ジョアンナ・ヒクソン『First of the Tudors』

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First of the Tudors
First of the Tudors

陰惨系ミステリが続いたので、ちょっと一休み、軽めの歴史もの。図書館の電子書籍をブラウズし、ダウンロードしてみた。iPadを防水カバーに入れ、風呂につかりながら読む♪

といっても薔薇戦争当時の話、やっぱり血なまぐさい。

イギリスでは15世紀に対立するヨーク家とランカスター家が中心となって権力争いが続き、30年もめた挙句にランカスター派のヘンリー・チューダーが即位、ヨーク家のお妃を迎えてやっと騒ぎがおさまった。

Joanna Hicksonの『First of the Tudors』は、そのヘンリー王が生まれ育つ間、親代わりとなって守った叔父ジャスパー・チューダーが主人公。

彼の父でウェールズを拠点とするオーエン・チューダーは一介の下級貴族。でもヘンリー5世の未亡人キャサリン妃と秘密に結婚してエドマンドとジャスパーという息子をもうけた。当時の王ヘンリー6世がこの2人を、自分の異父兄弟だとして格上げしてくれる。

リッチモンド伯となった兄エドマンドは、大貴族の令嬢マーガレット・ボーフォートと結婚、その子ヘンリーは王位継承権を持つことになる。

実は次男のジャスパー、ひそかにマーガレットが好きだった。まだ12歳の彼女を気づかって兄に、実質的な結婚は少し待ったらどうか、なんてアドバイスするが、わがままな兄が聞くわけもなく(ロリだったのか?)、マーガレットは13歳のお産で死にかける。しかも肝心のエドマンドは子供が生まれる前に敵の捕虜になり、表向きは疫病ということで死んでしまった。

ローティーンで未亡人になったマーガレットは周囲がさっさと政略的再婚を決め、子供は義弟のジャスパーに預けられることになる。

激動の時代に兄の子ヘンリーを王にすべく、ジャスパーは彼を守り、教育する。マーガレットと結婚できれば良かったが、兄の妻だった人とはきょうだい関係となり、それは無理。

まあ彼女のことは「憧れ」として、ジャスパーには気の合ういとこジェーンがいた。でも、ジャスパーたち兄弟だけが上級貴族になったため、そこらへんの農場の娘と同等なジェーンとも結婚できないらしい。いろいろ気の毒。

小説はジャスパーの語りとジェーンの語りが交代しつつ進む。ジェーンはジャスパーとの結婚を諦めて事実婚、というより愛人?関係となり、正式には認められない子供を産んで、その子たちといっしょに後のヘンリー7世の面倒をみる。政局の都合でジャスパーはしばしば身を隠し、外国に逃げたりしなければならず、その時にはひとりで待つ。手紙は信頼できる人に託して、届くよう祈る状況、2人の愛情は試され、鍛えられる。

戦国時代のラブストーリーとして新鮮に読めた。ジャスパーもジェーンも、自分のことよりつい人の面倒を見てしまう気のいいところがお似合いだ。そしてマーガレットは、さすがに生まれながらの貴族、政情を理解した上で、離ればなれになっている息子を思い、「何がなんでもうちの子を王にする」と固く決意している。

話はヘンリーがまだ十代、国が落着くには程遠いところで終わっている。続編はもう出たのかな。そのうち(見つけられたら)、バスタイムに読もう。史実ではジャスパーに庶子がいたのは正しいが、中年以後にクラスの合う貴族と結婚もしているようです。

↓わたしの薔薇戦争の知識はほぼBBCドラマ『The White Queen』で仕入れたもの(笑)。リチャード三世を下す最後のバトルでヘンリーをサポートするジャスパー。本の雰囲気と合っている。著者は違うんですが。

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Tom McKay

 

 

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アーナルデュル・インドリダソン『湿地』をロシア語で

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310317-1

アイスランドのミステリ、アーナルデュル・インドリダソンの『Mýrin』(2000年、和訳の題が湿地)をロシア語で読む。「Трясина」――泥沼ですね。

捜査官エーレンデュルなど主要登場人物は、前に読んだ「緑衣の女」と同じ、時間的にはそれ以前の話ということで、 エーレンデュルの娘のエヴァは意識を失う前。ヤク中で、妊娠した、金よこせ、とお父さんに要求したりしている。困った娘だ。

