カリン・スローター『The Good Daughter』

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The Good Daughter: The best thriller you will read this year
The Good Daughter: The best thriller you will read this year

これもリラックス用に電子図書館で借りたが、お風呂で読む本としては失敗。途中で止められず、気がついたら浅い風呂のお湯がぬる〜くなっていたりした。しかもかなり心理的にやられる。リラックスなんかできず。でもとてもうまい作家だと感心。

米南部生まれのKarin Slaughter(1971 -) の2017年の作品『The Good Daughter』。

父は弁護士、母は科学者という家庭の姉妹サム(サマンサ)とチャーリ―(シャーロット)、頭がよく、運動でも奨学金を狙えるレベル。普通なら何不自由なく生活しているはずなのに、最近放火で家を焼け出され、一家でボロい農場に住んでいる。

実は父は犯罪者を弁護する立場。信念をもって熱心に引き受けている。殺人犯など重大な犯罪者をかばっている(ように見える)彼は、被害者やその身内、全然関係ない人までから憎まれていた。

しかも弁護してもらった犯罪者の中にも感謝するどころか逆恨みしたりするやつも。

そしてある日、家が襲撃を受ける。母は射殺され、姉妹のうち一人は走って逃げ、一人は森にとどまった。

ーー のが28年前のこと、姉妹のうち姉はニューヨークで特許弁護士に(遺伝的に見て最適)、妹は地元で父のような弁護士になり、互いに疎遠だった。その地元で再び重大な犯罪がおきた。小学校の発砲事件で教師と児童がひとりずつ殺される。アメリカでは毎月起きているケースだけど。そのときたまたま現場にいたのが妹のチャーリ―だった。

父はもちろん容疑者の弁護を引き受ける。現在の事件を探っていく中で父娘関係と姉妹関係の複雑なもつれが明るみに出、過去の事件の真実も明らかになる。

昔の事件は姉の視点と妹の視点で2度語られ、最後にまた別バージョンまであり、3回も残酷な暴力場面を読まなくてはならず、気持ち悪さが腹にくる。話の通じないどうしようもない人間というのはいるもので、そういのが武器を持つとどうなるか、ということが克明に書かれる。

でも実際に犯罪の被害者になった人なら記憶はこびりついて何度も思い返し、夢に見るだろう。安全圏にいる(しかもフィクションの)読者が3回ひどい場面を読むくらい、我慢しなさいよ、という作者の意図かな。

緻密に編まれたプロットに、登場人物ひとりひとりが単純でなく人間らしいのが面白く、ラストは良い方向に動いたので救われる。そこに行きつくまでが犠牲がいろいろ出て壮絶だけど。銃撃で頭が半分ふっ飛ぶとか、リアルな暴力描写が大丈夫な人にはお勧め。お風呂では読まないようにね。

 

 

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ミス・マープル2冊、『A Caribbean Mystery』と『Nemesis』

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A Caribbean Mystery (Miss Marple) (Miss Marple Series)
A Caribbean Mystery (Miss Marple) (Miss Marple Series)

日が短くなって、4時前には暮れてしまう。寒くて気温も低いし、暗いです。

こういう時にはアガサ・クリスティのミス・マープルもの。珍しく彼女がカリブ海のリゾート地に静養しに来たという設定の『A Caribbean Mystery』(1964、邦題「カリブ海の秘密」)。本の中だけでも太陽と暑さを感じたい。

小ぢんまりしたホテルに逗留するジェーン・マープル、そこのお客とも仲良くなり、ゴシップも仕入れる。話好きのパルグレイヴ少佐が、「実は、殺人犯の写真を持ってるんですよ」と見せようとしたが、ジェーンの背後の誰かを目にとめると慌てて写真をひっこめてしまった。(どうしたのかしら急に?)と思っていたら、その夜に少佐が死亡。血圧が高かったから〜ということになったが、腑に落ちないマープルさん、聞き込みを始める。最後に意外な犯人と、そいつのとんでもないたくらみが暴かれることに。

