ルース・レンデル『The Bridesmaid』

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ルース・レンデルの1989年作『The Bridesmaid』をロシア語で読んでみた。タイトルは「Подружка невесты」、直訳です。日本語訳の題は「石の微笑」だそう。

一瞬ロシア語が上達したのかと錯覚したくらい読みやすかった。もちろん大意を理解するのが楽だったということで、細かいニュアンスなどは飛ばしてますが。舞台がイギリスのせいで、知っていることが多いためだろう。地名などは、ゴルデルス・グリン?ああゴルダース・グリーンね!と手間がかかることもあるけど。レンデルの原文も平明で分かりやすいのだろうと想像できる。

ロンドンで働くフィリップは平和主義で暴力が嫌い、テレビで見るのも嫌なくらい。

姉の結婚式でブライズメイドのひとり、ゼンタという女優の卵に一目惚れし、順調に大恋愛に発展する。

ゼンタというのは珍しい名前だ。ワーグナーのオペラ「さまよえるオランダ人」のヒロインくらしかいないが、フィリップはオペラは知らない。彼が惚れたのは、家にあった大理石の彫刻の女神フローラにゼンタがそっくりだと思ったから。亡き父が母に贈った彫像は、長年彼の理想の女性だったのだ。

美しく情熱的でけなげなゼンタだが、ちょっとエキセントリックなところもある。思いこみも激しい。わたしたちの愛は運命、と言いきる。

そしてついに、耳を疑うようなことを言い出す。お互いへの愛を証明するために、めいめいXXしよう、というのだ。このXXは、犯罪ですよ。それも万引き程度じゃない。

だいたいこのへんで「この女、やばいやつだ」と気づくと思うが。

若くて恋しているフィリップは、なかなか彼女から離れる気になれない。自分基準で、「冗談言ってるんだよね?」と自らに言いきかせようとする。まさか本気じゃないでしょ。ジョークだったら良かったんだけどね・・・。

ぼさっとしているうちに事態はどんどん悪化、気がついたら深い泥沼にはまっていた。ここまでくると、ゼンタへの愛情は薄れても、憐れみの情がわいてしまう。だから逃げろって。

いろんな悪い事情も重なり、こなきじじいのように、大理石の像のように、重くなってくるゼンタに押しつぶされそう。

ラストはなかなか心臓に悪い。

そこに至るまでの伏線が巧妙にはりめぐらされていて、あみだくじをたどって地獄に落ちるプロットは完備している。レンデル、容赦ないね。

これもフランスのクロード・シャブロル監督が2004年に映画化している。むしろフランス映画の方が合っているかもしれない。「La Demoiselle d'honneur」、主演ブノワ・マジメルがひどい目に遭うのか、見てみようかな。

原作:

The Bridesmaid
The Bridesmaid

日本語版:

石の微笑 (角川文庫)
石の微笑 (角川文庫)

 

 

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ルース・レンデル『The Girl Next Door』

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The Girl Next Door
The Girl Next Door

イギリス推理小説界の重鎮Ruth Rendell (1930 - 2015)、1960年代から21世紀になっても活躍した、キャリアの長い多作な人。読んだことがなく、最晩年の2014年作『The Girl Next Door』を借りてみた。80代で書いたんですよね、すごい。

ロンドンにも近いエセックスの宅地、地下からビスケット缶に入った人間の手の骨が発見される。男女の片手ずつ。何十年かたった遺骸だとわかる。昔の殺人事件だ。

戦時中、そのあたりの地下通路みたいなところで遊んでいた子供たちのグループがあった。当然今はみな老人の彼ら、この事件のために一度集まってその頃の話をする。小学校の同窓会みたいなことに。

担当刑事は、そんな昔の事件、今さら探っても犯人もとっくに死んでいるだろう、とやる気があまりない。本の後半で事件担当者が代ってから始めて捜査は進展する。

ただこの小説で重要なのは捜査ではない。読者は誰が犯人か冒頭で知ってしまっているから。それよりも、別々の生活を送っていた元・子供たちの関係に変化が起こる様子が描かれる。

焼けぼっくいに火がついて昔のガールフレンドに走ってしまうアランとか。70代のじいちゃん、なかなかやるな、じゃなくて、大丈夫かおい。半世紀作ってきた家庭が崩壊しちゃうよ。