レイキャビクのアパートで見つかった老人の死体。頭に殴った痕がある。灰皿?3つの単語のメモが現場に残っていた。

例によって緻密に捜査していくエーレンデュル。被害者が昔、不起訴にはなったが女性への暴行事件を起こしてたことをつきとめる。被害を届け出た女性も、その後生まれた子供も数年後に死んでいた。

エーレンデュルはこの女性の周辺や、死んだ老人の元友人たちなど、丹念に聞き込みを続ける。必要とあらば子供の墓まで暴き、老人のアパートの床も掘り返して真実に迫る。

ここでアイスランドの遺伝子事情がキーになる。島国で人種的にほとんど純粋に保たれているアイスランドは、人口もわずか30万人あまり。遺伝子の研究に便利な国なのだそうだ。そのため先端の研究が進んでいる。この作品は2000年のものだが、国民ほとんどの遺伝情報の調べがついてしまっているという設定だ。

つまりデータベースにアクセスできて調べ方がわかる人間には、どんなに隠しても親子関係も遺伝病のルーツもわかるのだ。

「自分さえ黙って墓場まで持っていけば」バレない秘密などないということですね。

これほど殺人の被害者に嫌悪感を抱き「○んでしまえ」(もう死んでるが)と思い、犯人に同情する話はない。後半雨ばっかり降っている天気の悪さも、陰鬱な雰囲気を増幅する。

暗いが、エーレンデュルと若い部下との世代のギャップなど、笑えるところも少しはある。「ガラスの鍵賞」受賞作。

しかしそろそろ、もうちょっと明るい小説を読みたくなってきた。

和訳:

湿地 (創元推理文庫)

動画サイトに2006年のアイスランド映画『Mýrin (Jar City) 』(Baltasar Kormákur監督)があった。言葉はさっぱりわからないが、荒涼感がすばらしい。主役はElinborg、その部下シグルデュルオーリ(イケメン)がSigurdur Oliという綴りだと覚えた。アメリカに舞台を移したリメイクも作られているようだが、アイスランドの風景のほうが絶対に良いと思う。

↓スクリーンショット

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チェーホフ「黒衣の僧」& ソ連映画

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200317-1

今度の日曜日にアントン・チェーホフ(1860 - 1904)原作の芝居の中継を見に行くため、予習として読む(例の、プーシキン・ハウスで。今度は大丈夫か)。

1894年の中編『Черный монах』(黒衣の修道僧)は異色作。

哲学者で文学修士のコヴリン、勉強のしすぎで疲れてしまった。療養も兼ねて、田舎のエゴールの果樹園で過ごすことにする。エゴールは親代わりにコヴリンを育ててくれた人。

エゴールの娘で幼なじみのターニャがすっかり美しい女性に成長しているのに魅せられるコヴリンだが、一方で伝説の「黒衣の僧」を目にするようになる。どうやら自分しか見えていないようだ。だいいちその伝説をいつどこで聞いたのかもさっぱりわからない。しかし思いきって話してみると、穏やかな、立派な僧だ。彼と話をするうちに、コヴリンは自分が特別な使命をもった天才であるという確信を得る。

もちろんそれは彼の妄想なのだろう。結婚して妻になったターニャは椅子に向かってしゃべっている夫を発見、「あなたは病気よ」と心配してさっさと病院に送る。

”治って”僧を見なくなったコヴリンは自分が凡庸になったように感じ、不幸になり・・・。という、全体的に不気味な雰囲気をただよわせる作品だ。和訳が「怪奇小説傑作集 ドイツ・ロシア編」に入っちゃっている。

千年前にも現れたという、コヴリンに姿を見せた僧は何なのか。幻覚が見えていたときは絶好調だった彼の仕事は、人類にとって価値があるのでは。などいろいろ考えさせられる。時間ができたら辞書を引きながら精読したい1編だ。

1988年にモスフィルムが映画化している。

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Режиссёр -- Иван Дыховичный
Станислав Любшин — Андрей Васильевич Коврин
Татьяна Друбич — Таня Песоцкая
Пётр Фоменко — Егор Семёнович Песоцкий

「そして誰もいなくなった」にも出ていたタチアーナ・ドゥルビッチがターニャ。少しものうげな繊細さを見せる。

詩的な演出で、風にゆれるカーテンや、高い森などの背景がなにごとか語るようだ。タルコフスキーに影響されている?