ここで知り合ったのが、すごいお金持ちでわがままなラフィール氏。老齢で体が弱っているが頭ははっきりしている。最初は単に、せんさく好きなおばあちゃんだ、とミス・マープルを軽く見るが、すぐに彼女のシャープさを見抜き、最後は協力してくれるようになる。

このラフィール氏がまた重要な役割をはたすのが、『Nemesis』(1971、邦題『復讐の女神』)。

Nemesis (Miss Marple) (Miss Marple Series)
Nemesis (Miss Marple) (Miss Marple Series)

実は彼はとうとう亡くなったのだが、死の直前に書いた手紙がミス・マープルに届く。ある件を解決してもらいたい。どういう件かは後でわかる。もし引き受けてくれるなら、ツアーに申し込んでおいたので、それに参加してくれ・・・という謎めいた内容。一度会っただけだが事件にいっしょに巻き込まれ、お互いを尊敬した2人だ。興味を引かれ、彼の手配で参加したのは「英国の美しい庭園めぐり」というのどかなもの。しかしそこで、参加者のひとりが殺される。

最初は「解決するって何を?」ということさえ不明なのが、だんだん手がかりが見えてくる。ラフィール氏がどうしても真相を明かしてほしい過去の殺人事件があったのだ。生前のラフィール氏にギリシャの女神「ネメシス」と呼ばれたことのあるミス・マープルが、彼の期待に応えるべく動く。ネメシスは復讐の女神というより、罪ある人間に正当な罰を与える、という感じのようです。犯人と直接やりとりする場面もあってけっこうドキドキ。

2冊ともビニールカバーに入れたiPadで風呂の中で読んだ。のんびりできる至福の時間だ。

ところでミス・マープルの映像化はあまり見ていないので、イメージは固定されていない。今回はなぜか女優ですらない料理家のメアリー・ベリーの顔になっていた。以前BBCでやっていた、ケーキ焼きコンテストの審査員さんです(笑)。ちょっとモダンすぎるかしら。

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未読の方は、こっちから先に読むと話がつながります。

カリブ海の秘密 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

 

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『The Anna Karenina Fix』ロシア文学で人生の問題を解決

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The Anna Karenina Fix: Life Lessons from Russian Literature
The Anna Karenina Fix: Life Lessons from Russian Literature

ヴィヴ・グロスコップ(Viv Groskop、1973〜)はジャーナリストとして活躍しながら、スタンドアップ・コメディアン(ひとり漫才みたいなの)でも成功しているという才能ある女性。2つの大学でロシア語とロシア文化を研究したそうで、彼女の書いた『The Anna Karenina Fix: Life Lessons from Russian Literature』を読んでみた。面白い。

ロシア(ソ連)文学の代表作を取り上げて作品と作者を解説しながら、自分の体験談なども交える。たとえば:

自分が何者であるか知るにはーー「アンナ・カレーニナ」、(または、列車に飛びこんではいけない)

人生に何が起ころうと立ち向かうにはーー「ドクトル・ジバゴ」、(または、身重の奥さんを捨ててはいけない)

自分の最大の敵にならない方法ーー「エヴゲーニー・オネーギン」(または、親友を決闘で殺すなかれ)

タイトルとサブタイトルを読んでいるだけで笑える。他に取り上げられているのはアンナ・アフマトワの詩に、「村のひと月」(戯曲、ツルゲーネフ)、「罪と罰」、「三人姉妹」、「イワン・デニーソヴィチの一日」(ソルジェニーツィン)「巨匠とマルガリータ」、「死せる魂」、「戦争と平和」と、重要な作家・作品をおさえている。

