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「ワーニャ伯父さん」by モスクワ・ワフタンゴフ劇場 in ロンドン

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Сергей Маковецкий

ノエル・カワード劇場でロシア語版『Дядя Ваня』(ワーニャ伯父さん)観てきた。

監督 - Римас Туминас
音楽 - Фаустас Латенас

<キャスト>
Серебряков -- Симонов, Владимир Александрович
Елена Андреевна  -- Дубровская, Анна Анатольевна
Соня -- Бердинских, Мария Игоревна
Войницкий Иван Петрович -- Маковецкий, Сергей Васильевич
Астров -- Вдовиченков, Владимир Владимирович

当然ながら観客のロシア人率が高かった。わたしの座ったバルコニー席の周りはざっと見たところ25%以上な気がする。
上演前の「携帯電話のスイッチをお切りくださいetc」のアナウンスもロシア語・英語の順で、気分が盛り上がる。

幕が上がると、まず舞台が殺風景なのに驚く。
19世紀ロシアの田舎のお屋敷らしいところがまったくなく、どこのいつとも分からない空間に、DIYの作業台みたいなものがガランと置かれ、抽象化されている。サモワールすらない。

そしてお芝居は、すばらしかったです。
登場人物が全員面白い。97歳の女優さんが演じる乳母役の老婆も強烈だし、端役の居候で時々KYな発言をするテリョーギンですら、ちょっとチャップリンめいたグロテスクな存在感がある。

もちろん主役級はみんな芸達者。

教授がすごかったなー。ふつうは気難しいお年寄りという役どころ、この教授はパワフルだ。頑丈そうなガタイで頭もしっかりしている。
なんか愛嬌があって、
「フィンランドに小さな別荘を買おうと思うのだ」というなんでもないセリフで、”フィンランドに・・・”というその言い方だけでなぜか笑ってしまう。ロシア人もイギリス人も日本人(わたし)も笑っていた。すごい。

教授の妻エレーナは妖しい魅力。声が低めなのが色っぽい。
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Анна Дубровская

ソーニャに親切に「わたしがドクターの気持をうまく聞きだしてあげるわ」というのは、彼と二人きりになる機会を作るためだったようだ。

そのエレーナとひそかに相思相愛のドクター・アーストロフはスケールが大きすぎて破綻してアル中。仕事に追われて田舎で立ち枯れていくのが惜しい。

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Владимир Вдовиченков и Мария Бердинских

ドクターをずっと好きだったのに大失恋するソーニャは、ハイパーで十代の少女のようだ。走り回りぎゃーぎゃーうるさいソーニャって珍しいが、恋する十代ならおかしくない。
片思い歴6年てことは11、12歳のときから好きなのか、ませてるわね。
一世一代の恋に破れてもうチャンスがない、という原作の印象はなく、まだ未来がありそう。彼女が希望をしょっている。

若いソーニャに
「がんばって生きていきましょう。時がきたらおとなしく死んで、天国でむくわれるように。その時ゆっくり休みましょう」
と励まされる、人生終った(と思っている)ワーニャ伯父さん、セルゲイ・マコヴェツキーは名演。
優しく思いやりがあって、人のために働いてきたのに、失われた歳月はもうとりかえしがつかない。コミカルなところもずるいところも含めて愛すべき人物に描かれていた。

音楽もよかった。いくつかの曲が、場面のムードに合わせ人物に合わせて、入れ替わり変化し、たまには混ざり合ったりする。
哀愁おびたトランペットのソロ、もの悲しく可笑しいワルツに、寄せてくる波のような静謐な愛/美のテーマ。
最初は背景にずっと音楽が流れているのはどうかなと思ったが、慣れるとともに好きになり、クセになってくる。作曲家のFaustas Latėnasは1953年リトアニア生まれとのことです。

劇中ドクターが、「100年後、200年後の人は、おれたちの人生を見てどう思うだろう。みんな今より幸せになっているんだろう」というようなことを言う。
今がざっと100年後だが・・・とりあえず先進国なら47歳で人生もうやり直しがきかないってことはないけれど。地球全体はどうなのか。人間、進歩しているのか。
チェーホフは200年後の人にまで問いかける劇を作ったんだな、と思う。

さすが、チェーホフと交友関係もあった俳優ワフタンゴフの名を冠した劇場。不条理劇のさきがけとして楽しめる「ワーニャ伯父さん」だ。

劇場のサイトをチェックしたら、有料だけどオンラインでパフォーマンスを見ることができるようだ。今月末、モスクワに戻った彼らをもう一度見せてもらおうかな〜。



Театр им. Евг. Вахтангова Дядя Ваня


| ろき | 演劇・ダンス他 | comments(4) | - |
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Comments:
題名のイメージから、もっとほのぼのとした話だと想像していました。
こんなややこしい人間が幾重にももつれてるのね。
読まなくて良かった。

「天国で休息するのを楽しみに、黙々と働いて死んでくれる」人民って、政治家にとっては理想の姿ですねぇ。
...あれ、日本人のこと?

* B * 2012/11/10 9:34 AM
Bさん、ぐちゃぐちゃしております。
基本は喜劇とはいえ、もの悲しい。
人のためになんて働いちゃいかんなー、と思います。
ろくなことがありません。

計算すると、ソーニャが中年になったころ革命来ますね。
領地が国有化されちゃうかも。
いろいろと行く末が心配な登場人物たちです。
* Loki * 2012/11/10 6:32 PM
ロシアづいてますねー(前からでしょうか)。チューホフというとウディ・アレンを思い出し(本によるとファンだったはず)、結構面白いのかしらー?と思ったりします。買ってみましょうかしら。ロシア、ちょっとだけ興味がありますけど、あちらは大抵の時期が寒そうですね。
ちなみに以前、「イギリス人は天気の悪さを嘆くけれど、ロシアに行ったらどうすんだ」みたいなことを書いたら、「イギリス人は政治や宗教の話を避けるために、差し障りのない天気の話をするんだけど…」って返事されたことがあるような。なるほど、そういやそうかも…と思いましたです^^;ハハ。
って、このブログからのネタだったら申し訳ないです〜(笑)。
* ミス真狩村 * 2012/11/11 6:24 PM
ミス真狩村さん、ロシア文学はすごいです。特に19世紀が。
ナボコフによると「チェーホフを嫌いなやつにはろくなのがいない」らしい。
ナボコフに言われてもアレですかね。

ロシアにとって天気は文句をいうのではなく、闘う対象な気がする。

イギリスの天気はぱっとせずよく変るのが、世間話にしやすいのかな。
* Loki * 2012/11/12 7:38 AM
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