肝心の黒衣の僧は一度も姿を現さず、コヴリンがこちらに向かって、まるで視聴者が僧かのように話すのが面白い。

暗めの、圧迫感のある雰囲気がよく出ていた。もう少し、理屈っぽい部分をくわしく見せてほしかったかな。理解できないかもだけど。

映像で主人公の精神状態を表現するシーン。

この作は戯曲ではないので、セリフなども脚本家の自由。日曜日に見るМТЮЗ(モスクワ、若い世代のための劇場)がどう料理したのか、楽しみだ。

和訳。読んでないけどこの本は訳が良いはず。

怪奇小説傑作集5<ドイツ・ロシア編>【新版】 (創元推理文庫)
怪奇小説傑作集5<ドイツ・ロシア編>【新版】 (創元推理文庫)

 

 

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北欧ミステリ2冊追加

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北欧ミステリをロシア語訳で読む、一石二鳥?で邪道なロシア語勉強法を続けています。

アルヴテーゲンは例によって「人体デッサン」ポーズの表紙、しょうがないな。

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2003年の作品『Svek』、裏切り、ロシア語でも「Предательство」。

三十代のエーヴァとヘンリックには幼い息子がいる。在宅勤務の夫が保育園の送り迎えも含め、かなり家のことをしてくれるので、バリバリ働いているエーヴァだが、最近夫が冷淡だと感じていた。ついにある日、彼の浮気を発見してしまう。

しかも相手は許せない立場の身近な女。悩んだ挙句、エーヴァは大胆なイヤガラセ行動に出る。ばれたら問題だけど、大丈夫かな。

彼女に協力者が現れる。悩んでいたときにバーで出会った青年ヨーナスだ。意識不明の恋人が亡くなるまで毎日見舞っていたこともある献身的な、しかしどうも思いこみの激しい彼、エーヴァに同情し、頼まれもしないのに勝手に独自の方向に走っていく。善意のストーカーみたいなものでしょうか。

エーヴァの行為による波紋とヨーナスの暴走がからまって、事態はどんどん悪い方向へ。

これもまたそれぞれの登場人物の心理が的確に描写されていて、同じ場面を両方の立場から書いていたりもし、よく理解できるとともにおそろしい。結末はちょっと納得いかないが、映画などにすると本当にぞーっとする衝撃のラストとなることだろう。

次はアイスランド作家にいってみた。

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アーナルデュル・インドリダソン(1961-)、北欧ミステリの「ガラスの鍵賞」を受賞したという『Grafarþögn』(2001)。和訳の題は「緑衣の女」、ロシア語題だと「Каменный мешок」=石のバッグ、牢獄のことだそう。英題は「Silence Of The Grave」。

レイキャヴィク郊外で人骨が発見され、考古学者と警察が呼ばれる。骨はかなり古い。現場の住宅造成地には、第二次大戦時にはイギリスやアメリカ軍の基地もあった。警察チームを率いるのはエーレンデュル刑事。急いで仕事をしようという意識がまるでない学者に手を焼いたりしながら、地道に捜査していく。

それと並行して、60年前のある家での暴力が描かれる。外では気さくで働き者の父親が、家では妻に毎日肉体的・精神的暴力をふるっている。幼い子供が3人、なすすべもなくそれを見ている。発見された骨は、当然この家族の誰かなんだろう。

一方仕事の外では、エーレンデュル刑事の娘、エヴァ(ヤク中で妊娠中)が意識不明の重体になっていた。娘の母とは離婚して疎遠。エーレンデュルは暇さえあれば病院に行って反応のない娘に語りかけ、仕事では現場近くに住んでいた人々に聞きとり調査、事件の真相に迫っていく。

謎解きミステリとしてはそれほど凝っていない。骨の正体は誰でも推理できると思うし、最後は事情を知っている人が現れてあっさり種明かしをする。

ただ「ドメスティックバイオレンス」というものを何とかしようという意識とか、シェルターなどもなかった時代の、人の魂を殺す暴力が克明に書かれている。読んでいると黙って殴られている方にも腹が立ってくるが、あまりいじめられていると精神も壊れるから、反撃どころか、正常な判断ができなくなるんだよね。一番可哀そうなのは子供だ。