まず最初に、ロシア人の名前はなんで面倒くさく変化形がいっぱいあるのか、など初心者にもわかりやすく説明。結局”わけがわからない”という結論になるんだけど。

ロシア文学に熱中して90年代に留学までしたヴィヴ、イギリス人なのにロシア人になりきりたいという野望をもつ。珍しいやっちゃ。「グロスコップ」という自分の姓はロシアと関係ありやしないか、と調べたりする。−−ポーランドにいたユダヤ人で、親戚がカナダにいるということが判明。

ロシアで若い友人の葬式に出たり、ウクライナ人のミュージシャンとつき合って邪険にされたり、苦労しながら、辛いときにはロシア作家の作品をひもといて人生の糧にした。

たとえば「巨匠とマルガリータ」を書いたブルガーコフは当局のブラックリストに載っていて、作品は生きているうちには発表されないのが分かっていた。しかし彼はユーモアをもって荒唐無稽なフィクションを書く。笑いは人を救うと実感。

ウィットのある文章で、ロシア文学への入門ともなり、味のある人生の教えにも触れられる。

チェーホフの「三人姉妹」ではモスクワで育ったが地方都市に埋もれ、また戻りたいと願いながら果たせぬ三人の姉妹が描かれるが、

-- これが男の三兄弟ならチェーホフが生きていた当時でも「三人の兄弟がいました。彼らはモスクワに行きたかった。そしてモスクワに行った」とすごく短い話になるだろう、という。ははは、そうかも。

悪戦苦闘の後に「やっぱりロシア人にはなれない」と悟るヴィヴだが、決して楽でない人生を送った作家たちとその作品から、大切なことをいくつも学ぶ。

ロシア文学好きなら知っている作家や作品について新たな情報があって楽しめるし、紹介された本は全部読みたくなる。よく知らない、という人も、映画やドラマはしょっちゅう作られているので、ちょっと興味を持ったら手にとってみるといいかも。読み始めたら面白いこと請け合い。

 

 

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本2冊

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f植物園の巣穴 (朝日文庫)
f植物園の巣穴 (朝日文庫)

休暇中も前後も時間がなくて、あまり読書できず。本当は日本語をまとみ読みしたかったんだけどー。

1冊目は日本の田舎の図書館で借りた、梨木 香歩『f植物園の巣穴』、2008年の作。

日本の現代作家は全くといっていいほど知らない。名高い『西の魔女が死んだ』も読んだことがなく、作家の名もピンとこなかったわりに、その場で手に取り、本の雰囲気だけでこれを借りたのは我ながらカンがいい(笑・自画自賛)。

植物園で働く園丁の主人公、歯が痛くなって歯医者に行くが、ちょっと変てこなところで、助手をつとめる奥さんは前世が犬だったとか、手がたまに犬足になっている。そんなんで大丈夫か。

何だかありえないことばかり起こって、どうもおかしい。そういえば歯が痛くなる前に植物園の穴に落ちたような気もする。記憶があいまい。そして執拗によみがえってくる昔の記憶と、今のヘンな現実(なのか?)が混じっていく。

生真面目で面白味はなさそうな園丁氏の語りが日本語で読めるのがありがたい。彼には「不要」と判断して抑えていた記憶があったのだが、それは本当は大切なものだった。向き合うべきものと和解できてよかった。折り合いがついて初めて手放せるものがある。アイルランドの昔話なども出てくるのはこの作家の得意分野なのだろうと想像。別の作も、今度はもっとゆっくりした気分で読んでみたい。

次は帰ってきてから電子図書館で適当に借りた。

The Doll's House: DI Helen Grace 3 (Detective Inspector Helen Grace)
The Doll's House: DI Helen Grace 3 (Detective Inspector Helen Grace)

M. J. Arlidgeの「人形の家」、2015年。マシュー・アーリッジ(1974-)は長年テレビドラマも手がけている作家。これはイギリス南部のサウサンプトンを舞台にヘレン・グレース警部が活躍する犯罪ものシリーズの3冊目、ということを後で知った。

海岸で若い女性の死体が発見される。死後数年と思われるのに、たまにTwitterでメッセージなど発信していて、家族は彼女が生きているものと思っていた。殺した人間が被害者を装っていたのか。ヘレンは余罪ありと見て、他に失踪した若い女性がいないか調べ、案の定…。シリアル・キラーの存在が浮かび上がる。そして最近いなくなった!という届けが出された女性が。彼女のことは救えるか?

