、面白く読めた。真犯人も、かなり後の方まで気づかなかった〜。ちょっと文句をつけるとすれば、どの人物も特に”友達になりたい”タイプでなく、どういう目に遭っても心は動きませんが。だからストーリーとして離れたところから楽しめるのかも。平易な文章で、読者の気をそらさないように書かれている。ロシア語訳で読むと疲れ過ぎずいい練習になりそう。と今は彼の「そしてミランダを殺す」をロシア語で読んでます。これも面白い。

季節感も何もない、今年最後のポストでした。みなさま良いお年を。

 

 

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