暴力をふるう本人も、何かの理由で辛くて暴れている。近い将来にはうまく治療できるようになるんだろうか。「昔はこんなのも治せなくて悲惨だったんだね」と思う時代になってほしい。そうそう、ついでにアルヴテーゲンのヨーナスのストーカー気質も治してやって。

話は重いが笑える場面もあり、プライベートで難問をかかえたエーレンデュルにも興味が持てる。次を読むとしたら、少し丁寧に、英訳にしようか。

 

和訳:

 

裏切り (小学館文庫)
裏切り (小学館文庫)

 

緑衣の女 (創元推理文庫)
緑衣の女 (創元推理文庫)

 

 

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アルヴテーゲン「影」(Тень)

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220217-1

なんか前回のもですが、デッサン教室のモデルみたいな表紙のロシア語版。

またロシア語訳で読んだ、カーリン・アルヴテーゲンの「Тень」(影=原題『Skugga 』、2007年作。

ひっそり亡くなった孤独な老女イエルダ。その身辺の後始末と葬式の手配などのため、役所の職員が、数少ない連絡先にコンタクトをとる。そしてイエルダが、ノーベル文学賞を受けた高名な文学者アクセル・ラグナーフェルトの家で長年家政婦をつとめていたことがわかった。

卒中発作の後で体が麻痺し、今では寝たきりのアクセル。

息子のヤン・エリックは創作はせず、いわば父の威光で講演会やチャリティ・プロジェクトを運営して名士となっている。妻ルイザとの仲はすっかり冷めているが、父が書いた遺書の縛りで離婚できない。

そしてアクセルの元友人で久しく疎遠になっていた作家や、孤児として養父母の元で育った三十代のクリストファーも連絡をうけた。

前半はそれら登場人物の個人的な状況がていねいに語られて、ストーリーがぜんぜん進まない。Kindleで読んでいると、47%済んだけどまだ〜?みたいな(笑)。それでも投げだす気にならないのは、作者の筆力だろう。気になって先を読みたくなる。

そのうち、子供のころ可愛がってくれたイエルダの写真でもないかと探したヤン・エリックは、家族の過去にまつわるとんでもない証拠を発見

また、親を知らないクリストファーは、面識のなかったイエルダがなぜ自分を知っていたのか、両親についての手がかりがないか、と調査に動き出す。

それから話は加速し、ヒューマニズムを追求した作家であるはずのお父さんのヘタレな過去に、ヤン・エリックが留学中に交通事故で亡くなったと聞いた妹の死の真相など、やばい真実が出てくるわ出てくるわ。

過ちを隠蔽するためにまた重ねる過ち、追いつめられての最悪の判断ミスが人を巻きこみ、読んでいても頭をかかえたくなるほどの混迷が明らかになってくる。

「影」とは尊敬され人を導く立場であった作家の隠していた真っ黒な部分であり、また偉大な父に常に前をふさがれていた、影の中にいたヤン・エリックの象徴でもある。救いはあるんでしょうか。

エンディングはあいまいさを残し、特に明るくはない。無理矢理、希望を見出そうと思えばできるかな。

フツーの人=家政婦さんの死がこんな破壊力を持つとは。デビュ―から5作目、アルヴテーゲンの筆が冴えている。壮絶な作品です。

日本語版:

影 (小学館文庫)
影 (小学館文庫)

 

 

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K.アルヴテーゲン「恥辱」

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140217-1

スノードロップが咲いた。春は近い。

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カーリン・アルヴテーゲンの2005年作『Skam』のロシア語訳を読んでみた。ロシア語題は「Стыд」、かなり強い”恥”。

彼女の文体は平明な言葉で複雑な心理をわかりやすく書いているので、ロシア語でもわかるかと思って。大筋は追えたかな〜程度ですが。

ストックホルムに住む2人の女性:

38歳のモニカは医師として成功しているが、十代のころに兄を事故で亡くしている。母子家庭のスターだった兄が死んで自分だけ生き延びたのが後ろめたく、責任があるかのように感じている。日本語訳の「恥辱」よりも、罪悪感に近い。