奥さんはその相手を知っているので怒り狂う。

「若い女ならまだしも、なんであの女!」(殺意が・・・)

今どきの老人、ひ孫もいるのに、元気ですからね。

それからもうひとり、犯人の息子で、冷たい親の存在をずっと重荷に感じて生きてきたマイケル。亡き妻だけを思いつつ、自分の子供たちとはあまり深く関わらないできたが、贅沢な老人ホームに住むもうすぐ100歳の父(相変わらずいやーなおっさん)と数十年ぶりに会って、だんだん心境が変化していく。

途中で亡くなってしまう人も出るのは仕方ない。事件の全貌がわかる前に証人がボケてしまっても困る。時効というものはないが、時間との戦いかも。

自分の中に歴史を抱えた老人たちの内面が書かれて、人間そう変わるものでもなく、やっぱり悩みも苦しみもあり、でもいつまでも「成長」の可能性はあるものだと気づかされる。老境で明晰な頭を保っていたレンデルだからこそ書けたのだろう、深みがある。

アランに捨てられた妻ローズマリーの立ち直りっぷりもすばらしいです、痛快。そして最後に事態が収束をみたとき、人間関係が変化し、人の位置が変わっていたりする。それもまた人生。

今とは違うイギリスの昔の話も面白く読めた。だいたいみんな最初の恋人と若くして結婚し、そのまま添い遂げるのが普通だった。わりと短期間でがらっと変わるものですね社会って。

 

 

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ミーガン・アボット『You Will Know Me』

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You Will Know Me (Tpb Export)
You Will Know Me (Tpb Export)

Glen Erik Hamiltonお勧めの現代の「ロマン・ノワール」のリストの中で読みたい作が2つ、前回は図書館で別の作品に行きついちゃいましたが、今度はちゃんとAmazonで買った。

アメリカの作家Megan Abbott(1971-)による『You Will Know Me』、2016年作。

これは面白い。体操の天才少女とそれを支える両親の話だが、ひとりだけ突出した存在があるために家庭が緊迫し、アンバランスな状態のままどんどん圧がかかってくるのがリアルに感じられる。

3歳のときから体操を始めたデヴォンは最初から異彩をはなち、群を抜いていた。見る見るうちに上達する。

体操の経験はない両親のエリックとケイティ夫婦、娘の成長が嬉しくて、全力でサポートする。トレーニングに週何日も通い、レベルの高いジムに移し、必要な設備を新設するよう資金集め運動をし、地方の大会に出場させ、もう家なんか抵当に入れちゃう。デヴォンの下に弟もいるが、科学好きのこの子がおとなしいのでほとんど放置。

もう町とその周辺では並ぶもののない選手になった15歳のデヴォン、周囲の期待も集め、オリンピックを目指す資格を得るために猛練習中。

ところがそんな時に、交通事故がおきる。ジムの従業員の、ハンサムで気さくな青年ライアンがひき逃げで亡くなった。ジムの女子たち(とお母さんたち)の半分以上があこがれの目で見ていた人気者の彼は、コーチのひとりヘイリーの恋人だった。ヘイリーはジムのカリスマ?コーチであるテディの姪でもある。ジムは大揺れ。

心の中では(もうすぐ大事な大会なのに、ろくに練習にならなくて困るわ)としか思えないケイティたち。しかしその事故から、ジムだけでなく、友人関係、家族の間もおかしくなる、あるいは隠していたものが暴かれ、見ないようにしていたものが見えてきて・・・。

その中で娘を守ろうとあらゆる手段を尽くそうとするケイティとエリックの夫婦、しかし二人の間にも秘密がある。そして15歳の娘が本当のことを言っているかどうか。

というサスペンスに満ちた緊迫したストーリー、先が気になって350ページを2日で読んだ。

オリンピック選手になるのはどこでも大変だが、アメリカだとまず国の代表になる競争が熾烈だろう。お金もかかる。過酷だなー、と知らない世界を垣間見て興味深い。

ミーガン・アボットはこれが8作目、伏線の貼り方も巧妙、うまい。犯人はわかっちゃいますが、ポイントは心理バトルでしょう。ハラハラした。

アボットは日本では初期の2作ほど翻訳されているようです。

そろそろロシア語(巨匠とマルガリータとか)にもどる予定。その前にポアロを1つ読もうかな。

 

 

