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死都ブリュージュ(ロシア語訳で)

JUGEMテーマ:読書

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The abandoned city, Fernand Khnopff, 1904

ベルギー人作家ジョルジュ・ローデンバック(Georges Rodenbach、1855 - 1898年)による有名な中編『Bruges-la-Morte』(1892年)をロシア語訳で読んでみた。ロシア語だと「Мёртвый Брюгге」(死んだブリュージュ)、和訳でも「死都ブリュージュ」と、”死んだ”はブリュージュという街にかかっている。森茉莉さんだけが、「死んだ”女”よ!」と主張していた記憶があるが、世界的に多勢に無勢のようです。

主人公ユーグはベルギー北部のブリュージュに住む裕福な中年紳士。3年前に愛する妻を亡くしてから全く希望を失って引きこもりがちに暮らしている。妻の部屋は生前そのままに保ち、長い金色の遺髪を眺めては涙する毎日。灰色のブリュージュの街をあちこち散歩するくらいしか外に出ない。

ところがある日散歩の途中で、妻に瓜二つの若い女性を発見する。10年間自分を幸せにしてくれて、亡くなったときまだ30歳そこそこだった妻の若いときのような優しい美しさ。もちろんつけ回して素性を確かめる。彼女、ジャーヌはオペラ劇場で踊るバレリーナだった。

何とか話しかけ、親しくなることに成功したユーグ、ジャーヌに別宅をあてがって住まわせ、バレエは辞めてもらう。亡き妻のドレスを彼女に着せ、「なにこれ、10年前の流行じゃない?超ウケる」(とは言ってないが、そういう感じ)と笑われたり。

(やっぱり妻と違う)と思う。当たり前だろう、何を考えているんだ。

そのうちジャーヌは暇をもて余して遊び始める。顔はそっくりでも、中身は別の人間、しかも彼の記憶の妻よりずっと浅くて軽い人格、と思いながらも離れられないユーグ。狭い街のこと、彼の「別宅の女」は世間の知るところとなる。カソリックの信心深い街の目が厳しい。長年ユーグに仕えてきた老家政婦ロザリーは真面目なので、「旦那さまがそんな女を自宅に連れて来るようなことがあったら、職を辞さなくては」と思っている。

そしてよりにもよって街の大事な宗教行事「聖血の行列」の日(イースターから40日目の木曜日にあたる昇天日に行われる)、旦那がどのくらいお金持ちなのか見てみたいジャーヌが無理をいってユーグの自宅を訪れ、見てはいけないものを見て、悲劇が起こる。

主人公の心を反映するように暗く灰色のブリュージュの町並み、問いかけるように鳴る教会の鐘の音、重い空気感が的確に描写されていて詩的だが、彼の身勝手さは同情の余地はない。だいたい「妻のよう」と思ったのに別宅に囲って家に入れないのが最初から格下扱い、それで自分の思うように動いてくれることを願うのは失礼だ。妄想が激しすぎ、元々年の離れた奥さんのことも、人間としてというより、ただお人形のように可愛がっていただけなんじゃ、と疑ってしまう。

ブリュージュ市民は「死んだ街って、どういうこと?(怒)」と気を悪くしたそうだが、この作品は多くの芸術家を刺激、オペラも映画も作られ、クノップフも名画を描き(一番上の写真)、街の宣伝になっているから許してやってほしい。

映画版ではRoland Verhavert監督の作品『Brugge, die stille』 (1981年)がある。

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<Cast>

Idwig Stéphane: Hugues Viane
Magda Lesage: Blanche Viane / Jeanne Marchal
Chris Boni: Rosalie

実際の街の様子も映像で見られてきれい。奥さん=ジャーヌ役の女優さんはピンと来なかったが、ユーグ役のイドヴィグ・ステファーヌが原作のイメージにぴったり。

映画ではジャーヌは心から好きでバレエを踊っているのに、別宅で大人しくしていることを要求される。ユーグのエゴで若い女性のキャリアも人生も壊されたことが、さらにはっきり描かれている。80年代っぽい。