名前負けせず美人で頭もきれるヘレン、あまりできるので直属上司に嫉妬されて変な落とし穴を掘られたりするが、タフに闘う。実は彼女も悲惨な子供時代を体験しており、猟奇的な殺人者が許せないのだ。並行して、今捕まっている女性の必死のサバイバルも描かれてハラハラする。小説ですから、最後は助かるし、犯罪者の心理も説明されていて、まあ腑に落ちるわけです。読み終えた頃に日本の連続殺人事件の報道がされて、やはり現実の方が訳わからず恐ろしいわ、と思ったりした。

ところでやっと「ブレードランナー2049」を観てきた!近々書きます。

 

 

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ルース・レンデル『The Bridesmaid』

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ルース・レンデルの1989年作『The Bridesmaid』をロシア語で読んでみた。タイトルは「Подружка невесты」、直訳です。日本語訳の題は「石の微笑」だそう。

一瞬ロシア語が上達したのかと錯覚したくらい読みやすかった。もちろん大意を理解するのが楽だったということで、細かいニュアンスなどは飛ばしてますが。舞台がイギリスのせいで、知っていることが多いためだろう。地名などは、ゴルデルス・グリン?ああゴルダース・グリーンね!と手間がかかることもあるけど。レンデルの原文も平明で分かりやすいのだろうと想像できる。

ロンドンで働くフィリップは平和主義で暴力が嫌い、テレビで見るのも嫌なくらい。

姉の結婚式でブライズメイドのひとり、ゼンタという女優の卵に一目惚れし、順調に大恋愛に発展する。

ゼンタというのは珍しい名前だ。ワーグナーのオペラ「さまよえるオランダ人」のヒロインくらしかいないが、フィリップはオペラは知らない。彼が惚れたのは、家にあった大理石の彫刻の女神フローラにゼンタがそっくりだと思ったから。亡き父が母に贈った彫像は、長年彼の理想の女性だったのだ。

美しく情熱的でけなげなゼンタだが、ちょっとエキセントリックなところもある。思いこみも激しい。わたしたちの愛は運命、と言いきる。

そしてついに、耳を疑うようなことを言い出す。お互いへの愛を証明するために、めいめいXXしよう、というのだ。このXXは、犯罪ですよ。それも万引き程度じゃない。

だいたいこのへんで「この女、やばいやつだ」と気づくと思うが。

若くて恋しているフィリップは、なかなか彼女から離れる気になれない。自分基準で、「冗談言ってるんだよね?」と自らに言いきかせようとする。まさか本気じゃないでしょ。ジョークだったら良かったんだけどね・・・。

ぼさっとしているうちに事態はどんどん悪化、気がついたら深い泥沼にはまっていた。ここまでくると、ゼンタへの愛情は薄れても、憐れみの情がわいてしまう。だから逃げろって。

いろんな悪い事情も重なり、こなきじじいのように、大理石の像のように、重くなってくるゼンタに押しつぶされそう。

ラストはなかなか心臓に悪い。

そこに至るまでの伏線が巧妙にはりめぐらされていて、あみだくじをたどって地獄に落ちるプロットは完備している。レンデル、容赦ないね。

これもフランスのクロード・シャブロル監督が2004年に映画化している。むしろフランス映画の方が合っているかもしれない。「La Demoiselle d'honneur」、主演ブノワ・マジメルがひどい目に遭うのか、見てみようかな。

原作:

The Bridesmaid
The Bridesmaid

日本語版:

石の微笑 (角川文庫)
石の微笑 (角川文庫)

 

 

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ルース・レンデル『The Girl Next Door』

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The Girl Next Door
The Girl Next Door