もう一人は50代のマイブリット、体が不自由でヘルパーに見の周りのことを世話してもらっている。(超肥満のため、というところを読み取りそこねていた。修業が足りない)

美少女であった彼女、宗教的に凝り固まった両親から、お前は教会に役に立つようにと産んだのだ、自分で選んだ相手と結婚なんかもってのほか、と「原罪教育」を叩きこまれて育った。恋をして家出同然に結婚しても、親の呪いから逃げられず、夫とうまくいかなくなり・・・という事情がある。

お互い面識もないこの2人が、ある事故をきっかけに接点を持ち・・・という話。

「それで、殺人はいつ起こるの?」と読んでいたが、最後まで起こらず。あくまで心理的なスリラー。それでも十分ハラハラする展開。

”この事故”が記憶にある”あの事故”のパターンとぴったり一致した、とモニカが思いこんだことから、いつもは理性的な彼女が暴走しはじめる。

その行動を偶然目撃するのがマイブリット。

モニカの壊れ方とその大胆な行動には、こっちまで心拍数が上がります。

子供のころに理不尽に植えつけられた罪の意識の破壊力がおそろしい。植えつけた親も、自分でもどうしようもなかったり、あるいはむしろ子供に良かれと思っていたりするので、単純な糾弾はできないのだが。

最後に多少の救いと平和が垣間見られるので、読後感は悪くない。救いをもたらすのが、現実に本当に「罪」を犯してそれを償っている人であるというのが面白い。

アルヴテーゲンの作はマフィアが出てきてカーチェイス、とかはなく、身近で起こっても不思議はない事件をテーマにしていて、飛躍がないため話がたどりやすい。邪道な読み方で作者には悪いけど、もう1作くらいロシア語訳でチェックしようかと思う。

英訳:

Shame
Shame

ただし後に「Sacrifice」(犠牲)という題に変えられている。

和訳:

恥辱 (小学館文庫)

 

 

 

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ハンス・ファラダ『Nightmare in Berlin』

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Nightmare in Berlin (Fallada Collection)
Nightmare in Berlin (Fallada Collection)

先週から突然、ベルリンに行きたくてしょうがない。ドイツ語圏で訪ねたのはオーストリアのみ、ドイツ行ったことないんですよね。

たぶん読んでいたこの本の影響と思われますが。

ハンス・ファラダ(Hans Fallada、本名 Rudolf Ditzen, 1893 - 1947) の「Nightmare in Berlin」(『Der Alpdruck』―悪夢―の英訳)、終戦直後1947年に出版、彼の死の年でもあった。

作家自身と重なる部分の多い、作家のドール博士が、ドイツの敗戦直後に味わった辛酸が描かれている。

知識人のドールは、もちろんヒトラーなんか大嫌いだったが、作家仲間の多くのように外国に逃げることをせず、ドイツにとどまった。お陰でスパイにつけ回されたり、さんざん嫌な目に遭う。そして1945年5月、ついにドイツが降伏、終戦。やっと解放されたかと思いきや、さらなる悪夢が始まることになる。

ドールはベルリンから疎開して地方の町に住んでいる。ソ連軍がやってきて、彼は町長に任命され、元ナチス党員の摘発で事情を聴く(尋問ですね)など面倒くさい役割を押しつけられて、住民には嫌われる。その過程で朋友のはずの住民たちのずるさ、ドイツ人がドイツ人を騙して利己的に得をしようとする、そのあさましい姿にがっくりするドール。しょうがないよね、敗戦で何もないんだから。みんな生きていくだけで精一杯、人心は荒れる。

やっとベルリンに戻ったが、ドールも若い妻のアルマも病気にかかり、しばらく療養生活を余儀なくされる。ドールの広いフラットには知らない人が住みついている。夫婦が療養している間に住所登録の期限があったらしく、彼らの家は持ち主がいないとされて、お役所が人を入れてしまったのだ。食料配給のチケットをもらおうとしても、住所証明がないと出せないといわれる。ホームレス状態、八方ふさがりだ。ドールもアルマも、モルヒネ中毒になってしまう。

