北欧ミステリ2冊追加

JUGEMテーマ:読書

北欧ミステリをロシア語訳で読む、一石二鳥?で邪道なロシア語勉強法を続けています。

アルヴテーゲンは例によって「人体デッサン」ポーズの表紙、しょうがないな。

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2003年の作品『Svek』、裏切り、ロシア語でも「Предательство」。

三十代のエーヴァとヘンリックには幼い息子がいる。在宅勤務の夫が保育園の送り迎えも含め、かなり家のことをしてくれるので、バリバリ働いているエーヴァだが、最近夫が冷淡だと感じていた。ついにある日、彼の浮気を発見してしまう。

しかも相手は許せない立場の身近な女。悩んだ挙句、エーヴァは大胆なイヤガラセ行動に出る。ばれたら問題だけど、大丈夫かな。

彼女に協力者が現れる。悩んでいたときにバーで出会った青年ヨーナスだ。意識不明の恋人が亡くなるまで毎日見舞っていたこともある献身的な、しかしどうも思いこみの激しい彼、エーヴァに同情し、頼まれもしないのに勝手に独自の方向に走っていく。善意のストーカーみたいなものでしょうか。

エーヴァの行為による波紋とヨーナスの暴走がからまって、事態はどんどん悪い方向へ。

これもまたそれぞれの登場人物の心理が的確に描写されていて、同じ場面を両方の立場から書いていたりもし、よく理解できるとともにおそろしい。結末はちょっと納得いかないが、映画などにすると本当にぞーっとする衝撃のラストとなることだろう。

次はアイスランド作家にいってみた。

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アーナルデュル・インドリダソン(1961-)、北欧ミステリの「ガラスの鍵賞」を受賞したという『Grafarþögn』(2001)。和訳の題は「緑衣の女」、ロシア語題だと「Каменный мешок」=石のバッグ、牢獄のことだそう。英題は「Silence Of The Grave」。

レイキャヴィク郊外で人骨が発見され、考古学者と警察が呼ばれる。骨はかなり古い。現場の住宅造成地には、第二次大戦時にはイギリスやアメリカ軍の基地もあった。警察チームを率いるのはエーレンデュル刑事。急いで仕事をしようという意識がまるでない学者に手を焼いたりしながら、地道に捜査していく。

それと並行して、60年前のある家での暴力が描かれる。外では気さくで働き者の父親が、家では妻に毎日肉体的・精神的暴力をふるっている。幼い子供が3人、なすすべもなくそれを見ている。発見された骨は、当然この家族の誰かなんだろう。

一方仕事の外では、エーレンデュル刑事の娘、エヴァ(ヤク中で妊娠中)が意識不明の重体になっていた。娘の母とは離婚して疎遠。エーレンデュルは暇さえあれば病院に行って反応のない娘に語りかけ、仕事では現場近くに住んでいた人々に聞きとり調査、事件の真相に迫っていく。

謎解きミステリとしてはそれほど凝っていない。骨の正体は誰でも推理できると思うし、最後は事情を知っている人が現れてあっさり種明かしをする。

ただ「ドメスティックバイオレンス」というものを何とかしようという意識とか、シェルターなどもなかった時代の、人の魂を殺す暴力が克明に書かれている。読んでいると黙って殴られている方にも腹が立ってくるが、あまりいじめられていると精神も壊れるから、反撃どころか、正常な判断ができなくなるんだよね。一番可哀そうなのは子供だ。

暴力をふるう本人も、何かの理由で辛くて暴れている。近い将来にはうまく治療できるようになるんだろうか。「昔はこんなのも治せなくて悲惨だったんだね」と思う時代になってほしい。そうそう、ついでにアルヴテーゲンのヨーナスのストーカー気質も治してやって。

話は重いが笑える場面もあり、プライベートで難問をかかえたエーレンデュルにも興味が持てる。次を読むとしたら、少し丁寧に、英訳にしようか。

 

和訳:

 

裏切り (小学館文庫)
裏切り (小学館文庫)

 