イギリス推理小説界の重鎮Ruth Rendell (1930 - 2015)、1960年代から21世紀になっても活躍した、キャリアの長い多作な人。読んだことがなく、最晩年の2014年作『The Girl Next Door』を借りてみた。80代で書いたんですよね、すごい。

ロンドンにも近いエセックスの宅地、地下からビスケット缶に入った人間の手の骨が発見される。男女の片手ずつ。何十年かたった遺骸だとわかる。昔の殺人事件だ。

戦時中、そのあたりの地下通路みたいなところで遊んでいた子供たちのグループがあった。当然今はみな老人の彼ら、この事件のために一度集まってその頃の話をする。小学校の同窓会みたいなことに。

担当刑事は、そんな昔の事件、今さら探っても犯人もとっくに死んでいるだろう、とやる気があまりない。本の後半で事件担当者が代ってから始めて捜査は進展する。

ただこの小説で重要なのは捜査ではない。読者は誰が犯人か冒頭で知ってしまっているから。それよりも、別々の生活を送っていた元・子供たちの関係に変化が起こる様子が描かれる。

焼けぼっくいに火がついて昔のガールフレンドに走ってしまうアランとか。70代のじいちゃん、なかなかやるな、じゃなくて、大丈夫かおい。半世紀作ってきた家庭が崩壊しちゃうよ。

奥さんはその相手を知っているので怒り狂う。

「若い女ならまだしも、なんであの女!」(殺意が・・・)

今どきの老人、ひ孫もいるのに、元気ですからね。

それからもうひとり、犯人の息子で、冷たい親の存在をずっと重荷に感じて生きてきたマイケル。亡き妻だけを思いつつ、自分の子供たちとはあまり深く関わらないできたが、贅沢な老人ホームに住むもうすぐ100歳の父(相変わらずいやーなおっさん)と数十年ぶりに会って、だんだん心境が変化していく。

途中で亡くなってしまう人も出るのは仕方ない。事件の全貌がわかる前に証人がボケてしまっても困る。時効というものはないが、時間との戦いかも。

自分の中に歴史を抱えた老人たちの内面が書かれて、人間そう変わるものでもなく、やっぱり悩みも苦しみもあり、でもいつまでも「成長」の可能性はあるものだと気づかされる。老境で明晰な頭を保っていたレンデルだからこそ書けたのだろう、深みがある。

アランに捨てられた妻ローズマリーの立ち直りっぷりもすばらしいです、痛快。そして最後に事態が収束をみたとき、人間関係が変化し、人の位置が変わっていたりする。それもまた人生。

今とは違うイギリスの昔の話も面白く読めた。だいたいみんな最初の恋人と若くして結婚し、そのまま添い遂げるのが普通だった。わりと短期間でがらっと変わるものですね社会って。

 

 

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ミーガン・アボット『You Will Know Me』

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You Will Know Me (Tpb Export)
You Will Know Me (Tpb Export)

Glen Erik Hamiltonお勧めの現代の「ロマン・ノワール」のリストの中で読みたい作が2つ、前回は図書館で別の作品に行きついちゃいましたが、今度はちゃんとAmazonで買った。

アメリカの作家Megan Abbott(1971-)による『You Will Know Me』、2016年作。

これは面白い。体操の天才少女とそれを支える両親の話だが、ひとりだけ突出した存在があるために家庭が緊迫し、アンバランスな状態のままどんどん圧がかかってくるのがリアルに感じられる。

3歳のときから体操を始めたデヴォンは最初から異彩をはなち、群を抜いていた。見る見るうちに上達する。

体操の経験はない両親のエリックとケイティ夫婦、娘の成長が嬉しくて、全力でサポートする。トレーニングに週何日も通い、レベルの高いジムに移し、必要な設備を新設するよう資金集め運動をし、地方の大会に出場させ、もう家なんか抵当に入れちゃう。デヴォンの下に弟もいるが、科学好きのこの子がおとなしいのでほとんど放置。