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マーガレット・メイヒュー『Dry Bones』

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Dry Bones (A Village Mystery)
Dry Bones (A Village Mystery)

週末にするレギュラーの仕事を入れて3ヵ月。そのわりに土日遊んでいるが、その場合は遊んだ後で夜に働いてるのです。けっこう疲れる、ということで木曜日に休暇をとって一日ダラダラしてみた。オンライン図書館で電子書籍を借りて読む。

しかも本当は書評欄で見たTom Bouman『Dry Bones in the Valley』が読みたかったのになくて、検索で出て来たこれを借りたという適当さ。

Margaret Mayhewの『Dry Bones (A Village Mystery)』、読みやすいコージー・ミステリ。Village Mysteryシリーズは退役軍人でColonel(大佐)と呼ばれているヒューが、奥さんに先立たれてから移り住んだ田舎で出くわす事件を描いているようだ。

この『Dry Bones』では、フロッグス・エンドという村でコテージに住み、ガーデニングを始め、居ついた野良ネコのサーズディ(=木曜日)と平和に暮らす大佐が、手紙を受けとる。

亡き妻の友人コーネリアは金融界の大物と結婚して裕福な生活をしている。田舎に大きな地所を買って大改造中。ところが困ったことがおきた。夫は海外出張で相談できない、お願いだから屋敷に来てほしい。というのだ。

信頼できて口が堅く、判断力がある大佐、いろんな人から頼られるタイプ。公明正大でもある。なのでコーネリアの敷地内で改装されている大きな納屋の床に埋まっていたものを見て即座に、

「これは隠匿できるものではない。警察を呼ぶべきだよ」と告げる。

事態は殺人事件の捜査に発展するのにまだ、「息子の18歳の誕生日に大がかりなパーティを企画しているんだから、それまでに納屋が完成しないと困る」という心配しかしないコーネリア。担当の刑事さんはあと8か月で定年退職、その後に育てたいアヤメ品種のことで頭がいっぱい。

何となく気になる大佐は村人に会って話を聞き、しだいに事件の真相に近づいていく。

のどかで風光明媚なイギリスの田舎、生まれてからずっとそこに住み続ける人もまだいるが、人の出入りもある。新参者が来て(コーネリアのように)古い建物をモダンに改築してしまったり、昔からの店を同性カップルが引き継いだり、21世紀の変化は訪れる。

変らないのが田舎のゴシップ。誰かが電車でロンドンへ行った、なんてことが即座にみんなに知れ渡ってしまう。大佐は「地元のKGB」なんて呼んでいる。けっこう怖い。

事件の被害者が判明してからは、アヤシイと思われる人がわんさか出てくることになる。被害者の素行が悪かったため、同情もされないのは気の毒。

田舎の魅力と恐ろしさを軽めに書いて、そこまで深刻にならないところがコージー・ミステリだ。お茶やお菓子も美味しそうだし。

でもやはり、素行が悪くなってしまった被害者にも理由があるので、みんな冷たい、とも思う。大佐はできる限りのことをして、好感の持てる人物だ。最後は、長い間家を空けていたためにニャンコが家出してしまったと連絡があり、すっとんで帰ったのがまた彼らしい。

たぶんこのシリーズはもう読まないかもしれないが、休日にぼーっと読めて楽だった。ロシア語もこのくらい楽に読めるようになりたいが、あと何年かかるのやら。

明日からまた仕事だ。

 

 

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マリアム・ペトロシャン「The Gray House」(Дом, в котором…)

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The Gray House
The Gray House

ひとまず英訳を読了、アルメニア人マリアム・ペトロシャン(Мариам Петросян、1969〜)のロシア語小説、2009年出版«Дом, в котором…»。訳すと「The House in Which...」だが、英題は「The Gray House」。

ロシア語版は1000ページにもなる。英語は単語が短いためか800ページ以下になっている。それでも長い。が、最後まで予測がつかず、驚きながら読めた。

↓ロシア語版表紙はこんな感じ。

«Дом, в котором…» 2009

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どこかの町のはずれ、「灰色の家」と呼ばれる寄宿学校が舞台。生徒は体のどこかに障がいがある。「隣人を助ければ、向こうも君を助けてくれる」なんていうスローガンぽいものがそこらじゅうに貼ってある。生徒たちは助けあっているが、「家」の奇妙な伝統に従ってもいる。本名でなくあだ名が通用し、寮の部屋を共有するグループがオオカミのパックみたいなものを作って階層社会になっていたりする。

