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ハンス・ファラダ『Nightmare in Berlin』

JUGEMテーマ:読書

Nightmare in Berlin (Fallada Collection)
Nightmare in Berlin (Fallada Collection)

先週から突然、ベルリンに行きたくてしょうがない。ドイツ語圏で訪ねたのはオーストリアのみ、ドイツ行ったことないんですよね。

たぶん読んでいたこの本の影響と思われますが。

ハンス・ファラダ(Hans Fallada、本名 Rudolf Ditzen, 1893 - 1947) の「Nightmare in Berlin」(『Der Alpdruck』―悪夢―の英訳)、終戦直後1947年に出版、彼の死の年でもあった。

作家自身と重なる部分の多い、作家のドール博士が、ドイツの敗戦直後に味わった辛酸が描かれている。

知識人のドールは、もちろんヒトラーなんか大嫌いだったが、作家仲間の多くのように外国に逃げることをせず、ドイツにとどまった。お陰でスパイにつけ回されたり、さんざん嫌な目に遭う。そして1945年5月、ついにドイツが降伏、終戦。やっと解放されたかと思いきや、さらなる悪夢が始まることになる。

ドールはベルリンから疎開して地方の町に住んでいる。ソ連軍がやってきて、彼は町長に任命され、元ナチス党員の摘発で事情を聴く(尋問ですね)など面倒くさい役割を押しつけられて、住民には嫌われる。その過程で朋友のはずの住民たちのずるさ、ドイツ人がドイツ人を騙して利己的に得をしようとする、そのあさましい姿にがっくりするドール。しょうがないよね、敗戦で何もないんだから。みんな生きていくだけで精一杯、人心は荒れる。

やっとベルリンに戻ったが、ドールも若い妻のアルマも病気にかかり、しばらく療養生活を余儀なくされる。ドールの広いフラットには知らない人が住みついている。夫婦が療養している間に住所登録の期限があったらしく、彼らの家は持ち主がいないとされて、お役所が人を入れてしまったのだ。食料配給のチケットをもらおうとしても、住所証明がないと出せないといわれる。ホームレス状態、八方ふさがりだ。ドールもアルマも、モルヒネ中毒になってしまう。

空襲の恐怖からは解放されても、敗戦国は悲惨だ。

日本はドイツより3か月も無駄にがんばってしまったけど、同じようなものだったのだろうと思う。東京は焼け野原と表現されたが、ベルリンは瓦礫だらけ。

食料不足で闇市が栄えたのはどっちの国も同じ。人の冷たさを思い知らされて、ドイツはもう駄目か、と思ったり、そのような中でも少ない食料や衣類を分けてくれ人もいて、やはり人の心には善があるのだとありがたく感じたり、でもその直後にまた裏切られたり、すっきりとはいかない。

一番困難だったのは、何か書こうとする意欲を取り戻すこと。自分の国とその国民に絶望してしまって、自らもヤク中。やる気が出ない。

文学仲間が救いの手を差し伸べてくれても、依存症から抜け出すのは難しい。後半では、一進一退のドールの再生が描かれる。

ぶち壊れたベルリンで、終戦のその日から、瓦礫を片づける人、レンガを積む人たちはいた。みんな同じように、ほとんどすべてを失った人たちだ。しばらくすると出版が始まり、劇場も再開する。コンクリートの割れ目から芽を出す植物のような不屈の一般人の姿が、ドールを勇気づけた。

本当に終戦直後の、作者の体験が生に出ている作品で、寝ても悪夢、覚めても悪夢な日常がリアルに描かれている。

イギリスも空襲を受けたし、戦争のころは「食べ物なかったー」と言っているが、やはり敗戦国の悲惨さは比ではないですね。

だいたいの人は日々の生存だけで精一杯のところ、知識人ならではの、人間の本質に対する疑いのような深い悩みに襲われるドールが、最後の方では希望を持ち始めるのが救いでもある。作者は終戦2年後に亡くなってしまったが。

英訳が出るまでに70年近くかかり、去年出版された本。何やら”戦前”の雰囲気を醸し出している不穏な昨今、大事な作品かと思った。

とっくに立派に再生したベルリンに行きたいな〜。今年は初夏の演劇フェスティヴァルで「三人姉妹」をやるみたいなんだけど、チケット取れるかしら。

 

 

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| ろき | word, word, word(読書) | comments(6) | - |
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Comments:
先日、テレビで
ベルリンで終戦を迎えた日本人医師(研究者)の肥沼医師が
戦後、発疹チフスが大流行した東ドイツで
患者を献身的に診て
自身も発疹チフスで命を落とした話をしていましたよ。
敗戦ドイツは大変だったでしょう。
知識階級は打たれ弱いからもっと大変。
なんだか世界が不穏な雰囲気になっていますが、
戦争になったら、すぐに人類は滅亡してしまうのではないかしら。
* はむはは * 2017/02/10 8:08 PM
地震などの災害と違って、戦争は人間が引き起こすものだから、犠牲者はやり切れないですね。
被害は物心ともに広範囲で、何代も続くことがあるし。
なんだか無責任にことを起こしそうな政治家が(誰とは言いませんが)いて、心配です。

ハンス・ファラダって「あべこべの日」を書いた人ですよね。
長いこと文庫本を持っていたけど、最近手放してしまいました。
* B * 2017/02/10 9:05 PM
はむははさん、そんな立派な人がいたんですね。
戦後、それも東独、大変だったでしょうね。
目の前に患者がいて、することがいっぱいなお医者さんは、体力的にきつくても、精神的にはましかもしれません。
考えるのが仕事の人は・・・きつい。

まっ、滅亡するときゃしますよね。人類が初めてでもないし。とはいえ惜しいですから、なるべく回避しないと。
* Loki * 2017/02/11 1:47 AM
Bさん、自分はナチスに反対だったのに、流れを変えるなんてことはできず、敗戦すれば「同じドイツ人として責任がある」と言われる。参りますよね。日本もそうだったですが。
同じような過ちを繰り返し、しかも破壊力は大きくなっているのが心配ですね。

「あべこべの日」、児童文学なんですね。読んだかな・・・記憶なし。ナチスが台頭してきた頃の作品と思って読むと、別の見方ができるかも。
* Loki * 2017/02/11 1:55 AM
ドイツは敗戦国同士で痛みを分かち合える国だと思う。
何となく日本人と気質が合う感じはします。

Lokiさん、多分肌に合うのではないかと思います。
チケットが取れるといいですね。


* Kiki * 2017/02/11 8:37 PM
Kikiさん、1066年以後本国では負けていないイギリスには、時にむかつくことがあります(笑)。
チケット売り出しは4月なので、取れたら準備が忙しいですね。
ドイツに行ったら信号守らなくちゃー。
* Loki * 2017/02/12 5:00 AM
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