もう町とその周辺では並ぶもののない選手になった15歳のデヴォン、周囲の期待も集め、オリンピックを目指す資格を得るために猛練習中。

ところがそんな時に、交通事故がおきる。ジムの従業員の、ハンサムで気さくな青年ライアンがひき逃げで亡くなった。ジムの女子たち(とお母さんたち)の半分以上があこがれの目で見ていた人気者の彼は、コーチのひとりヘイリーの恋人だった。ヘイリーはジムのカリスマ?コーチであるテディの姪でもある。ジムは大揺れ。

心の中では(もうすぐ大事な大会なのに、ろくに練習にならなくて困るわ)としか思えないケイティたち。しかしその事故から、ジムだけでなく、友人関係、家族の間もおかしくなる、あるいは隠していたものが暴かれ、見ないようにしていたものが見えてきて・・・。

その中で娘を守ろうとあらゆる手段を尽くそうとするケイティとエリックの夫婦、しかし二人の間にも秘密がある。そして15歳の娘が本当のことを言っているかどうか。

というサスペンスに満ちた緊迫したストーリー、先が気になって350ページを2日で読んだ。

オリンピック選手になるのはどこでも大変だが、アメリカだとまず国の代表になる競争が熾烈だろう。お金もかかる。過酷だなー、と知らない世界を垣間見て興味深い。

ミーガン・アボットはこれが8作目、伏線の貼り方も巧妙、うまい。犯人はわかっちゃいますが、ポイントは心理バトルでしょう。ハラハラした。

アボットは日本では初期の2作ほど翻訳されているようです。

そろそろロシア語(巨匠とマルガリータとか)にもどる予定。その前にポアロを1つ読もうかな。

 

 

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マーガレット・メイヒュー『Dry Bones』

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Dry Bones (A Village Mystery)
Dry Bones (A Village Mystery)

週末にするレギュラーの仕事を入れて3ヵ月。そのわりに土日遊んでいるが、その場合は遊んだ後で夜に働いてるのです。けっこう疲れる、ということで木曜日に休暇をとって一日ダラダラしてみた。オンライン図書館で電子書籍を借りて読む。

しかも本当は書評欄で見たTom Bouman『Dry Bones in the Valley』が読みたかったのになくて、検索で出て来たこれを借りたという適当さ。

Margaret Mayhewの『Dry Bones (A Village Mystery)』、読みやすいコージー・ミステリ。Village Mysteryシリーズは退役軍人でColonel(大佐)と呼ばれているヒューが、奥さんに先立たれてから移り住んだ田舎で出くわす事件を描いているようだ。

この『Dry Bones』では、フロッグス・エンドという村でコテージに住み、ガーデニングを始め、居ついた野良ネコのサーズディ(=木曜日)と平和に暮らす大佐が、手紙を受けとる。

亡き妻の友人コーネリアは金融界の大物と結婚して裕福な生活をしている。田舎に大きな地所を買って大改造中。ところが困ったことがおきた。夫は海外出張で相談できない、お願いだから屋敷に来てほしい。というのだ。

信頼できて口が堅く、判断力がある大佐、いろんな人から頼られるタイプ。公明正大でもある。なのでコーネリアの敷地内で改装されている大きな納屋の床に埋まっていたものを見て即座に、

「これは隠匿できるものではない。警察を呼ぶべきだよ」と告げる。

事態は殺人事件の捜査に発展するのにまだ、「息子の18歳の誕生日に大がかりなパーティを企画しているんだから、それまでに納屋が完成しないと困る」という心配しかしないコーネリア。担当の刑事さんはあと8か月で定年退職、その後に育てたいアヤメ品種のことで頭がいっぱい。

何となく気になる大佐は村人に会って話を聞き、しだいに事件の真相に近づいていく。

のどかで風光明媚なイギリスの田舎、生まれてからずっとそこに住み続ける人もまだいるが、人の出入りもある。新参者が来て(コーネリアのように)古い建物をモダンに改築してしまったり、昔からの店を同性カップルが引き継いだり、21世紀の変化は訪れる。