空襲の恐怖からは解放されても、敗戦国は悲惨だ。

日本はドイツより3か月も無駄にがんばってしまったけど、同じようなものだったのだろうと思う。東京は焼け野原と表現されたが、ベルリンは瓦礫だらけ。

食料不足で闇市が栄えたのはどっちの国も同じ。人の冷たさを思い知らされて、ドイツはもう駄目か、と思ったり、そのような中でも少ない食料や衣類を分けてくれ人もいて、やはり人の心には善があるのだとありがたく感じたり、でもその直後にまた裏切られたり、すっきりとはいかない。

一番困難だったのは、何か書こうとする意欲を取り戻すこと。自分の国とその国民に絶望してしまって、自らもヤク中。やる気が出ない。

文学仲間が救いの手を差し伸べてくれても、依存症から抜け出すのは難しい。後半では、一進一退のドールの再生が描かれる。

ぶち壊れたベルリンで、終戦のその日から、瓦礫を片づける人、レンガを積む人たちはいた。みんな同じように、ほとんどすべてを失った人たちだ。しばらくすると出版が始まり、劇場も再開する。コンクリートの割れ目から芽を出す植物のような不屈の一般人の姿が、ドールを勇気づけた。

本当に終戦直後の、作者の体験が生に出ている作品で、寝ても悪夢、覚めても悪夢な日常がリアルに描かれている。

イギリスも空襲を受けたし、戦争のころは「食べ物なかったー」と言っているが、やはり敗戦国の悲惨さは比ではないですね。

だいたいの人は日々の生存だけで精一杯のところ、知識人ならではの、人間の本質に対する疑いのような深い悩みに襲われるドールが、最後の方では希望を持ち始めるのが救いでもある。作者は終戦2年後に亡くなってしまったが。

英訳が出るまでに70年近くかかり、去年出版された本。何やら”戦前”の雰囲気を醸し出している不穏な昨今、大事な作品かと思った。

とっくに立派に再生したベルリンに行きたいな〜。今年は初夏の演劇フェスティヴァルで「三人姉妹」をやるみたいなんだけど、チケット取れるかしら。

 

 

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カーリン・アルヴテーゲン「Missing」(Saknad)

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「トランプ大統領を国賓としてイギリスに招くのを阻止しよう」署名運動は130万人を突破、参加してメールが友達から回ってきたけど、わたしの署名は有効なのかしらん。女王様の臣民じゃないけど。

Missing
Missing

図書館から電子書籍で借り、ロンドン往復の電車の中で読んだ。スウェーデンのミステリ作家カーリン・アルヴテーゲン(Karin Alvtegen、1965〜)、2000年の作品。原題『Saknad』の英訳「Missing」。ちなみに邦題は「喪失」で、ロシア語題は「Утрата」。自分が失踪する意味と、何かを失うと両方の意味があるんですね。2000年度ベスト北欧推理小説賞の受賞作。

ヒロインは32歳のホームレス女性シビラ。裕福な家に生まれながら、もう15年くらい家のない生活をしている。たまにはいいベッドで寝たい、と高級ホテルのレストランで会ったビジネスマンにうまいこと食事をおごらせ、部屋まで取ってもらい、でも彼の部屋に行ったりはせずに風呂に入ってぐっすり寝た。ラッキー。

ところがそれが不幸の始まり。なんとそのビジネスマンが翌朝死体で発見されたのだ。シビラは容疑者になってしまう。しかもすぐに第二の殺人が起こり、同じように内臓をえぐられている。事件は連続猟奇殺人の様相を呈してきた。

「何か食べること」と「寝場所の確保」だけ考えて日々生きのびてきたが、それに「逮捕されないようにすること」も加わる。ホームレス仲間は残念ながら一番信用できない。どうする?