緑衣の女 (創元推理文庫)
緑衣の女 (創元推理文庫)

 

 

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ロイヤル・アカデミー、ロシア革命期のアート展

JUGEMテーマ:アート・デザイン

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Борис Кустодиев
The Bolshevik, 1920
Oil on canvas. 101 x 140.5 cm, State Tretyakov Gallery, Moscow

今年はロシア革命から100年。ロイヤル・アカデミーで革命からソ連初期のアートを集めた展覧会が開催されている。

Revolution: Russian Art 1917–1932
(11 February — 17 April 2017)

ボリス・クストーディエフの絵がゴジラみたいですが・・・。

1917年、第一次大戦で疲弊していたロシア帝国で国民の不満が爆発、二月革命でロマノフ朝のニコライ二世が退位。10月にはレーニン率いる元・ロシア社会民主労働党の多数派・左派のボリシェヴィキが労働者の武装蜂起を先導して臨時政府を倒す。これでソヴィエト(評議会)に権力が集中した。この後内戦を経て、1922年にソ連が誕生。

アートとのかかわりでは、初期段階では革命に賛同する芸術家も多く、新しさを追求するアバンギャルドが活発になる。

しかし20年代になるとソ連政府はこうした活動を批判しはじめ、例の、農場や工場のたくましい男女が真面目な顔をしている”社会主義リアリズム”を推奨、芸術家受難の時代となる。1932年にはスターリンが、社会主義リアリズムだけが真の芸術だと宣言した。乱暴だ。

一方で革命の宣伝、プロパガンダとしてのアートも盛んに制作される。1917年から32年にかけての、幅広いロシアの芸術が集められ、絵画だけでなく映画や彫刻、陶磁器も見られた。

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Isaak Brodsky. Lenin in Smolny

イサーク・ブロツキーは社会主義リアリズムの波にのって成功した画家。

一方、カンディンスキーは最初のころレーニンには認められたが、だんだん居心地が悪くなり、スターリンが権力を握る前に逃げ出した。

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Wassily Kandinsky, Blue Crest (detail), 1917
Oil on canvas. 133 x 104 cm

画家として市民として、どう生き延びるか、考えて行動することは必須だ。

初めて見たイーゴリ・グラーバリの風景画。

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Igor Grabar, By the Lake, 1926

彼は後に社会主義リアリズムの絵を描かされます(好きだったのかも?)。

アリスタールフ・レントゥーロフ(Аристарх Лентулов)はアバンギャルド派、舞台美術なども手がけた。色がロシアらしい。

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Aristarkh Lentulov, Tverskoy boulevard, 1917

激動の時代に、自分の芸術と向き合い、何を考えて制作していたのか、それぞれの芸術家たちに聞いてみたい気がする。延々と愚痴を聞かされたりして。

カジミール・マレーヴィチと、クジマ・ペトロフ=ヴォトキンの作品にはそれぞれ1室与えられていた。

ペトロフ=ヴォトキンはイコン画家として修業した人、透明感ある色の重ね方にそれが現れている。

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Kuzma Petrov-Vodkin, Fantasy, 1925.

Oil on canvas. 50 x 64.5 cm

この人のは、静物画なども美しかった。

絵画以外では、陶器も、他では見られない題材が。

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なんかこういうの、欲しいかも(笑)。特におじいちゃん、赤いルバーシカがナイス。ロシアの蚤の市なんかで掘り出し物として発見できないかしら。

最後の方の部屋では、スターリンの「大粛清」で逮捕された人々の写真が1枚ずつ映される映像が流れていた。名前と職業、いつ逮捕、どうなったか(銃殺、釈放、収容所内で病死、病気で収容所を出される、などなど)という情報と、写真だけ。

見ているともうランダムで、訳がわからない。詩人(オシップ・マンデリシュタームがいた)からエンジニア、主婦、会計士、元兵士、教師etc. なぜ逮捕されたのか。処置も、ある人は1週間後に銃殺、別の人は5年後に銃殺。釈放してからまた逮捕を繰り返した人もいる。理解できない状況で処刑された人達、無念だったろう。