変らないのが田舎のゴシップ。誰かが電車でロンドンへ行った、なんてことが即座にみんなに知れ渡ってしまう。大佐は「地元のKGB」なんて呼んでいる。けっこう怖い。

事件の被害者が判明してからは、アヤシイと思われる人がわんさか出てくることになる。被害者の素行が悪かったため、同情もされないのは気の毒。

田舎の魅力と恐ろしさを軽めに書いて、そこまで深刻にならないところがコージー・ミステリだ。お茶やお菓子も美味しそうだし。

でもやはり、素行が悪くなってしまった被害者にも理由があるので、みんな冷たい、とも思う。大佐はできる限りのことをして、好感の持てる人物だ。最後は、長い間家を空けていたためにニャンコが家出してしまったと連絡があり、すっとんで帰ったのがまた彼らしい。

たぶんこのシリーズはもう読まないかもしれないが、休日にぼーっと読めて楽だった。ロシア語もこのくらい楽に読めるようになりたいが、あと何年かかるのやら。

明日からまた仕事だ。

 

 

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マリアム・ペトロシャン「The Gray House」(Дом, в котором…)

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The Gray House
The Gray House

ひとまず英訳を読了、アルメニア人マリアム・ペトロシャン(Мариам Петросян、1969〜)のロシア語小説、2009年出版«Дом, в котором…»。訳すと「The House in Which...」だが、英題は「The Gray House」。

ロシア語版は1000ページにもなる。英語は単語が短いためか800ページ以下になっている。それでも長い。が、最後まで予測がつかず、驚きながら読めた。

↓ロシア語版表紙はこんな感じ。

«Дом, в котором…» 2009

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どこかの町のはずれ、「灰色の家」と呼ばれる寄宿学校が舞台。生徒は体のどこかに障がいがある。「隣人を助ければ、向こうも君を助けてくれる」なんていうスローガンぽいものがそこらじゅうに貼ってある。生徒たちは助けあっているが、「家」の奇妙な伝統に従ってもいる。本名でなくあだ名が通用し、寮の部屋を共有するグループがオオカミのパックみたいなものを作って階層社会になっていたりする。

みんなに嫌われている「雉」グループのクリールシク(Smoker)くんが、自分の寮の部屋からおん出されるところから始まる。(英語で読んでロシア語のオーディオブック - Исполнитель: Игорь Князев, Музыка: Cirque Du Soleil — Quidam и Andreas Vollenweider — Book of Roses , а также Tony Scott — Music For Zen Meditation - で追いかけると、あだ名がぐちゃぐちゃになって誰が誰やら混乱、とほほ)

大人しい雉グループに合わなかった彼は、「ロード」と呼ばれる学校一の美少年(脚が悪い)や、両腕がなくて義手をつけた頭のいい「スフィンクス」なんかと同じ第四室で生活を始める。そうそう、最高のリーダーの「Blind」もいる。

架空の世界が完全に構築されていて、じょじょに慣れていくとすっかりそこにはまる。しかもその世界にはまた別世界への隙間が開いているようで、ずるっとそっちにはみ出している。

何しろ学校だから登場人物が多い。「家」での生活の詳細、昔起こった出来事、クリールシクの一人称から別の人物中心の三人称へと交代と、ついて行くのが大変。少年も少女も象とか人魚とかユニークなあだ名に個性も強く、混同はしない。カウンセラーの先生もあだ名だ。「ラルフ」だけど本名じゃないw