みんなに嫌われている「雉」グループのクリールシク(Smoker)くんが、自分の寮の部屋からおん出されるところから始まる。(英語で読んでロシア語のオーディオブック - Исполнитель: Игорь Князев, Музыка: Cirque Du Soleil — Quidam и Andreas Vollenweider — Book of Roses , а также Tony Scott — Music For Zen Meditation - で追いかけると、あだ名がぐちゃぐちゃになって誰が誰やら混乱、とほほ)

大人しい雉グループに合わなかった彼は、「ロード」と呼ばれる学校一の美少年(脚が悪い)や、両腕がなくて義手をつけた頭のいい「スフィンクス」なんかと同じ第四室で生活を始める。そうそう、最高のリーダーの「Blind」もいる。

架空の世界が完全に構築されていて、じょじょに慣れていくとすっかりそこにはまる。しかもその世界にはまた別世界への隙間が開いているようで、ずるっとそっちにはみ出している。

何しろ学校だから登場人物が多い。「家」での生活の詳細、昔起こった出来事、クリールシクの一人称から別の人物中心の三人称へと交代と、ついて行くのが大変。少年も少女も象とか人魚とかユニークなあだ名に個性も強く、混同はしない。カウンセラーの先生もあだ名だ。「ラルフ」だけど本名じゃないw

彼らにとって「家」が世界であって、そこで小さな事件から中くらいの「病棟送り」とか、大きないざこざがある。しまいに闘争とか。たまに死人も出る・・・ひええ。

そして卒業=出ていかなければいけない時も来る。生徒たちはそれぞれの将来への決断をせまられる。

芸術家の多い家に生まれてアニメーションの仕事をしているペトロシャン、十代のころに得た構想を10年以上かけて書いた。出版にこぎつけるまで数年、でも出た年に「ボリシャヤ・クニーガ(大きい本)」賞の読者特別賞を受賞した。今のところ8か国語に翻訳されている。

本の雰囲気とついはまる面白さ、美しさを説明するのは難しく、「読んでみて」としか言えないような作品だが、日本だと上中下3冊になるだろうし、あんまり売れなそうだし出版は無理かなー。

たまにメールで連絡しているオリガ先生に「今この本読んでます」といったら、

「あなたは本当に変わってるわ」と誉めて(?)くれた、ははは。

後はロシア語で読了しなくては。いつ終わることやら。

 

 

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マーガレット・アトウッド『The Penelopiad』

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The Penelopiad: The Myth of Penelope and Odysseus (Myths)
The Penelopiad: The Myth of Penelope and Odysseus (Myths)

前回はちょっとふわふわした主婦の話だった。今度は20年も夫の不在に耐えた妻、ギリシア神話のあの方。Canongate社の神話シリーズで、実力派アトウッドが、ホメーロスの叙事詩『オデュッセイア』以外の史料も調べまくって書き上げた短めの1編「ペネロピアド」。

スパルタ王の娘ペーネロペーは、イタケーの王オデュッセウスの妻となる。夫はほどなくトロイ戦争で遠征に行き何年も家(城ですが)を空ける。実は戦争が終わった後で神話的冒険にまきこまれ、怪物と戦ったり、女神さまに気に入られてちやほやされてたりしていた。

その間一人息子を育てつつ城を守るペーネロペー、国の乗っ取りを狙って求婚者がわんさか100人以上やってきて、城に居座ってしまう。勝手に宴会を開くなど傍若無人な彼らにしつこく迫られてある計略をめぐらしたのは伝説のとおり。

最後にとうとう帰ったオデュッセウスが求婚者を殺してめでたし?だったのか?