生まれる場所・時代をちょっと間違えば、誰でもこういう目に遭う可能性はあるわけですよね。

いろいろ考えさせられた。ここに画像をはった作品は中でもきれいなものですが、しょうもないプロパガンダの作品がた〜くさんありましたよ。資本主義の豚の支配するイギリスにももうじき革命が起こるであろう、みたいなマンガとか。それも歴史的価値があるし、色彩感覚や構図は、大胆ですばらしくセンスが良い。食料配給チケットまで斬新なデザインだった。

会場にはロシア人がけっこう来ていた。なかなかまとめて見る機会もないし、貴重な展覧会だ。

 

 

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『Dancer』

JUGEMテーマ:映画

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バレエ・ダンサーのセルゲイ・ポルーニン(1989 - )を追ったドキュメンタリー映画。ロンドンとの中継で、映画の後に本人のパフォーマンスとインタビューもついた企画。

Director: Steven Cantor
Stars: Sergei Polunin, Jade Hale-Christofi

ウクライナ共和国(ぎりぎりソ連)生まれのポルーニンは13歳でロイヤル・バレエ学校に入学、2009年には史上最年少の19歳でプリンシパルに出世して活躍、なのに2012年1月、突然退団して騒ぎになる。不良ダンサーと呼ばれたりした。映画はその頃から撮影が始まり、5年かけて完成したもの。

彼の退団は驚いたが、わたしは「ん〜、反抗期?」なんて軽く考えていた。本人の悩みは相当深かったことを知った。

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ウクライナの田舎町で生まれたセルゲイ、赤ちゃんの時に彼の体をチェックしていた看護師さんが、股関節がどこまでも開くのでビビったそうだ。最初から並外れて柔軟だった。小さいころから体操教室、その後ダンスのクラスへ。

(この地方都市に息子の未来はない)と考えていたお母さん、バレエの道で行けそうなセルゲイと共に首都キエフに移ってバレエ学校に(ザハロワも通ったところ)。そこでもやはり、どのクラスでも一番できるセルゲイを見て、外国に出そう、と決意したそう。孟母三遷。

彼の才能は最高の場所を要求した。けれど家の経済力はそれに見合っていなくて、お父さんはポルトガルに、お祖母さんまでギリシアに出稼ぎに行ってセルゲイの留学を支える。

英語も話せない状態で学校に入ったセルゲイ、家の期待にも応えたく、人一倍練習した。が、離れて暮らしているうちに家族は壊れてしまう。父と母が離婚。まるで自分のせいみたいに。あんまりだ。

子供のころからの映像も入れながら、ただ楽しいだけだった踊りが重く、若い体にのしかかってきた過程が描かれ、急にキレたようにロイヤルを辞めたのも、ついに限界だったように思える。

その後はロシアで、テレビの若手ダンサーのコンテスト番組(大バレエ)に出るところから始めたとは知らなかった。スタニスラフスキー&ネミロヴィチ=ダンチェンコ劇場で良いメンターと会い、コンテンポラリーも踊り、新たなキャリアを築きつつある。

特異な才能を持った人の苦悩というものが、ちょっとは理解できるような。随所に挿入される踊りの場面の彼は、どの段階のどの役でもすごい。

YouTubeで1900万回近く再生されている『Take Me to Church』も映画の中で見られる。

ロンドンの会場では映画の後にポルーニンが出て来てこれを踊り、その後Q&Aに答えた。インタビュアーや会場の聴衆からだけでなく、ツイッターからの質問にも答える。

これからも踊ってくれますか、というファンの問いに、最近やっとまた踊りが楽しくなってきたので、これからも踊るだろうとのこと。

母世代の女性からは、子育てについての質問も。それには、「バランスが大事だと思う。才能があるなら伸ばしてあげるといいが、本当に子供が好きでやっているか確認して」と答える。でも母に厳しくバレエをさせられなかったら、