寒い時期のブリュージュに行ってみたくなり、ユーロスター利用で近々訪ねてみるつもり。この作品はフランス語だが、ブリュージュではオランダ語が優勢のようで、挨拶くらい覚えて行こう。イギリスより寒そう。雪で電車が止まったりしませんように。

 

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| ろき | word, word, word(読書) | comments(8) | - |
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Comments:
何年か前の夏休みにブリュージュに行ったのですが、「死都」なんて感じはまったくなく、花がいっぱい咲いている小さな可愛い街でした。
雨の日とか霧の日、冬とかに行くと違う印象になるかもしれないですね。
森茉莉が正しいですね。

ブリュージュに行ったらボートにでも乗ってみてください。
* Coco * 2020/01/07 12:49 PM
「死都ブリュージュ」ですか、寡聞にして知りませんでした。
森茉莉さんの愛読書なんですね。
妻に瓜二つの若い女性をいいようにするおっさんですか。
困ったものですねぇ。

冬のブリュージュでお風邪など召されませんよう。

オランダ語もですか。
ろきさん、どんだけ言葉が話せるの〜。
英語、ロシア語、フランス語、ドイツ語。あ、日本語。
尊敬〜。
* はむはは * 2020/01/07 8:12 PM
Cocoさん、ブリュージュにいらしたんですね。夏は一段ときれいだろうな。町並みが世界遺産ですものね。

森茉莉さんに1票ですか。わたしも実際に行ってみて考えてみます。

真冬でもボートに乗れるかな。楽しそう。
* Loki * 2020/01/07 10:01 PM
はむははさん、森茉莉さんのお気に入りで、いつか読もうと思っていました。ロシア語で読んで邪道ですが〜。

おっさん、ダメダメです。でも小説として雰囲気がきれいで良い。
ホッカイロ(みたいな商品)持参で行こうっと。

そんなに喋れませんよ、挨拶だけ。耳がいいので発音は良いけど、それでは会話が続かないですよね。
* Loki * 2020/01/07 10:07 PM
裕福な家に生まれ、好きな玩具は何でも買ってもらえた子供がそのままおっさんになり果てたのですね。

亡くなった妻の遺髪を眺めて泣くなんて、心の病みぐあいと女性の愛し方のズレっぷりが察せられる。
妻が若死にした原因は夫ストレスだったかも。

題名は「死都ブリュージュ」の方がいいでしょうね。
「死んだ女」で読む気になるかというと、ちょっと。…
* B * 2020/01/09 8:41 AM
Bさん、そんな感じですねー。

ただ優しい美しい妻だったという抽象的な話だけで、生前の奥さんの言動が全く書かれていないのも不思議。ーー夫源病だったかもですね。

死都はかっこいいんですよね。
「死んだ女」の場合、複数形になるのでは?(ちょっとネタバレすんません、フランス語文学だし読まないよね?w)
* Loki * 2020/01/09 8:14 PM
本と映画のご紹介有難うございました。ロシア語で読書なんて素晴らしいです。ブルージュって行ったことないですけど明るいイメージでした。
ユーロスターGood luckです。私はユーロスターでパリに年に2、3回は行くのですがこれまでトラぶったことがなかったのに去年はフランスの税関ストで北駅でひどい目に合いました。ブルージュは大丈夫だと思いますが。イギリスもそうですがヨーロッパで電車が定刻通りに出発到着するとなんてラッキー!と思えませんか?
* Tomoko * 2020/01/11 12:50 AM
Tomokoさん、実際は、特に観光の目玉になっている最近は、明るくチャーミングな街だと思います。
冬は寒いかもですが(ユニクロの腹巻していく)。
わたしもユーロスターは一度遅延があった程度で今までラッキーでした。フランスは昨今ストがきついですよね。ベルギーは、たぶん大丈夫。
5分くらいの遅れなら「On time!」と言い切ってしまう人たちだから、しょうがないですねw
* Loki * 2020/01/11 6:50 AM
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