この本は落着いたトーンのペーネロペーの語りで始まる。もうとっくに死んで、地下の薄暗い国にいる。肉体はないから、生きていたころにあんなに悩み、苦しかった記憶とは距離ができている。淡々と、やや突き放したように事実を語っていく。

彼女は美貌だったが、アンラッキーなことに従姉妹にヘレネーがいた。あの、トロイア戦争の元になった、ゼウスの娘と噂される傾国の美女。部屋に彼女が入って来たら、男の顔は全部、そっちに向いてしまうという人だ。ペーネロペーの結婚式ですら、男性ゲストはみんなヘレネーばっかり見ていた。

しかもヘレネーけっこう意地悪で、「年がら年中男に追いかけられるのは疲れるわー。いいわねあなた、そんなことないでしょう、そのご面相じゃ」とか言う。はははは、女に嫌われる女。このビッチ(笑)が夫のいる身で美男のパリスと駆け落ちしたためにトロイア戦争が起こって夫が遠征に出るはめになったのだ、実に腹立たしい。

もう死んでしまっている気安さから、本音が語られる。ずーっと音信不通で自分をほったらかした夫も、生意気に育ってしまって手に負えない息子テーレマコスにも、冷静な目を向けている。

そしてギリシア悲劇風に、コロス(合唱隊)の声も入る。これはペーネロペーの腹心のメイド12人で、帰還をとげたオデュッセウスに処刑されてしまったのだ。

身分が違うために、ペーネロペーに頼まれてしたことで不運に遭い、それを糾弾された形だ。12人は理不尽な運命を恨みがましく歌う。彼女たちに声を与えたのもアトウッドらしい。

「ギリシア神話版『デス妻』」と言っているレビューがあって笑った。言えているかも。皮肉な語りにダークなユーモアがあって、楽しめる。

和訳も出てます。

ペネロピアド (THE MYTHS)
ペネロピアド (THE MYTHS)

 

 

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アン・タイラー『Ladder Of Years』

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Ladder Of Years
Ladder Of Years

図書館のオンライン・サービスで電子書籍も借りられるが、当然パラパラめくって見られないから、けっこう意外な出会いがある。

アメリカ作家Anne Tyler (1941〜)の『Ladder Of Years』(邦題は「歳月のはしご」)、途中で

「え、これ古い話?」と思ったら、1995年の作だった。

ヒロインは主婦のディーリア。ある日ふらっと家出してしまう。海辺でホリデー中にヒッチハイクで別の町へ。

医師の夫を支えて事務仕事をこなしながら家族の世話をしてきた。子供たちは上が大学生、一番下が15歳で、小さいころはママ、ママいっていたのに最近は一人で育ったような顔をして母を軽く見ている。旦那さんも特に愛情表現してくれない。というより、亡き父のものだった医院を受け継ぎたいために自分と結婚したのかも?という疑惑がおきて、何だか面倒くさくなって衝動的に出て来てしまった。

田舎町でボロな貸部屋を見つけ、秘書の仕事を見つけ、新しい生活を作っていく。タイプやファイリングは得意だ。ここでコンピュータやワードプロセッサーが出回り始めている頃だとわかる。どうりで携帯電話も出てこないわけだ。

三人姉妹のうち父に特に可愛がられ(ディーリアの名前はコーディーリアの略称、あはは)、父が手元に置きたがったために医院の仕事を手伝うようになった。その後は医師として雇われた夫と結婚、一度も外で働いていないディーリアが、40歳になって初めて自立したような気分になる。

でも本名使ってるし、そのうち家にばれます。

「少し別な空気を吸うといい」と夫は迎えに来ない。

そのうちディーリアは新たな職を見つける。奥さんに逃げられたシングルファザーの家の住みこみ家政婦。すっかり生意気になった自分の子供たちと違って、そこの家の12歳の少年が可愛い!

美味しい食事を作って家族の要求を満たし、家の中心となって動く、という、手慣れた仕事をこなす。結局向いているんですね。友達もどんどんできて、1年で生活が落着く。

でも元の家はどうする?

ものすごく悩んだ挙句の家出でもなく、住処も仕事もすぐ見つかるなど、軽めに書かれ、出てくる人達も悪人はいない。

もやもやして自分でもどうしたいのか意識できていないヒロインの探しものは何なのか、考えながらたどっていくような感じ。

アメリカの田舎町の様子が珍しくて面白く感じた。みんなすぐ友達になるんだけど、そういうものなの?