「犯罪者になってたかな〜」とぼそっと言っていた(笑)。

自分が苦労したことから、若いダンサーの精神的なサポートも含めたマネジメント・システムを作っているところだと言う。過去から学んで何かをつかんでいるところが立派だ。

「映画も好きなようですが、バレエにしてみたい映画ってありますか?」と聞かれ、

「えーそれは難しい質問。わからないな」と言ってから、「・・・ランボー?」とつぶやいて笑わせてくれた。それだけはやめて。

まだ27歳なのに、かなり悟りをひらいたように見える彼、さらに大物になってバレエでもそれ以外でも活躍することだろう。

ドキュメンタリーは日本でも夏に公開のようです。

 

 

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水曜デッサン会(先々週)

JUGEMテーマ:アート・デザイン

忙しいのにまたアルヴテーゲンを読んでしまい(今度は「裏切り」)、いろいろ時間がない。ロシア語訳で読むのは坂道を上るくらいの負荷がかかって、面白くないと辛い。が、彼女の作は疲れも感じず読み続けられるので助かる。

そんな訳でアップを忘れていた、前回の水曜デッサン会。先週は行けなかったのできっと先々週だ。

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ArtRage, iPad mini.

モデルはテリーおじさま、お久しぶり。

クイックポーズではA3スケッチブックに、イングリッシュ・ナショナル・バレエのワークショップでウォーミングアップに使った、赤と黒のペンを2本いっしょに握って二重線になる描き方を試してみた。ぐちゃぐちゃになった(笑)。

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ArtRageを使うのも久しぶり。先日、電車から朝の空を描こうとして中途半端になっていたものを、背景に流用。

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先にあった背景の色に影響されている。色を濃くしてみようかな。後でコピーを作って加工できるのがいいです。

最後の20分はポートレート。

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顔は難しいです。

先週はデッサン会の代りに、ダンス公演のリハーサル風景を描く会に参加しようとしたのだけれど、その日はすごい強風。線路にいろんな物が落ちて電車が遅れ、時間までにたどり着けず諦めたのでした。特別企画だったのに残念。

春の嵐には逆らえません。またの機会に。

 

 

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アルヴテーゲン「影」(Тень)

JUGEMテーマ:読書

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なんか前回のもですが、デッサン教室のモデルみたいな表紙のロシア語版。

またロシア語訳で読んだ、カーリン・アルヴテーゲンの「Тень」(影=原題『Skugga 』、2007年作。

ひっそり亡くなった孤独な老女イエルダ。その身辺の後始末と葬式の手配などのため、役所の職員が、数少ない連絡先にコンタクトをとる。そしてイエルダが、ノーベル文学賞を受けた高名な文学者アクセル・ラグナーフェルトの家で長年家政婦をつとめていたことがわかった。

卒中発作の後で体が麻痺し、今では寝たきりのアクセル。

息子のヤン・エリックは創作はせず、いわば父の威光で講演会やチャリティ・プロジェクトを運営して名士となっている。妻ルイザとの仲はすっかり冷めているが、父が書いた遺書の縛りで離婚できない。

そしてアクセルの元友人で久しく疎遠になっていた作家や、孤児として養父母の元で育った三十代のクリストファーも連絡をうけた。

前半はそれら登場人物の個人的な状況がていねいに語られて、ストーリーがぜんぜん進まない。Kindleで読んでいると、47%済んだけどまだ〜?みたいな(笑)。それでも投げだす気にならないのは、作者の筆力だろう。気になって先を読みたくなる。

そのうち、子供のころ可愛がってくれたイエルダの写真でもないかと探したヤン・エリックは、家族の過去にまつわるとんでもない証拠を発見

また、親を知らないクリストファーは、面識のなかったイエルダがなぜ自分を知っていたのか、両親についての手がかりがないか、と調査に動き出す。

それから話は加速し、ヒューマニズムを追求した作家であるはずのお父さんのヘタレな過去に、ヤン・エリックが留学中に交通事故で亡くなったと聞いた妹の死の真相など、やばい真実が出てくるわ出てくるわ。