孤立無援で追い詰められていく現在の彼女と、そもそもなぜホームレスになってしまったかの過去が交互に書かれる。シビラは地方都市の社長の一人娘、クラスメートの親はほとんどが彼女のお父さんに雇われている。なのに友達がいないばかりか、からかいの対象になっている。支配的なお母さんとうまくいかず、自尊心がまるでないのが原因かもしれない。上流階級出身のお母さんは理想の娘に育たないシビラに、無意識かもしれないが、毎日毎日、罪悪感を植えつけていた。

スウェーデンでホームレスっていうのがまず過酷だ。寒い。そうなった事情がネックとなって、身分を明かせず逃げるしかないが、本名は早々に警察に見つかり、全国に指名手配されてしまう。

「ミステリじゃないじゃん」というレビューもあるとおり、真相はヒロインより2歩くらい先に読者は気づく。被害者の共通点、怪しい人物も、少し手前でわかる。

「あー、そいつが危ないのに」と思ったりしつつ読むというスリラー。小説の利点で、ヒロインの心理がくわしく描かれるので同情するし、いっしょに腹もすく(笑)。

助けは思いがけない方向から来て、最後は明るい結末でよかった。冤罪が晴れずに捕まって有罪判決、なんて話になる前に作者がなんとかするだろうとは思うけれど、やはりラストまでハラハラする。

北欧の犯罪ものは初めて読んだ。気温の低さが肌に合う感じで、彼女の別の作品も読みたくなった。そうそう、アルヴテーゲンの大叔母さんは「長くつ下のピッピ」を書いたアストリッド・リンドグレーンだそうですね。かなり分野が違いますが。

邦訳:

喪失
喪失

 

 

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本2冊、ポアロと歴史もの

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読書の覚え書き。ポアロはちょっとしばらく休むことにして、当面の最後の1冊は:

Lord Edgware Dies (Poirot) (Hercule Poirot Series)
Lord Edgware Dies (Poirot) (Hercule Poirot Series)

『Lord Edgware Dies』(邦題:エッジウェア卿の死)、1933年作。

美貌の元人気女優ジェーン・ウィルキンスンはエッジウェア卿の妻の座におさまっていたが、離婚したくなる。もちろん別のリッチな貴族と結婚するため。夫が離婚に応じないというので、畑違いなポアロに交渉を頼んでくる。気まぐれで引き受けたポアロがエッジウェア卿を訪ねると、

「いや、わたしは離婚に応じる手紙をずいぶん前に出しましたよ」という意外な返事。

でもジェーンは手紙を受けとっていないという。どこ行った?

その後、卿が何者かに殺害される。使用人が、ジェーンが夜に訪ねて来たと主張するのだが、彼女は友人のディナーパーティに出ていてアリバイがある。エッジウェアの屋敷を訪ねたのはいったい誰?――というのは早めに、物まねの上手い女性芸人の変装かも、とわかってくるのだが、彼女には動機がない。

さらに、金に困っていたエッジウェア卿の甥や、父親を怖れていたらしい、卿のひきこもり気味の娘や、ジェーンと恋愛関係だった俳優など、怪しい人がいろいろ。

これも最後は真犯人に驚かされるが、もっと驚くのが、犯人が刑務所からポアロに送りつけた手紙。良心がない人の見本のような、軽く明るくゾーッとする内容。サイコパスなどの精神病質が今ほど一般に知られていない時代に、やっぱりクリスティはすごいと思った。

 

次は、珍しく重厚な歴史小説を読んだ。TVのプレゼンターで作家、政治家でもあるメルヴィン・ブラッグの『Now is the Time』(2015年)。

Now is the Time (English Edition)
Now is the Time (English Edition)

1381年のイングランド、国王リチャード2世はまだ14歳。百年戦争がだらだら続いて財政難に陥った国が、人頭税を導入すると、貧乏人に過酷な税制に反発した庶民が反乱を起こす。このPeasants' Revolt(農民の反乱、またはワット・タイラーの乱)を、王侯貴族の側からと反乱軍の側から、人物を掘り下げて描いている。

ワット(=ウォルター)・タイラーは、リチャード2世の父でめっぽう強かったエドワード黒太子に仕えてフランスと闘ったこともあり、忠誠心がある。若い王は悪くない、周囲が腐敗しているのだ、と信じ、王を救おうという気持ちがあった。

乱の精神的指導者ともいえる牧師のジョン・ボールはラディカルに人間の平等を説き、タイラーと協力して民衆を指導する。

ペストが流行して人口が激減していた時期でもあり、やっと生き残ったと思ったらもっと働け、税金よこせ、と言われて怒り心頭に発した庶民の軍団は、かなりの数の女性メンバーまで含めて膨れ上がり、ついにロンドンに入城した。タイラーは少年王にじきじきに会いたいと要求、かなえられる。

リチャード2世は側近らの指導も受け、いったんはタイラーの要求を呑むと約束するが、その約束はあっさり破られる。

やはり、(わたしたちの階級は平民を支配するために生まれた)と信じるジョーン・オブ・ケントの息子だった。

リチャード2世は後年、シェイクスピア劇でも描かれたとおり、王位から追われて非業の最後を遂げるが、まあそれも仕方ないか、こんなひどいことしたんだから、と思うような、凄い弾圧を反乱者たちに加える。十代の男の子ですからね、止まらなくなったのかも。

ブラッグが15年くらいかけて書いたという、それぞれの人物の心理が緻密に分析され、乱の進行がよくわかり、歴史の動きが見えてくるような力作。

あまりに貧富の差が開いて不公平になりすぎると、どんな社会も不安定になる要素はできる。この14世紀の「乱」は革命となる力はなかったが、最盛期には相当なパワーがあったのだ。

ちなみにイギリスではこの後、人頭税はなりをひそめ、20世紀になってサッチャー首相が再導入、やっぱり凄い反発と騒ぎが起こって、早々に廃止されたそうだ。

 

 

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ポアロもの2冊『After the Funeral』、『Peril at End House』

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221216-1

(先月の霜の写真が今ごろ役に立つ)

メリークリスマス、みなさん楽しくお過ごしください。

わたしはバイトで充実しております・・・。

ルーティンと化している寝る前のポアロ・シリーズ、図書館の棚にあるのをランダムに借りている。また新しいものに入ったので、忘れる前に、前の2冊の覚え書き。

Poirot: After the Funeral
Poirot: After the Funeral

『After the Funeral』、邦題は「葬儀を終えて」。1953年、ポアロものの25作目。

アバネシー家の当主リチャードが病死。健康とは言えなかったにしろ、急な死だった。葬式が終わって親族での会食の席、リチャードの妹で昔から空気の読めないコーラが、

「でもリチャード、殺されたのよねえ」と爆弾発言。みんなびっくりして固まってしまう。

帰宅したコーラは翌日、さっそく殺害された。ポアロが招かれて事件を捜査する。

大金持ちの当主の遺産を親族全員が平等に相続するしくみで、人数が減れば取り分も増えるという状況。リチャードのきょうだい、若い甥・姪の世代まで、アヤシイと思えば全員が怪しい。しかし犯人は意外なものが目的だった。

名家なのに妹も姪も、結婚相手に選んだ男性たちが格下というか、財産もなく稼げない。世の中うまくできているともいえる。

Poirot: Peril at End House
Poirot: Peril at End House

『Peril at End House』、邦題「邪悪の家」、1932年、ポアロもの6作目。

休暇中のポアロたちが、エンドハウスという海辺のお屋敷を相続したお嬢様のニックと出会う。”現代っ子”(当時)の陽気なニックだが、近頃変な事故に遭いかけることが続いていると話す。さらにポアロは彼女の帽子のつばに銃弾で開いたと思われる穴を発見。

「エンドハウスに大して価値もなし、わたしが命を狙われるなんてありえない」というニックを説き伏せて警戒するのだが、さらなる事件が次々に起こる・・・。

自分がついていながら裏をかかれてしまったと、珍しくポアロが焦る。

これも犯人は予想つきませんでしたねー。

ぼさっとしてないで、ちゃんと考えながら読んだらどうだろうかと自分でも思うが、必死に考えて読んでやっぱり外れると無駄骨だ(言い訳)。

それにしても、クリスティはとっくにポアロにうんざりしていたのに出版社の要請で仕方なく書いていた、などと言われるこのシリーズ、読んでいる分にはそんな感じは特に見えず、相変わらず面白く読める。さすがプロ。プロットよりはセッティングや人物描写、背景を楽しむことができる。

2作とも、最も警戒しない人物が実は!というトリックにすっかり騙されます。

この後ロシア語ボイスオーバーでドラマがアップされていないか探して動画を見るのも楽しい。先日の『Taken at the Flood』も、脳内配役と全然違う人たちの演技だが、よかった。デヴィッド・ハンター役はエリオット・コーワンで来たか。なかなか素敵でした。

 

 

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