ディーリアさんのような人は、親世代にはけっこういそうだし、今もいるだろう。大人しいお母さんを便利に使って粗末にしていると、いつか出て行っちゃうかも。旦那の立場の人も読むと良い本では、なんて思った。

 

歳月のはしご (文春文庫)
歳月のはしご (文春文庫)

 

 

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ジョン・マグレガー『Reservoir 13』

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Reservoir 13
Reservoir 13

4月に出たJon McGregorの新作『Reservoir 13』。13号貯水池?大き目のハードカバー336ページ、ゆっくり読んだ。

イングランド中部の田舎が舞台。クリスマス時期に休暇で来ていた都会の家族の13歳の娘が行方不明になった。両親とウォーキングをしていて、少し距離が空き、あれ、いないなと思ったらそれっきり。村人たちも総出で捜査するが、手がかりなし。

近くに車道もあるから誰かに連れ去られたのではないか。貯水池や水路に落ちたのではないか。家出か。

捜査は長引き、何週間も、何か月も続くが進まず、そのうち月が年になる。

村人たちも気の毒だと思うし何とかしてあげたいが、自分たちの生活というものもある。仕事はしなければならないし、家族の用事もある。普通の暮らしを取り戻したいと思うが、いつもうっすらと、事件の影がさしている。

だんだん記憶がうすれていっても、完全になくなることはなく、その間にも高校生だった子供が大学生になり、老人はさらに老い、子供が生まれて夫婦の仕事に変化がおきたり、事業がうまくいかなくなったり、様々な人生が、季節と共に進行し、さらにキツネの仔が産まれて穴から出て来たり、ツバメが規則正しく帰ってきたりする。

登場人物が大勢で、それぞれ人間としてありがちな問題や喜びを味わって生きている。淡々と、自然の流れの中に埋もれるように書かれていて、いろんなことが起こっているが、何も起きていないようでもある。

読者としては(レベッカちゃんは見つかるのかいな)と思って読んでいるが、新たな動きもほとんどなく、判で押したように新年の花火、サマータイムの開始、夏、サマータイム終了、クリスマス・・・と何度もサイクルが繰り返されるうちに、(まあダメなんだろうな)という気分になってくる。そちらへの関心が薄れて来る。気がつくと本の中で、13年も経っていた。

人間がいなくなることは時々あり、解決しないこともある。家族にはもちろん巨大な穴が開くが、その周囲の社会も変化せずにはいられない。この村のようにお互い昔から知っていてわりと関係が密な共同体だと、全体として影響を受け止める。

精密に構成された交響曲のようだ。合唱つきかも。それぞれのパートが奏でる音が合わさってひとつの世界を作っている。

すごい作品だ。二十代のデビュ―から注目されていて、若い作家と思っていたマグレガーも40歳、凄みが増しております。

 

 

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ジョアンナ・ヒクソン『First of the Tudors』

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First of the Tudors
First of the Tudors

陰惨系ミステリが続いたので、ちょっと一休み、軽めの歴史もの。図書館の電子書籍をブラウズし、ダウンロードしてみた。iPadを防水カバーに入れ、風呂につかりながら読む♪

といっても薔薇戦争当時の話、やっぱり血なまぐさい。

イギリスでは15世紀に対立するヨーク家とランカスター家が中心となって権力争いが続き、30年もめた挙句にランカスター派のヘンリー・チューダーが即位、ヨーク家のお妃を迎えてやっと騒ぎがおさまった。

Joanna Hicksonの『First of the Tudors』は、そのヘンリー王が生まれ育つ間、親代わりとなって守った叔父ジャスパー・チューダーが主人公。

彼の父でウェールズを拠点とするオーエン・チューダーは一介の下級貴族。でもヘンリー5世の未亡人キャサリン妃と秘密に結婚してエドマンドとジャスパーという息子をもうけた。当時の王ヘンリー6世がこの2人を、自分の異父兄弟だとして格上げしてくれる。

リッチモンド伯となった兄エドマンドは、大貴族の令嬢マーガレット・ボーフォートと結婚、その子ヘンリーは王位継承権を持つことになる。

実は次男のジャスパー、ひそかにマーガレットが好きだった。まだ12歳の彼女を気づかって兄に、実質的な結婚は少し待ったらどうか、なんてアドバイスするが、わがままな兄が聞くわけもなく(ロリだったのか?)、マーガレットは13歳のお産で死にかける。しかも肝心のエドマンドは子供が生まれる前に敵の捕虜になり、表向きは疫病ということで死んでしまった。

ローティーンで未亡人になったマーガレットは周囲がさっさと政略的再婚を決め、子供は義弟のジャスパーに預けられることになる。

激動の時代に兄の子ヘンリーを王にすべく、ジャスパーは彼を守り、教育する。マーガレットと結婚できれば良かったが、兄の妻だった人とはきょうだい関係となり、それは無理。