過ちを隠蔽するためにまた重ねる過ち、追いつめられての最悪の判断ミスが人を巻きこみ、読んでいても頭をかかえたくなるほどの混迷が明らかになってくる。

「影」とは尊敬され人を導く立場であった作家の隠していた真っ黒な部分であり、また偉大な父に常に前をふさがれていた、影の中にいたヤン・エリックの象徴でもある。救いはあるんでしょうか。

エンディングはあいまいさを残し、特に明るくはない。無理矢理、希望を見出そうと思えばできるかな。

フツーの人=家政婦さんの死がこんな破壊力を持つとは。デビュ―から5作目、アルヴテーゲンの筆が冴えている。壮絶な作品です。

日本語版:

影 (小学館文庫)
影 (小学館文庫)

 

 

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空振り「アンナ・カレーニナ」

JUGEMテーマ:日記・一般

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一応記録しておきます・・・見られなかったけど

ロンドンのプーシキン・ハウスで、モスクワ・ヴァフタンゴフ劇場のダンス版「アンナ・カレーニナ」の中継録画上映会でした。

Режиссер-постановщик -- Анжелика Холина
Сценография -- Мариус Яцовскис

<CAST>
Анна Каренина -- Ольга Лерман
Алексей Каренин -- Евгений Князев
Алексей Вронский -- Дмитрий Соломыкин
Степан Облонский (Стива) -- Валерий Ушаков
Дарья Облонская (Долли) -- Мария Волкова
Екатерина Щербацкая (Кити) -- Екатерина Крамзина

主役オリガ・レルマンは1988年バクー生まれ、女優だがバレエは本格的に習っていた。旦那のカレーニン役は有名俳優のエヴゲーニー・クニャゼフですね、あまり踊らない役かな。

土曜日にモスクワからライブ中継、翌日の日曜に再上映ということで日曜にしたが、まずたどり着くまでが大変だった。日曜によくある保線作業のため、電車の代わりに1時間バス輸送、その後電車に戻って30分でロンドンへ。バスだといつもと景色が違って面白いけれど、時間がかかる。無駄に早起きしなければならなかった。

あとは順調な地下鉄で無事プーシキン・ハウスへ。大英博物館の近く。

ここはロシア文化をイギリスに紹介する拠点として、図書館があったり、ロシア語クラスがあったり。展覧会も常時行われているそう。今回初めて行った。

入り口の黒い扉のベルを押して待っていたら、外の歩道で煙草吸っていたおばさまが、

「開いてるから入っていいわよ」とロシア語で教えてくれた。ここはもうロシアか。

なぜ見られなかったかというと、プロジェクターの調子が悪いのかちゃんとつながっていないのか、シグナルが受信できてなかったり、映像が出ても音が出ない。女性スタッフが3人集まって携帯電話で誰かと話しながらいろいろ試していたが埒が明かず、ついに、

「あのう、お客様の中でこのシステムに詳しい方いらっしゃいませんか」と飛行機で急病人が出たときみたいな呼びかけをする始末。「詳しくないけど」と助けを申し出た女性がいたが、やっぱり駄目だった。

会場は40人くらい入れる、大き目の会議室程度の広さ。けっこういっぱいになっていたのに、どうしても機械が動かず、上映会は中止、その場でチケット代金払い戻しとなった。え〜。

「田舎から振り替えバスで来たのに」といったら隣りのロシア人女性が同情してくれ、ちょっと世間話でロシア語をしゃべった。

日曜日の午後3時に暇になってしまった。博物館に行こうかとも思ったが微妙な時間だし、ハーフターム(学期なかばの休暇)だから子供たちで混んでいそう、と面倒になり、画材屋で画材の補給をするにとどまった。

ストレートプレイも野心作が多いヴァフタンゴフ劇場による、バレエとはまた違うモダンな踊り版アンナ、観られなくて残念。でもまた機会はあるでしょう。

ちなみに帰りは線路の工事が終わって、直通電車が復活していた。面白い休日だったと思えばいいか。

<追記>翌日メールが来まして、イベント開催できなかったことの謝罪と、4月に改めて上映会をするので無料で来てくださいとのこと。それに1年プーシキン・ハウスの会員にしてくれるそうだ。図書館で本を借りられるのかしら。ロンドンにはしょっちゅう行けないし、どうしようか考え中。