彼らにとって「家」が世界であって、そこで小さな事件から中くらいの「病棟送り」とか、大きないざこざがある。しまいに闘争とか。たまに死人も出る・・・ひええ。

そして卒業=出ていかなければいけない時も来る。生徒たちはそれぞれの将来への決断をせまられる。

芸術家の多い家に生まれてアニメーションの仕事をしているペトロシャン、十代のころに得た構想を10年以上かけて書いた。出版にこぎつけるまで数年、でも出た年に「ボリシャヤ・クニーガ(大きい本)」賞の読者特別賞を受賞した。今のところ8か国語に翻訳されている。

本の雰囲気とついはまる面白さ、美しさを説明するのは難しく、「読んでみて」としか言えないような作品だが、日本だと上中下3冊になるだろうし、あんまり売れなそうだし出版は無理かなー。

たまにメールで連絡しているオリガ先生に「今この本読んでます」といったら、

「あなたは本当に変わってるわ」と誉めて(?)くれた、ははは。

後はロシア語で読了しなくては。いつ終わることやら。

 

 

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マーガレット・アトウッド『The Penelopiad』

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The Penelopiad: The Myth of Penelope and Odysseus (Myths)
The Penelopiad: The Myth of Penelope and Odysseus (Myths)

前回はちょっとふわふわした主婦の話だった。今度は20年も夫の不在に耐えた妻、ギリシア神話のあの方。Canongate社の神話シリーズで、実力派アトウッドが、ホメーロスの叙事詩『オデュッセイア』以外の史料も調べまくって書き上げた短めの1編「ペネロピアド」。

スパルタ王の娘ペーネロペーは、イタケーの王オデュッセウスの妻となる。夫はほどなくトロイ戦争で遠征に行き何年も家(城ですが)を空ける。実は戦争が終わった後で神話的冒険にまきこまれ、怪物と戦ったり、女神さまに気に入られてちやほやされてたりしていた。

その間一人息子を育てつつ城を守るペーネロペー、国の乗っ取りを狙って求婚者がわんさか100人以上やってきて、城に居座ってしまう。勝手に宴会を開くなど傍若無人な彼らにしつこく迫られてある計略をめぐらしたのは伝説のとおり。

最後にとうとう帰ったオデュッセウスが求婚者を殺してめでたし?だったのか?

この本は落着いたトーンのペーネロペーの語りで始まる。もうとっくに死んで、地下の薄暗い国にいる。肉体はないから、生きていたころにあんなに悩み、苦しかった記憶とは距離ができている。淡々と、やや突き放したように事実を語っていく。

彼女は美貌だったが、アンラッキーなことに従姉妹にヘレネーがいた。あの、トロイア戦争の元になった、ゼウスの娘と噂される傾国の美女。部屋に彼女が入って来たら、男の顔は全部、そっちに向いてしまうという人だ。ペーネロペーの結婚式ですら、男性ゲストはみんなヘレネーばっかり見ていた。

しかもヘレネーけっこう意地悪で、「年がら年中男に追いかけられるのは疲れるわー。いいわねあなた、そんなことないでしょう、そのご面相じゃ」とか言う。はははは、女に嫌われる女。このビッチ(笑)が夫のいる身で美男のパリスと駆け落ちしたためにトロイア戦争が起こって夫が遠征に出るはめになったのだ、実に腹立たしい。

もう死んでしまっている気安さから、本音が語られる。ずーっと音信不通で自分をほったらかした夫も、生意気に育ってしまって手に負えない息子テーレマコスにも、冷静な目を向けている。

そしてギリシア悲劇風に、コロス(合唱隊)の声も入る。これはペーネロペーの腹心のメイド12人で、帰還をとげたオデュッセウスに処刑されてしまったのだ。

身分が違うために、ペーネロペーに頼まれてしたことで不運に遭い、それを糾弾された形だ。12人は理不尽な運命を恨みがましく歌う。彼女たちに声を与えたのもアトウッドらしい。

「ギリシア神話版『デス妻』」と言っているレビューがあって笑った。言えているかも。皮肉な語りにダークなユーモアがあって、楽しめる。

和訳も出てます。

ペネロピアド (THE MYTHS)
ペネロピアド (THE MYTHS)

 

 

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