まあ彼女のことは「憧れ」として、ジャスパーには気の合ういとこジェーンがいた。でも、ジャスパーたち兄弟だけが上級貴族になったため、そこらへんの農場の娘と同等なジェーンとも結婚できないらしい。いろいろ気の毒。

小説はジャスパーの語りとジェーンの語りが交代しつつ進む。ジェーンはジャスパーとの結婚を諦めて事実婚、というより愛人?関係となり、正式には認められない子供を産んで、その子たちといっしょに後のヘンリー7世の面倒をみる。政局の都合でジャスパーはしばしば身を隠し、外国に逃げたりしなければならず、その時にはひとりで待つ。手紙は信頼できる人に託して、届くよう祈る状況、2人の愛情は試され、鍛えられる。

戦国時代のラブストーリーとして新鮮に読めた。ジャスパーもジェーンも、自分のことよりつい人の面倒を見てしまう気のいいところがお似合いだ。そしてマーガレットは、さすがに生まれながらの貴族、政情を理解した上で、離ればなれになっている息子を思い、「何がなんでもうちの子を王にする」と固く決意している。

話はヘンリーがまだ十代、国が落着くには程遠いところで終わっている。続編はもう出たのかな。そのうち(見つけられたら)、バスタイムに読もう。史実ではジャスパーに庶子がいたのは正しいが、中年以後にクラスの合う貴族と結婚もしているようです。

↓わたしの薔薇戦争の知識はほぼBBCドラマ『The White Queen』で仕入れたもの(笑)。リチャード三世を下す最後のバトルでヘンリーをサポートするジャスパー。本の雰囲気と合っている。著者は違うんですが。

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Tom McKay

 

 

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アーナルデュル・インドリダソン『湿地』をロシア語で

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アイスランドのミステリ、アーナルデュル・インドリダソンの『Mýrin』(2000年、和訳の題が湿地)をロシア語で読む。「Трясина」――泥沼ですね。

捜査官エーレンデュルなど主要登場人物は、前に読んだ「緑衣の女」と同じ、時間的にはそれ以前の話ということで、 エーレンデュルの娘のエヴァは意識を失う前。ヤク中で、妊娠した、金よこせ、とお父さんに要求したりしている。困った娘だ。

レイキャビクのアパートで見つかった老人の死体。頭に殴った痕がある。灰皿?3つの単語のメモが現場に残っていた。

例によって緻密に捜査していくエーレンデュル。被害者が昔、不起訴にはなったが女性への暴行事件を起こしてたことをつきとめる。被害を届け出た女性も、その後生まれた子供も数年後に死んでいた。

エーレンデュルはこの女性の周辺や、死んだ老人の元友人たちなど、丹念に聞き込みを続ける。必要とあらば子供の墓まで暴き、老人のアパートの床も掘り返して真実に迫る。

ここでアイスランドの遺伝子事情がキーになる。島国で人種的にほとんど純粋に保たれているアイスランドは、人口もわずか30万人あまり。遺伝子の研究に便利な国なのだそうだ。そのため先端の研究が進んでいる。この作品は2000年のものだが、国民ほとんどの遺伝情報の調べがついてしまっているという設定だ。

つまりデータベースにアクセスできて調べ方がわかる人間には、どんなに隠しても親子関係も遺伝病のルーツもわかるのだ。

「自分さえ黙って墓場まで持っていけば」バレない秘密などないということですね。

これほど殺人の被害者に嫌悪感を抱き「○んでしまえ」(もう死んでるが)と思い、犯人に同情する話はない。後半雨ばっかり降っている天気の悪さも、陰鬱な雰囲気を増幅する。

暗いが、エーレンデュルと若い部下との世代のギャップなど、笑えるところも少しはある。「ガラスの鍵賞」受賞作。

しかしそろそろ、もうちょっと明るい小説を読みたくなってきた。

和訳:

湿地 (創元推理文庫)

動画サイトに2006年のアイスランド映画『Mýrin (Jar City) 』(Baltasar Kormákur監督)があった。言葉はさっぱりわからないが、荒涼感がすばらしい。主役はElinborg、その部下シグルデュルオーリ(イケメン)がSigurdur Oliという綴りだと覚えた。アメリカに舞台を移したリメイクも作られているようだが、アイスランドの風景のほうが絶対に良いと思う。

↓スクリーンショット

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