トレイラー。

 

 

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K.アルヴテーゲン「恥辱」

JUGEMテーマ:読書

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スノードロップが咲いた。春は近い。

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カーリン・アルヴテーゲンの2005年作『Skam』のロシア語訳を読んでみた。ロシア語題は「Стыд」、かなり強い”恥”。

彼女の文体は平明な言葉で複雑な心理をわかりやすく書いているので、ロシア語でもわかるかと思って。大筋は追えたかな〜程度ですが。

ストックホルムに住む2人の女性:

38歳のモニカは医師として成功しているが、十代のころに兄を事故で亡くしている。母子家庭のスターだった兄が死んで自分だけ生き延びたのが後ろめたく、責任があるかのように感じている。日本語訳の「恥辱」よりも、罪悪感に近い。

もう一人は50代のマイブリット、体が不自由でヘルパーに見の周りのことを世話してもらっている。(超肥満のため、というところを読み取りそこねていた。修業が足りない)

美少女であった彼女、宗教的に凝り固まった両親から、お前は教会に役に立つようにと産んだのだ、自分で選んだ相手と結婚なんかもってのほか、と「原罪教育」を叩きこまれて育った。恋をして家出同然に結婚しても、親の呪いから逃げられず、夫とうまくいかなくなり・・・という事情がある。

お互い面識もないこの2人が、ある事故をきっかけに接点を持ち・・・という話。

「それで、殺人はいつ起こるの?」と読んでいたが、最後まで起こらず。あくまで心理的なスリラー。それでも十分ハラハラする展開。

”この事故”が記憶にある”あの事故”のパターンとぴったり一致した、とモニカが思いこんだことから、いつもは理性的な彼女が暴走しはじめる。

その行動を偶然目撃するのがマイブリット。

モニカの壊れ方とその大胆な行動には、こっちまで心拍数が上がります。

子供のころに理不尽に植えつけられた罪の意識の破壊力がおそろしい。植えつけた親も、自分でもどうしようもなかったり、あるいはむしろ子供に良かれと思っていたりするので、単純な糾弾はできないのだが。

最後に多少の救いと平和が垣間見られるので、読後感は悪くない。救いをもたらすのが、現実に本当に「罪」を犯してそれを償っている人であるというのが面白い。

アルヴテーゲンの作はマフィアが出てきてカーチェイス、とかはなく、身近で起こっても不思議はない事件をテーマにしていて、飛躍がないため話がたどりやすい。邪道な読み方で作者には悪いけど、もう1作くらいロシア語訳でチェックしようかと思う。

英訳:

Shame
Shame

ただし後に「Sacrifice」(犠牲)という題に変えられている。

和訳:

恥辱 (小学館文庫)

 

 

 

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スケッチ会・病院(から見た工事現場)

JUGEMテーマ:アート・デザイン

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先週のいつかの日没。ワニの喉に刃物が刺さりそう?

しばらくさぼっていたスケッチ会、今回はケンブリッジの大学病院にできている新棟(研究所かも)の工事を描くというじゃありませんか。たまに電車から見て気になっていた風景。これは参加しなくては♪

当日はどんより、気温は2度くらいで寒い。

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クレーン群も寒そう。

20人以上集まったメンバーに、今回のリーダーのスーザン(仮名)から、敷地内の説明と、当然だけど人の邪魔にならないように、などの注意を受け、「貼るカイロ」をお腹に貼ったところで、誰かが「○〇棟の窓からよく見えるから行こう」と案内してくれた。

ちゃっかり室内の廊下からスケッチ。(上の写真とは違う角度)

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鉛筆と色鉛筆、A3のスケッチブック。1時間以上かかったが、やはり細かいところは根気が続かない。建物は難しいす。

9Fの廊下で描いたのは他に3名ほど。

「おれはこの隣りの棟で2回手術したよ」とか、

「祖母も父もここで亡くなったわー、あはは」という人。わたしも親知らずを抜いてもらったし、友達が入院したこともある。みんなお世話になっているのだった。

直線を描くのが(というか描けないのが)嫌になってきて、下のカフェで人をスケッチ。

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スタバに並ぶ人々。

フードコートの他、食品を売るスーパーも、プレゼントや服を売る店、チャペル、銀行も充実していて何でもそろうようになっている。

昔からの医療器具の展示をしている博物館コーナーもあって楽しかった。

最後は集まってランチをして解散。

それにしてもみなさん、うまいですよね。

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今回のサイトは、1年後にまた訪ねて、出来上がった建物の様子を描くという計画。できちゃった建物を描きたいと思うかなー。って、建築家の人に失礼ですね。行きます、なるべく。

 

 

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ハンス・ファラダ『Nightmare in Berlin』

JUGEMテーマ:読書

Nightmare in Berlin (Fallada Collection)
Nightmare in Berlin (Fallada Collection)

先週から突然、ベルリンに行きたくてしょうがない。ドイツ語圏で訪ねたのはオーストリアのみ、ドイツ行ったことないんですよね。

たぶん読んでいたこの本の影響と思われますが。

ハンス・ファラダ(Hans Fallada、本名 Rudolf Ditzen, 1893 - 1947) の「Nightmare in Berlin」(『Der Alpdruck』―悪夢―の英訳)、終戦直後1947年に出版、彼の死の年でもあった。

作家自身と重なる部分の多い、作家のドール博士が、ドイツの敗戦直後に味わった辛酸が描かれている。

知識人のドールは、もちろんヒトラーなんか大嫌いだったが、作家仲間の多くのように外国に逃げることをせず、ドイツにとどまった。お陰でスパイにつけ回されたり、さんざん嫌な目に遭う。そして1945年5月、ついにドイツが降伏、終戦。やっと解放されたかと思いきや、さらなる悪夢が始まることになる。

ドールはベルリンから疎開して地方の町に住んでいる。ソ連軍がやってきて、彼は町長に任命され、元ナチス党員の摘発で事情を聴く(尋問ですね)など面倒くさい役割を押しつけられて、住民には嫌われる。その過程で朋友のはずの住民たちのずるさ、ドイツ人がドイツ人を騙して利己的に得をしようとする、そのあさましい姿にがっくりするドール。しょうがないよね、敗戦で何もないんだから。みんな生きていくだけで精一杯、人心は荒れる。

やっとベルリンに戻ったが、ドールも若い妻のアルマも病気にかかり、しばらく療養生活を余儀なくされる。ドールの広いフラットには知らない人が住みついている。夫婦が療養している間に住所登録の期限があったらしく、彼らの家は持ち主がいないとされて、お役所が人を入れてしまったのだ。食料配給のチケットをもらおうとしても、住所証明がないと出せないといわれる。ホームレス状態、八方ふさがりだ。ドールもアルマも、モルヒネ中毒になってしまう。

空襲の恐怖からは解放されても、敗戦国は悲惨だ。

日本はドイツより3か月も無駄にがんばってしまったけど、同じようなものだったのだろうと思う。東京は焼け野原と表現されたが、ベルリンは瓦礫だらけ。

食料不足で闇市が栄えたのはどっちの国も同じ。人の冷たさを思い知らされて、ドイツはもう駄目か、と思ったり、そのような中でも少ない食料や衣類を分けてくれ人もいて、やはり人の心には善があるのだとありがたく感じたり、でもその直後にまた裏切られたり、すっきりとはいかない。

一番困難だったのは、何か書こうとする意欲を取り戻すこと。自分の国とその国民に絶望してしまって、自らもヤク中。やる気が出ない。

文学仲間が救いの手を差し伸べてくれても、依存症から抜け出すのは難しい。後半では、一進一退のドールの再生が描かれる。

ぶち壊れたベルリンで、終戦のその日から、瓦礫を片づける人、レンガを積む人たちはいた。みんな同じように、ほとんどすべてを失った人たちだ。しばらくすると出版が始まり、劇場も再開する。コンクリートの割れ目から芽を出す植物のような不屈の一般人の姿が、ドールを勇気づけた。

本当に終戦直後の、作者の体験が生に出ている作品で、寝ても悪夢、覚めても悪夢な日常がリアルに描かれている。

イギリスも空襲を受けたし、戦争のころは「食べ物なかったー」と言っているが、やはり敗戦国の悲惨さは比ではないですね。

だいたいの人は日々の生存だけで精一杯のところ、知識人ならではの、人間の本質に対する疑いのような深い悩みに襲われるドールが、最後の方では希望を持ち始めるのが救いでもある。作者は終戦2年後に亡くなってしまったが。

英訳が出るまでに70年近くかかり、去年出版された本。何やら”戦前”の雰囲気を醸し出している不穏な昨今、大事な作品かと思った。

とっくに立派に再生したベルリンに行きたいな〜。今年は初夏の演劇フェスティヴァルで「三人姉妹」をやるみたいなんだけど、チケット取れるかしら。

 

 

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ロイヤル・バレエ『Les Enfants Terribles』(恐るべき子供たち)

JUGEMテーマ:エンターテイメント

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ロイヤル・バレエの『Les Enfants Terribles』は同名のジャン・コクトー原作(1929年)のバレエ・オペラ。会場はいつものオペラハウスでなく、バービカン劇場だった。

Credits

Director -- Javier De Frutos
Choreography -- Javier De Frutos
Music -- Philip Glass
Designer -- Jean-Marc Puissant
Conductor-- Timothy Burke

-Dancers-
Zenaida Yanowsky
Edward Watson

Kristen McNally, Thomas Whitehead, Gemma Nixon, Clemmie Sveaas, Jonathan Goddard      

-Singers-

Jennifer Davis, Emily Edmonds, Paul Curievici, Gyula Nagy

-Piano-

Kate Shipway, Robert Clark, James Hendry

隔絶された環境で暮らしていた姉弟エリザベートとポールの世界が、外の世界とぶつかることによって崩壊していく姿を描く。

舞台にはオペラ歌手と、ダンサーが混じって存在する。しかもダンサーは、主役の2人を踊るのがそれぞれ4人もいる!ポールが4人、エリザベートが4人。もちろんメインはプリンシパルのエドワード・ワトソンとゼナイーダ・ヤノウスキーですが、他のメンツも常にいる。「まともな人」である友人のジェラールは1人で、語り手をつとめる。彼だけ人格が統一されているということでしょうか。

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ヤノウスキーとワトソン

全員がざわざわ動き回るとかなり忙しいことに。しかも背景に映し出される映像も自己主張する。

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その上、歌はフランス語なので、英語字幕は舞台の上を見ないといけない。幸い話は知っているから、ときどきチラ見するだけにしておいた。上向くとダンサーが見えなくなるんだもの。

この情報量の過剰さが21世紀かも?

想像力にあふれる天才的な美しい姉弟が、繭にこもったように2人だけで完結していたのに、普通の世界と接しなければならない。そこに侵入してくるのは凡庸な、仕事とか結婚とか、ありふれた三角関係だ。硬い宝石のような2人は他人を傷つけるが、お互いも傷つける。悪夢と現実が混ざって悲劇・あるいはカタルシスなラストへ。

コクトーは言葉が大切なので歌を入れるとわかりやすくなる。バレエだけでも表現できたような気もするけど。フィリップ・グラスの音楽は繊細できれいだった。さすがズビャギンツェフ監督の「エレーナ」や「リヴァイアサン」の音楽を作った人。

やはりヤノウスキーとワトソンの強靭かつ細やかなボディの動きが一番の目のご馳走。本当はとっくに”大人”にならなければならない年齢になりながら子供の純粋さと残酷さを保っている異様な姉弟、踊り甲斐がありそう。

今回は戻りチケットをゲットして、前から5列目の真ん中で見られて至福。オペラハウスではなかなかこういう席は取れません。

 

 

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