2016.04.30 Saturday 07:22
JUGEMテーマ:読書
The MirrorRichard Skinnerは知らない作家、図書館の新着本コーナーで見つけた。初版は2014年、中編の『The Mirror』、『The Velvet Gentleman』が収められている。
裏表紙に、1編が1511年のヴェネツィアを舞台にしているとあったので手に取ってみたもの。先日展覧会を見たジョルジオーネが亡くなった翌年だ。
そうしたら本当に彼に関係があったのでちょっとびっくりした。本人ではなく、その弟子が登場するのが『The Mirror』。
ヴェネツィアの女子修道院で修業する見習いのオリーヴァは16歳。もうじき一人前の修道女となる儀式―キリストとの結婚式―を控え、緊張したり悩んだりしている。
地震のシーンから始まるのが何かの前兆のようだ。
修道院長の肖像が描かれることになり、画家が招かれる。ただし院長はいつも忙しいから、歳は違うが顔が似ているオリーヴァが代わりにモデルになることを命じられる。
亡くなったばかりのジョルジオーネの直弟子だったという画家、制作に必要だといって鏡を持参。修道院の一室でオリーヴァを描きはじめる。
修道院育ちで男性と口を聞く機会もほとんどないオリーヴァは、派手な服装の若い画家の前に座るのが気づまりだ。彼女の気持ちが読めるように、「もっと違う人生があるんじゃないの」みたいなことを言ってくる画家。
ほとんど子供といっていい見習い修道女の語る院内の生活が清貧で、読んでいると気分がいい。
ただ、教会の上の方からの締めつけが厳しかったり、女子修道院の立場の弱さもわかる。そこで修道女たちを守ろうとしている院長は立派な女性。しかし院内では人間関係の軋轢や、オリーヴァの親友オッタヴィアの駆け落ち脱走など、波風もけっこう立つ。
夜のお仕事をしていただろう母に赤ん坊のころ修道院に捨てられたオリーヴァは美貌だ。誘惑に負けずに修道女になれるかなあ、と思って読んでいたら、ラストは思わぬゴシックホラーな展開でびっくり。面白い。文章も美しくて、硬い宝石のように締まった中編。
次の 『The Velvet Gentleman』は舞台ががらっと変わる。
語り手はエリック・サティ(1866 - 1925)、そう、あの作曲家。しかも死んだ後。
気がついたら駅みたいなところにいる。
案内係り?のタカハシさんがやって来て、ここは次の段階へいく途中駅です、1週間かけて、来世に持って行きたい思い出をひとつ選んでください、と言う。
飛行機の手荷物より厳しい、思い出一個限定。
どれにするか。自分の生涯を思い起こしはじめるサティ。駅で同じように待っている人と話してみたり。
サティって1866年生まれだったんだ。(ビアトリクス・ポターさんと同年)
もっと後の時代のような気がしていた。「家具の音楽」とか「ヴェクサシオン」とか、なんと斬新な。しかも59歳の若さで亡くなったんですね。
彼の作曲家としての道のり、ドビュッシーやラベル、ピカソなど芸術家たちとの交友が回想される。
サティの人となりは知らないので、語りが彼らしいのかはわからない。やや淡々としすぎて単調な感じがする。それが味わいなのかな。
さて彼はどの思い出を持って行こうと決めるのか。
この話の設定は是枝裕和監督の『ワンダフルライフ』(英題:After Life)のプロットをそのまま借りた、と作者が述べている。思い出の映画を作るところもいっしょ。
「まだ見ていない方、ぜひ見てください」だそうです。はい、そのうち。
リチャード・スキナーは詩やノンフィクションも書く作家で、フィクションはこの本の前にマタ・ハリを描いた『The Red Dancer』があるそうだ。
.
⇒ Loki (03/28)
⇒ B (03/28)
⇒ Loki (03/25)
⇒ はむはは (03/25)
⇒ Loki (03/25)
⇒ coco (03/25)
⇒ Loki (03/20)
⇒ B (03/20)
⇒ Loki (03/19)
⇒ はむはは (03/18)