<< アントニー・ゴームリー展@ロイヤル・アカデミー | main | ヘレン・シャルフベック展@ロイヤル・アカデミー >>
アゴタ・クリストフ「悪童日記」(ロシア語版)

JUGEMテーマ:読書

161019-1

<Толстая тетрадь> Кристоф, Агота

邦題「悪童日記」(1986年) 、なぜかこれ、子供のころに読んだような気がしていたけど、未読だった。きっとトンマーゾくん(だったかな?)みたいな笑える悪ガキものと混同したのだろう。

原作は亡命ハンガリー人の女性作家アゴタ・クリストフ(Agota Kristof、1935 - 2011)がフランス語で書いた『Le Grand Cahier』。子供が書いたという設定ということで、文章が簡単かと思い、ロシア語訳で読んでみる。

最初は思った通り読みやすかったが、電子書籍版にはこの話の続編、日本語の題だと「ふたりの証拠」(1988年)、「第三の嘘」(1991年)も入っていて、ふつうに難しかった!

“でかいノートブック”の「悪童日記」の方は、戦争中、「大きな町」から「小さな町」に疎開してきた双子の少年たちが書いた日記。ジャーナリストの父は戦場に行ったきり、首都は空襲がひどくて食料もなく、母に連れられて国境近い町の祖母に預けられたのだが、この母娘、折り合いが悪かった。

「お祖母ちゃん」は魔女と呼ばれ敬して遠ざけられている存在。夫(双子の祖父)を殺したなんていう不穏な噂もある。そのせいか家を出てから一度も帰省していなかった母が、他にあてがなくて泣く泣く頼ったのだが、急に出てきた孫を可愛がらないどころか、殴りながらこき使う婆ちゃんだった。母が子供のために都会から送ってきたものはインターセプトして市場で売り払ってしまう。おそろしい。

最初のころ泣いていた少年たち、泣いても無駄だと悟るとサバイバルのための技術を開発し出す。まず「大きいノート」に文章を書く。文句言わず働く。殴られても痛さを感じないよう鍛錬する。
「痛くない」「痛くない」といいながらお互いを殴る。スパルタだ。とても頭が良いこの双子、能力のすべてを尽くして生きのびる。その中で立ち回り方、生き方も学んでいく。

戦争中で誰もが余裕のない時代、でも人助けをする心のある人もいる。駐留している将校や兵士に助けてもらったり、逆に自分たちより弱い立場の人を助けたりする。その一方で、心は鋼鉄のように硬く鍛えられる。最後は肉親の死を利用して自由を得るまでに。人間の本質が見えるようだ。

どこの国とも何の戦争とも書いていないし、双子の名前さえわからないのが、かえって普遍的な、戦時ならどこでもありそうな話に思える。作者はハンガリー人なので、戦争中にいた軍(当時は枢軸国だったから味方)がドイツ人で、戦後に入ってきた支配者がロシア人と想像するが、それも決めなくてもいいことだ。(それにしても、陸続きで大国にすぐ攻め入られちゃう立場って本当イヤ、怖い)
もっと早く読んでおけばよかったと思う傑作だ。
が、その続編がまた意外な方向に行く。

「ふたりの証拠」では、双子のうち国境のこちらに残った方のリュカ(やっと名前がわかる)が少年から青年になり、戦後の新しい世界を生きていく。
さらに「第三の嘘」では国境を越えた方のクラウスを主役に置く。

その中で、最初の「ノート」に書かれていたことの真偽が怪しくなってくる。そもそも双子だったのか??まで疑問が生じたりして、いろいろひっくり返る。ええっ、何だったんだ。足元をすくわれる感覚が非常に不思議な続編。
第二次世界大戦でドイツ、その後ソ連にいいように翻弄されたハンガリーの「いったい何だったんだよ!」という恨みが感じられたりする。

ハンガリーで映画になったそうで(2013年『A nagy füzet』、Szász János監督)、見てみたい。

トレイラーではハンガリーそのものな感じです。将校はドイツ語喋ってるし。必死で探したという主役の双子、なかなか良い面構えだ。

 

 

 

.

| ろき | word, word, word(読書) | comments(4) | - |
スポンサーサイト
| スポンサードリンク | - | - | - |
Comments:
これ、読んだことないけれども、
むかし、話題になりましたね。
悪さする双子の話だと思っていました。
いろいろ複雑なのね。
戦争って、一番犠牲になるのは子供たちよね。

確かに、いい面構えだわ〜。
* はむはは * 2019/10/18 6:29 PM
はむははさん、衝撃的な作品ですから、話題になったでしょうね。わたしはボーッとしてて気づかなかった。邦題「悪童日記」って、誤解があるかも。

大人の起こした戦争で迷惑かけられる子供たち、不憫です。

子役だから将来わからないけど、このままいったら凄いイケメンX2ですね。
* Loki * 2019/10/18 8:51 PM
Lokiさん、こんにちは。

この三部作、日本語訳が出たばかりの頃に読んで魅了されたのを覚えています。

この著者、スイスに亡命してから、自分にとっては外国語であるフランス語でこの作品を書いたのですよね。
それって、ものすごい気力がないと、できないことだと思います。

内容は衝撃的でしたけど、中でも、記憶に残ったのは、おばあさんのライフスタイルの粗暴さ、野蛮さ、不潔さです。
文化果つる田舎の人間って、こうなのか(もっとも、戦時中のことですけど)、と驚きました。

でも、テレビのドキュメンタリー的な番組などを見ると、東欧の田舎って、今でも、トイレが母屋とは離れた畑の中にあったりして、生活のインフラがまるで整っていないのですよね。
真冬なんて、それが凍り付くのですから、普通の生活をするのも、本当に大変です。

そんな中でも、とにかく生き延びようとする人間の強い意志というのが、鮮烈な印象になっています。

そういえば、ハンガリーって、ついこのあいだ、シリアなどからの難民が通り過ぎる時に畑のものなどを勝手に盗み食いされるのはもうごめんだと言って、通行禁止にしちゃいましたよね。
悲しいことだけど、大陸の中で他国と地続きの国っていうのは、いつも、そうやって越境者に踏みにじられながら存続してきたんですね。
* みか * 2019/10/31 3:38 PM
みかさん、こんにちは。
この三部作、衝撃的ですよね。ハンガリー人がフランス語で書くのは、文法が根本的に違う言語なので大変そう。

そうそう、おばあさんバッチイ。「風呂に入れてやってー」と、読んでいるうちに体がかゆくなってきます。彼女はかなり「変わり者」の部類とは思いますが、こういう生活も現実にあったのかも。

「勝手に通っていくなー!」と怒りたくもなるでしょうね。ハンガリーって海がない国ですものね。
* Loki * 2019/10/31 9:28 PM
Comments: